カフェ・あがすけ4杯目「カチンコ」

 

山形ひるどきラジオ「なにしったのや~?」をお聴きの皆さん、ありがどさまです。柴田でした。

今月もラジオドラマのシナリオを掲載いたします。

お時間ありましたら、読んでみでけらっしゃいなっす。

 

今月の第4話「カチンコ」は眞島秀和さんが出演されています。

売れっ子俳優と柴田の一対一の真剣勝負、柴田の気持ちを想像していただきながらお読みいただければ幸いです。ではどうぞ。

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (4杯目)

 

 

『 カチンコ 』

 

マスター  柴田 徹

客   眞島秀和

              ☆             

脚 本      あべ美佳

 

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。もちろん、私のことではありません。会ってみたら分ります。……あ、でもわざわざ訪ねて来ないでくださいね。必ず辿り着けるとは限りませんから。なぜなら『cafe・あがすけ』の看板は、悩める山形県人にしか見えないのです──」

 

 

   カランコローンとドアベルが鳴る。男性客が1人。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

眞 島「(乱暴に荷物を置き、でっかいため息)」

 

マスター「……あの……お客様?」

 

眞 島「……あぁ、すみません。アイスコーヒーください」

 

マスター「かしこまりました」

 

 

   グラスに氷、コーヒーが注がれる。

 

 

N「その男性客は、汗だくで、妙に埃っぽくて、こう言っては失礼ですが……実に小汚い格好をしていました。持ち物も実に変わっていて、おしゃれにはほど遠いウエストポーチ、かかとの潰れたスニーカー、首にはタオル、腰にはガムテープがぶら下がっています。それともうひとつ、尻ポケットからはみ出た、木の板みたいなのはいったい……」

 

眞 島「マスター、さっきから俺のことチラチラ見てるけど、何か? 俺、汚いですか?」

 

マスター「いえいえ、そんなことありません。ただ……失礼ですけど、そのポケットから出ている木の板、みたいな? それは何なのかなぁと気になって」

 

眞 島「あ、これ? カチンコです。撮影のときに使うやつ」

 

マスター「撮影! へぇ」

 

眞 島「ほら、こう片手で持って、カメラの前にこうやって構えて……『本番よぉーい、スタート!』(カチン!)」

 

マスター「おおー、いい音ですね」

 

眞 島「マスターもやってみます?」

 

マスター「え、いいんですか?! おぉ、うゎ、指が挟まる」

 

 

   マスター、ぜんぜんうまくできない。

 

 

マスター「難しいもんですね。簡単そうに見えるのにな」

 

眞 島「片手だけで上手に叩けるようになるには、けっこう訓練がいるんですよ。だから俺も、こうやって持ち歩いて暇さえあれば練習してます。ここぞってときに、気持ちいい音が出ないとカッコ悪いですからね」

 

マスター「で、お客さんのご職業は……?」

 

眞 島「俺? 助監督です。サードなんですけど」

 

マスター「サード?」

 

眞 島「ファースト、セカンド、サード。つまり助監督の中でも3番手ってことです。エンドテロップに名前も載せてもらえない、下っ端の、下っ端」

 

マスター「そうですかぁ。厳しい世界なんですね。やっぱり、将来は監督を目指しているんですか?」

 

眞 島「(悲しく笑って)まぁ」

 

マスター「そうですか。で、今は休憩中なんですね」

 

眞 島「(なんとなく、ごまかして)」

 

マスター「この通りの先に有名な撮影所があるって、誰かが言ってたけど、ホントだったんですねぇ。いいなぁ、私もキレイな女優さんとお話してみたいなぁ」

 

眞 島「ふん、そんなの」

 

マスター「え?」

 

眞 島「俺たち下っ端が、女優さんと、まともに口なんて、きけるわけないじゃないですか」

 

マスター「そういうもんなんですか?」

 

眞 島「俺たちなんて、モノ扱いです、モノ。あぁー、早く人間になりたーい、ってね。(自嘲・ため息)」

 

 

   柱時計の音。

 

 

マスター「あの……そろそろ戻らなくて大丈夫なんですか」

 

眞 島「……あぁ、戻るつもりないから」

 

マスター「え!? じゃあ、撮影は中止?」

 

眞 島「んなわけないじゃないですか! 億のお金が動いている大型時代劇ですよ。ってか……俺なんかいなくたって現場にはなんの影響もないんです」

 

N「お客さんはそう言うと、氷で薄まったアイスコーヒーを、ぶくぶくとストローで吹き始めました。話を聞くと、どうやら、監督にどなられて、撮影現場を飛び出してきてしまったようなのです」

 

眞 島「(でっかいため息)」

 

マスター「んー、時間がたつとどんどん戻りづらくなりますよ。早く戻ったほうがいいのでは」

 

眞 島「いいんです、別に。潮時かもな。俺、これを機会に田舎帰ってもいいかなーって」

 

マスター「そもそも、どうして怒られたんですか?」

 

眞 島「……監督が俳優につけた芝居に、つい……口を出してしまって」

 

マスター「あらら」

 

眞 島「そうじゃなくて、方言が間違っていたから直しただけなんですよ! だけど監督は……自分のやり方に文句をつけられたと誤解しちゃって」

 

マスター「あらら。ちゃんと説明したんですか?」

 

眞 島「なんも言えないっすよ、あの空気の中じゃ」

 

マスター「誤解は解かなくちゃ」

 

眞 島「それはそうだけど……なんか……全部アホらしくなってきて、もういいや、って」

 

マスター「で、本当にこのまま、田舎に帰るんですか?」

 

眞 島「……まぁ」

 

マスター「(意地悪く)ふーん」

 

 

   グラスの中、氷がカラカラ

 

 

眞 島「……撮影所を飛び出したとき、誰も引き止める人がいなかったんですよ。引き止めるどころか、お前の代わりなんて山ほどいるって言われて。確かに、俺がいなくなっても、4番手の助監督が3番手に上がるだけなんです。でも俺だって──」

 

マスター「誰かに、引き止めて欲しかった?」

 

眞 島「……まぁ」

マスター「きっと、人より頑張ってたんでしょうからね」

 

眞 島「え? なんでそう思うんですか?」

 

マスター「お客さん、山形の人でしょ? 東京で頑張ってる山形県人は、みんな、大概、そうだから」

 

眞 島「マスターも山形の人なんだ?」

 

マスター「さぁ、どうでしょう?」

 

眞 島「え、そこ秘密?」

 

マスター「ふふふ。でも、きょう、お客さんが店に来てくれてよかったです。珍しいカチンコも触れたし。まっすぐ家に帰らなかったんですね」

 

眞 島「あぁ……ちょっと……動揺しちゃって、うろうろと。撮影所を飛び出したとき、門で1人の俳優さんとぶつかったんです。俺、思わず『ぶじょほした』って謝って」

 

マスター「ぶじょほした!」

 

眞 島「慌てると出るんです。俺、まだ完全になまりが抜けてなくて。そしたら、その俳優さんが『さすけね』って返してきて」

 

マスター「さすけね!」

 

眞 島「言ったあと、はっとした顔をして、恥ずかしそうにしてました。俺も恥ずかしくて……。黙って、その場から逃げちゃいました」

 

マスター「へぇ、そんな場所で、そんな人と、そんな会話が。(カチン!)粋な演出ですね」

 

眞 島「粋な演出? 誰の?」

 

マスター「さぁ、誰でしょう? フフフ」

 

眞 島「……まぁ、いいや。その俳優さんね、ぜんぜん売れてなくて。それでも今回は主役の影武者だ、って張り切ってました。たてのシーンの吹き替え役ですよ。もちろん、顔は全然映りません。ま、当たり前か。主役と背格好も似ていて、同じ衣裳着てるけど、その人は名前すら表に出ないんです」

 

マスター「そんな役割の人がいるんですね」

 

眞 島「俺、その人がいつも頑張ってるの、見てきました。

……あの人も、山形の人だったんだなぁ」

 

マスター「さすけね、ですか。いいことばですね」

 

眞 島「ほんと、そうですよね。……いいよ、大丈夫だよ、がんばっていこうぜ……みたいな」

 

N「お客さんは、そうつぶやくと、カチンコを触り始めました。癖になっているのでしょうか。カチカチ、カチーンと、それは気持ちよくお店の中に響くのでした」

 

 

   リズミカルなカチンコの音。

 

 

マスター「あのぉ……これは素人の提案ですが」

 

眞 島「はい」

 

マスター「今度、撮影現場で、その影武者の俳優さんと2人して、なまってしゃべってみてはいかがでしょう?」

 

眞 島「え?! あんな緊迫した中で、ですか?」

 

マスター「はい。なるべく大きな声で、なるべくどうでもいい話を、なるべく愉快にしゃべってみてくださいよ」

 

眞 島「だって、そんなことしたらまた……」

 

マスター「怒られるかもしれないし……笑われるかもしれません」

 

眞 島「めちゃくちゃだなぁ」

 

マスター「でも、方言に文句つけたってことは、その時代劇、山形が舞台なんでしょう?」

 

眞 島「はい、そうです」

 

マスター「ほら、何かおもしろいことが起きるかもしれませんよ」

 

眞 島「……ん」

 

マスター「……ンフフ」

 

眞 島「……んふふふ」

 

マスター「ハハハハ」

 

眞 島「(大声で)あははは、てが、ほだなごどあっべが?!」

 

マスター「(負けずに大声で)あっかもすんねべした!」

 

眞 島「ほんてんだべな?!」

 

マスター「ほだな、しゃねげどよっ!」

 

 

   2人、笑い合う。

 

 

マスター「ほらね?」

 

眞 島「確かに、おもしゃいがもね。……まぁ、どうせ、一回クビになってるしなー。マスターの言うとおりやってみっか」

 

マスター「ということは、撮影現場に……」

 

眞 島「あと1杯、コーヒー飲んだら……戻ろうかな」

 

マスター「了解しました。それじゃあ、はいこれ、私からのサービス」

 

 

   アイスコーヒーを、とぽとぽ。

 

 

眞 島「いいんですか? ありがとうございます」

 

マスター「それからこれは、影武者の俳優さんに。テイクアウトのアイスティ、山形の水仕立てです」

 

眞 島「わ、ありがとうございます。いっぱい汗かいてたから、喜ぶだろうな。……でも、コーヒーじゃないんだ」

 

マスター「その俳優さん、コーヒー苦手かも、なーんて」

 

眞 島「え、知ってる人?」

 

マスター「え? まさか」

 

眞 島「ってか、ずっと気になってたんですけど、ここに

喫茶店なんてありましたっけ?」

 

マスター「さぁ、どうだったでしょう?」

 

眞 島「なーんか、おがしいんだよなぁ。俺、気づいたら、この店、入ってて……」

 

マスター「いつかまた、お会いしたいですね」

 

眞 島「え? ええ。だけど、現場は常に動くから。ここの撮影所をまた使うかどうか……」

 

マスター「場所はどこでもいいんですよ」

 

眞 島「はい?」

 

マスター「ここを訪れたお客さんと、次にいつ、どんな顔で会えるのか……私の人生の楽しみなんです。お客さんとは、未来でもう一度、必ず会える気がするんですよね」

 

眞 島「俺、そのとき、笑ってるかな?」

 

マスター「さあ、どうでしょう? たのしみ、たのしみ」

 

 

There will be love there 、音楽流れて……

 

 

END

 

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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:17:40