カフェ・あがすけ3杯目「あの日の虹」

 

「山形ひるどきラジオなにしったのや~」をお聴きいただきありがとうございます。

 

2013年に「なまらナイトNEO」の中で1年にわたり放送したラジオドラマ「カフェ・あがすけ」を再放送しております。これまで眞島秀和さん、テツandトモさん、白崎映美さん、3人の方のお話をお送りしました。「らじるらじる」でお聴きの方を含め全国から感想をいただきました。

ありがどさまでーす。

 

今回は3杯目の「あの日の虹」をどうぞ。

 

全10話の中でもちょっと変化球な、作者であるあべ美佳さんの少女時代がモチーフとなっているお話です。

ちなみに当初のタイトルは「迷子の少女と、雨と虹」だったのですが、放送直前に私、柴田が「変えよう!」と言って変更しました。

セリフも一部変わっています。パソコンの中に保存した台本は古いタイトル、古いセリフのままでした。

あのときのスタジオの空気まで思い出して、胸にこみ上げるものがあります。

 

古い台本のままここに掲載します。よろしければ、どうぞ。

 

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (3杯目)

 

 

 

『 迷子の少女と、雨と虹 』


マスター     柴田 徹

客    あべ美佳

少 女   岸田麻由美

             

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。もちろん、私のことではありません。きょうは朝からずっと雨ですね。もう梅雨入りしたのかもしれません。おかげできょうはとってもヒマなんです──」

 

 

   カランコローンとドアベルが鳴る。女性客が1人。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

あべ「……ふぅ。だっでごど」

 

マスター「タオルお貸ししましょうか?」

 

あべ「ありがどさま! 助かるわー。優しいキャラクターにしておいていがった」

 

マスター「え、え?」

 

N「40歳ぐらいの丸顔の女性が、雨の匂いと一緒に入ってきました。私の顔をじろじろ見て、なんだかにやにやしています。この人はいったい……」

 

あべ「ふふ、マスター、あたしのごど、誰だがわがっか?」

 

マスター「さぁ……どちらさまでしたっけ?」

 

あべ「お母さんだ、おめの」

 

マスター「私の母は、そんなに丸顔ではありません。第1、あなた、私より若いじゃないですか?」

 

あべ「ふふふ。ほんてん、気がつかねの? あたしはホラ、あなたの物語の制作者・脚本家のあべ美佳だ」

 

マスター「え……あなたが? 何しに来たんですか?」

 

あべ「そろそろ、マスターが何か悩んでいるかと思ってよ」

 

マスター「いえ、まったく。絶好調ですけど」

 

あべ「あ、そ。コーヒーけろ。自慢のあがすけブレンドな」

 

マスター「……かしこまりました」

 

 

   コーヒーを注ぐ音。
      カップを置く音。

 

 

マスター「お待たせしました。あがすけブレンドです」

 

あべ「ありがとさまねー。んー、いい匂いだ」

 

N「脚本家はどういう理由で、みずから物語の中に入ってきたのでしょう? 聞いたほうがいいような、触れないほうがいいような。私に何かを尋ねるでもなく、本を読むでも原稿を書くでもなく、ちびりちびりとコーヒーをなめています」

 

 

   柱時計の音。

 

 

マスター「あの……差し出がましいようですが、そろそろお帰りになったほうがいいのでは? 締めきり、大変なんですよね?」

 

あべ「いいなだ」

 

マスター「だって、やっと連ドラの企画が通ったって喜んでいたじゃないですか」

 

あべ「あ、あれな。ほかの人が書くんだって」

 

マスター「え? あ……そうですか。でもどーして?」

 

あべ「どーしてだべねー」

 

マスター「そんな人ごとみたいに……怒らないんですか? 自分の企画でしょ?」

 

あべ「んん、まーね。なんかこう腹さ、力入んねくってよ」

 

マスター「情けないこと言わないでください。この物語だって、まだまだ続くんですからね」

 

あべ「んだね、ごめんごめん。この業界ってよ、それはそれは華やかな世界だと思って、ずっと憧れてだのよ。やっと飛び込んでみたら、競争、策略、足の引っ張り合い、妬み、陰口……なんか、くたびっだはー。交ざりだぐね」

 

マスター「そんなの、どんな仕事でも同じですよ。甘えたこと言わないでください」

 

あべ「はぁー、自分のつくったキャラクターに、ごしゃがれでだら、世話ねーよにゃあ。まったくおっしゃるとおりだー。今思えばよー、小学校の学芸会が一番わくわくしたなぁ。あたしな、初めて劇の台本書いたの、小学5年生なんだ。アリババと40人の盗賊、すごいべ」

 

マスター「任せてくれた担任のほうがすごいと思いますけど」

 

あべ「んだよね。んでも、あれ、よく書いたよなー」

 

 

   表で子どもの泣き声がする

 

 

マスター「……あれ? 今、なんか、聞こえませんでした? 子どもが泣いていたような……ちょっと見てきます」

 

 

   ドアを開ける。

 

 

N「慌てて表に出ると、店の前で雨宿りをするように、子どもが立っていました。短い髪の毛、真っ黒に日焼けした顔は、まるで男の子みたいでしたが、少しだけ胸が膨らんでいるのをみると、女の子のようでした」

 

 

   少女、マスターと共に店の中へ入ってくる。

 

 

マスター「ささ、入って。今タオルもってくるからね。寒くない? かぜひきそう?」

 

少女「……大丈夫です」

 

あべ「お嬢ちゃん、迷子が? お父さんとお母さんは?」

 

少女「……いません」

 

あべ「いないの? はぐれた? 今、外で泣いでだっけべ?」

 

少女「……あたしじゃないです」

 

あべ「だって、ほかに誰もいねっけべした」

 

少女「……へっくしょん」

 

マスター「大変だ、雨で結構ぬれたね。早くタオルで髪の毛拭いて。なんか温かいものでも、飲む?」

 

少女「……はい」

 

あべ「すこだま甘ごいココアでも、こしぇでやってけろ」

 

少女「あたし、コーヒーがいいです」

 

あべ「なんだおめ、子どものくせに」

 

少女「あたし、子どもじゃないです」

 

あべ「どっからどー見でも、小学生だべ!?」

 

マスター「まぁまぁまぁ」

 

N「温めた牛乳に、砂糖をたっぷり、コーヒーを少し混ぜて、私は少女に勧めました。少女はカウンターのいすに座り、ぶらぶらと届かない足を振りながら、そのコーヒー牛乳を飲んでいました」

 

あべ「(ひそひそ)マスター? このヘナコ誰?」

 

マスター「(ひそひそ)さぁ……って、作家はあなたでしょう? あなたが考えた登場人物じゃないんですか?」

 

あべ「違うよ! あたしはマスターの顔を見に来ただげだもの!」

 

少女「おばさん、何か悩みがあるみたいだね」

 

あべ「はぁ? おめ今、短いセリフの中で、2つも間違ったぞ。1個目、あたしには悩みなんてね。2個目、あたしはおばさんでね」

 

少女「うそついてもわかるよ。大人の嘘なんか、全部わかるんだから」

 

あべ「かー、めんこぐないヘナコだごど」

 

マスター「まぁまぁまぁ」

 

少女「ってか、おじさん。1つ質問していーですか?」

 

マスター「おじ……さん。まぁ、いいでしょう。それで」

 

少女「どうして子どもは自分の親を選べないんですか?」

 

マスター「さぁ、どうしてでしょうね? 近頃の小学生は、そんな難しいこと考えてるんですか?」

 

少女「ふーん、おじさんもほかの大人と一緒か。自分が知らないことは、適当にごまかすんだね。子どもだと思って」

 

マスター「ごまかしているわけではないのですが……オトナだからって、わからないこともありますね」

 

あべ「ない。オトナは何でもわがる。ってが、逆だよ、逆。親のほうが子どもを選べないの。子どもは、親、選んでるよ」

 

少女「うそだー」

 

マスター「あまり適当なことを言わないほうがいいのでは」

 

あべ「ほんてんだ。子どもはよ、生まれる前に、天上から、どこの家さ生まれっべなぁ、って親ば見てるんだってよ」

 

マスター「またまたー」

 

少女「んじゃあ、おばさんは、自分が生まれる前のこと、覚えてるの?」

 

あべ「ぜんぜん」

 

少女「じゃあ、自分で選んだかどうか、わかんないじゃん」

 

あべ「んでも、わがるんだ。大っきぐなったら、おめもわかる。なして自分は、この家に生まれたのか。な、マスター?」

 

マスター「え? ……わかるような、わからないような」

 

少女「んじゃああたしは、生まれてくる家、間違ったみたい」

 

あべ「なしてや? 親とケンカでもしたが?」

 

少女「……」

 

N「少女はとたんに黙ってしまいました。それでも少しずつ話を聞くと、迷子だと思った少女は、どうやら家出をしてきたみたいです。自らの意思で、迷子になったようなのです」

 

あべ「ほしたら、なに? お父さんと一緒にトラックさ乗って街まで来たの?」

 

少女「うん」

 

あべ「で、お父さんがオシッコしてる間にいねぐなったのが? ろぐんね子だなぁ。心配しったぞ、今頃」

 

マスター「警察に捜索願とか出してるかもしれませんね」

 

少女「そんなこと、しないよ」

 

あべ「なして? ってが、何がやんだくて、家出なんかすんのや?」

 

少女「あたし、都会の子になりたい。田舎、いや。そんで、サラリーマンのお父さんがほしい」

 

マスター「お父さんは、何をやっている人なんですか?」

 

少女「……農業」

 

マスター「そう、農家に生まれたのか。何作ってるの?」

 

少女「スイカとか、米とか、いろいろ」

 

マスター「それの何が嫌なのかな? おじさんは、ちょっとうらやましいけどなー」

 

少女「うそ! あんなカッコ悪い職業……恥ずかしい」

 

あべ「どごが?! 農家のどごがカッコ悪いか言ってみろ」

 

マスター「ちょっと、もう少し優しく話せませんかね。そんな聞き方じゃ、答えられませんよ」

 

あべ「……ごめん。んじゃあさ、サラリーマンはカッコいいのが?」

 

少女「わかんない……けど……」

 

マスター「具体的にどんなことが嫌なのか話してごらん」

 

少女「それは……」

 

あべ「ふん、ちゃんと言えないくせに。ってが、いいよ、話さなくて。うちらも何もアドバイスなんてすねがらな」

 

マスター「ちょっと、ちょっと。子どもだから、そんな冷たい言いかたしなくても」

 

あべ「ちがう、ちがう。そうじゃなくって。いま、こいつに何言ったって理解できないと思うがら」

 

マスター「まぁねー、自分で見つけた答えのほうが、おもしろいですしね。親のことも、そのうちわかるでしょう」

 

少女「何がわかるの?」

 

あべ「おめの父ちゃんの職業がいかにすごいか。いかにカッコいいのか。なして自分がその家に生まれたか」

 

少女「うそだ。そんなの、わからないよ」

 

 

   遠くで、スイカ売りの声。

 

 

あべ「ほら、迎え来たぞ。早く帰れ」

 

マスター「え? なんであれがこの子のお父さんだってわかるんですか?」

 

あべ「わがるの。な、おめの父ちゃんのトラックだべ?」

 

少女「……うん」

 

あべ「ほら、早く帰って、アリババと40人の盗賊の台本、書くんだべ? 家出している場合じゃねーべ」

 

少女「あ……そうだった。ってか、なんで知ってるの?」

 

あべ「オトナは何でもわがるんだって。ほら、早くトラック追いかけていかないと、父ちゃん行っちゃうよ」

 

少女「うん。家出は学芸会終わってからにする。バイバイ!」

 

 

   ドアが開き、少女、外へ。

 

 

M「少女がドアを開けると青い光が差し込みました。いつのまにか雨はやんだようです。少女は空に虹でも見つけたように顔を上げると、次の瞬間走り出していきました」

 

あべ「ふぅ、やれやれ」

 

マスター「もしかして……今の、あの子」

 

あべ「うん、あたしだな、アレ」

 

マスター「やっぱり! そうかー、そうでした。ここはそういう場所でした。今、一番会うべき人に出会える場所……」

 

あべ「うん。たとえそれが一番会いたくない相手でも、ね。……マスター、あたしも、そろそろ帰る」

 

マスター「はい。それがいいです。もう、迷子にならないでくださいね」

 

あべ「なんだよ、大の大人にむかって」

 

マスター「いや、やっぱり迷ったらまた来てください。うちの店の看板は、悩める山形県人には見えるはずですから」

 

 

 

   曲のイントロ流れて 

 

END

 

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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:18:55