カフェ・あがすけ2杯目「青い 青い 青空」

 

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「山形ひるどきラジオなにしったのや~」をお聴きいただきありがとうございます。

 

2013年に「なまらナイトNEO」の中で1年に渡り放送したラジオドラマ「カフェ・あがすけ」を再放送しております。今月初めに第一話「はじまりのはじまり」をお送りしました。

 

らじるらじるでお聴きの方を含め全国から感想をいただきました。

ありがどさまでーす。

 

今回は2杯目のお話「青い 青い 青空」をどうぞ。

出演は酒田市出身の白崎映美さんです。

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (2杯目)

 

 

『 青 い     青 い      青 空 』

 


マスター  柴田 徹
客    白崎映美
             ☆             
脚本  あべ美佳

 

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。もちろん、私のことではありません。会ってみたらわかります。……あ、でも、わざわざ訪ねて来ないでくださいね。必ずたどり着けるとは限りませんから。なぜなら『cafe・あがすけ』の看板は、悩める山形県人にしか見えないのです──」

 

 

カランコローンとドアベルが鳴る。女性客が1人。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

映美「……あ、どうも」

 

N「女性客が1人、やってきました。歳は30歳ぐらいでしょうか。肌が透き通るように白くて、ほっぺがピンク色です。そのお客さんは、なかなか席に着こうとしませんでした。きょろきょろと店内を見渡しています。きっと誰かと待ち合わせなのでしょう。でも残念ながらほかにお客さんはいません。そのことを伝えようかと思っていると……」

 

映美「あの……上野駅の不忍口から1番近い喫茶店って、こごですか?(ちょぺっとなまっている)」

 

マスター「はい、そうですけど」

 

映美「そうですよね」

 

N「女性は一度時計を見て、ようやく席に着きました。カウンターの一番端、入り口がよく見える場所を選んだようでした。足元をしきりに気にしているので、見ると、彼女は雪ぐつを履いていました」

 

 

   しゅんしゅんとお湯が沸く。

 

 

マスター「こちらメニューです」

 

映美「あぁ、すみません。んじゃあこの、あがすけブレンドってやつをお願いします」

 

マスター「かしこまりました」

 

 

   コーヒー豆をひく音。

 

 

マスター「どなたかと待ち合わせ、ですか?」

 

映美「え? いや……まぁ……」

 

マスター「ごめんなさい、おせっかいでしたね」

 

映美「違うんです、なんと答えればいいのかと思って。待ち合わせといえば待ち合わせなんですけど、その人、たぶん来ないから(あっけらかーんと)」

 

マスター「え? あ……そうですか」

 

 

   コーヒーをいれる音。

  柱時計が鳴る。

 

 

映美「あの、この近くに靴屋さんはありますか?」

 

マスター「靴屋ですか。通りの向こうにアメ横がありますね。靴屋も何軒かあると思いますけど」

 

映美「そうですかー。人、いっぺいそうだね。んー、うろうろしたら気持ち悪くなりそうだ」

 

マスター「靴が、どうしましたか?」

 

映美「ちょっと、履き替えたいんですよね。恥ずかしくて」

 

マスター「あぁ、その雪靴」

 

映美「あれ? マスター、これが雪靴だってわがります?」

 

マスター「ええ。雪国にはちょっと縁がありまして」

 

映美「いやー、東京には雪、ないんですねー。当たり前が」

 

マスター「すてきな靴だと思いますけど」

 

映美「はい?」

 

マスター「ちっとも恥ずかしくなんてないと思います」

 

映美「はぁ。……そうですかね」

 

 

   コーヒーを注ぐ音。

  カップを置く音。

 

 

マスター「お待たせしました。ブレンドです」

 

映美「ありがとさま。……マスターは、東京の人ですか?」

 

マスター「さあ、どうでしょう?」

 

映美「ふーん、秘密ですか。んじゃあ、私はどこの人だと思いますか?」

 

マスター「東北人」

 

映美「あたりです! そんなの、雪靴はいてたらわかりますよね」

 

マスター「ええ、まあ。それと、肌ですね」

 

映美「肌?」

 

マスター「第1印象で、肌が東北の人に見えました。真っ白で透き通っていて、きれいですから」

 

映美「まだまだー。そんなに褒めても、お土産もなんもあげませんよ」

 

マスター「本当ですよ。お世辞は言っても、うそは言いません」

 

映美「はぁ~。東京ってやっぱりおっかないとこだな」

 

マスター「え?」

 

映美「男の人はみんなマスターみたいに口が上手なんだべな。それに秘密やら内緒やら、裏ばっかりありそうだ」
マスター「そんなの、人によります。私は違いますよ」

 

映美「その言い方がもうウソくさいもの~」

 

 

   砂糖を1つ。スプーンでくるくる回し

 

 

N「お客さんは砂糖を1つ入れ、スプーンでくるくるかき回しました。渦を巻いているこはく色のコーヒーに、真っ白なミルクを垂らし、あとはかき回さずに、渦巻きを見ています。そしてゆっくりとカップを両手で持ちました」

 

映美「(コーヒーをすすり)あぁ、んめごど。なぁマスター、こんな場所で喫茶店やってたら、私みたいな田舎もんが、たくさんくるでしょうね」

 

マスター「さぁ、どうでしょう? みんな、標準語で話してますからね。でも地方の人は多いでしょうね」

 

映美「はぁ~。どいつもこいつも、なんで東京に出て行こうとするんだべな」
マスター「どうしてでしょう。何かやりたいことがあるのかもしれませんね。一旗上げよう、みたいな」

 

映美「そんなのウソですよ。田舎にいて成功できないんなら、東京に行ったって、もっとうまくいくわけ無いと思う」
マスター「ま、そういう考えもありますね」

 

映美「マスター、私な、なんでみんな東京、東京、って騒ぐのかわかりません。田舎のほうが空気はきれいだし、食べ物はうまいし、鍵なんかかけなくても泥棒も入らないし」

 

マスター「それはちょっと違うような……」

 

映美「東京に行かないと夢はかなえられないんでしょうか」

 

マスター「それは夢の種類にもよると思いますけど」

 

映美「……あのな、私の彼氏も東京にいるんです」

 

マスター「そうですか。いつから?」

 

映美「高校卒業してからだから……うわ、もう11年だ」

 

マスター「ずっと遠距離恋愛ですか」

 

映美「んだのよ。私は山形、そいつは東京。たまにしか会えないけど、楽しくやってました」

 

マスター「やって……ました? あれ? 過去形ですね」

 

映美「そろそろ、ちゃんとするべど思って。その話するために、きょう、出てきました」
マスター「そうですか」

 

映美「気がついたら、自分も30過ぎててねー。私、女子校時代、地元のマドンナだったんですよ。ラブレターいっぺもらったの、ついきのうのことだと思ってましたー」

 

マスター「それはそれは」

 

映美「そいつは隣の男子校で。2つ年下なんです」

 

マスター「じゃあ、11年も遠距離恋愛してるんですか? さみしくないのかな」

 

映美「そんなもの。あなたに会いたいの~、さみしいの~、なんて女々しいことは、私、一切言いません」

 

マスター「なして?」

 

映美「んだって、私は、できた姉さん彼女ですもの」

 

マスター「はぁ?!」

 

映美「なに?!」

 

マスター「(せきばらい)すみません、なんでもないです。っていうか、きょうはその人と待ち合わせを?」

 

映美「待ち合わせっていうが……留守電にね、メッセージを入れてみました。地元で嫁にもらいたいっていう男がいっぺいるがら、もうおめどご待づのやめだ、って。上野駅でコーヒー一杯飲んだら帰るがら、って」

 

マスター「はぁー。素直じゃないですね」

 

映美「んだって、そうやってつきあってきたんだもの。深夜バスで会いに来てくれたこともありますよ。そりゃ嬉しいです! んでも、お金無いの知ってるから。バイトバイトでねぇ。そのあとの大変さを考えると、ブラウン管の中で会えるほうが嬉しいから会いに来なくていいよ、って言ってしまうんです」

 

マスター「え、彼氏さんの夢って?」

 

映美「役者になりたいんだそうです」

 

マスター「んじゃあ、東京にいないとダメでしょうね」

 

映美「んだのよ! そうなんですよ。わがってるんです……。でもいつか、有名になって売れたら、東京にはマンション借りて、いつも住むところは山形で、なんて夢みたいな話して。売れたら、新幹線で仕事に通っても、交通費はテレビ局が出してくれるんだ、って。うそですよね? そもそも本当に売れたら、休みなんて取れないし。それこそ東京を離れる訳にいかなくなるよね? そんなこと、少し考えたらわかるのに。2人とも、バガだよのー」

 

マスター「気持ちは、ちょぺっとわかります」

 

映美「あ、今なまったべ? マスターも山形の人でねの?」

 

マスター「さあ、どうでしょう?」

 

映美「秘密にしたってわがるよ。おめは山形の人だ。なんだよ、かっこつけで。よし、おめさ、これける!」
がさごそと、何かを出す。からからせんべい。

 

マスター「それ、彼氏さんへのお土産じゃないですか。頂けませんよ」

 

映美「いいなだ。さっきお世辞言ってくれたお礼だ」

 

マスター「ん、ありがとうございます。……ってか、これ」

 

映美「からからせんべいだ。懐かしいべ?」

 

 

   からからせんべいを、振る。からからから。

 

 

マスター「懐かしいような、懐かしくないような」

 

映美「いいがらほら、け。せんべい、割ってみろ」

 

 

   からからせんべいを、割る。

 

 

N「三角形に折りたたんだ不思議な形をしたお菓子を割ると、中から小さな民芸品が出てきました。かわいい女の子がゆりかごに入っている木工細工でした」


映美「……なぁ、マスター。東京の空って、青いんだね」


マスター「東京の空、ですか」


映美「うん。私な、東京には空なんて無いと思ってました。やっぱり、来てみないとわがんないね」


マスター「そうかもしれませんね」


映美「東京の空見てたら、あいつがここにいる理由が、ちょぺっとだけ、わがった気がします」

マスター「そうですか」


映美「私のふるさとは、冬の間、ずっと灰色の空なんです。この季節なのに、東京には青空があるんだな。そのことがわかっただけで、きょう、ここに来てよかったと思います」


マスター「ずっと灰色ではないでしょう?」
映美「え?」


マスター「あなたのふるさとには毎年必ず春が来て、毎年必ず、青空になる。そしてそれは、どこの場所より、青い、青い、青空です」


映美「……ふふふ、やっぱり、おめは、山形の人だべ」


マスター「ふふ、さぁ、どうでしょう」


映美「おめのコーヒー、んまいなぁ。山形の水でいれたら、 
もっとんめぞ」

 

   カランコローンと、ドアベルの音。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 


   男性客(トモ)がやってくる。

 


映美「あ、おめ……。なんでおめがこごさ来るんだ?」

 

 

   小さく笑い出す、映美。

 

 

「その男の人が、彼女の会いたかった彼氏さんなのか、私にはわかりません。でも、今、彼女にとって一番必要な人が会いに来たことは、私にもわかります。だってここは、そういう場所ですから──」

 

 

   曲のイントロ流れて

 

END

 

 



なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:18:11