カフェ・あがすけ1杯目「はじまりのはじまり」

 

「山形ひるどきラジオなにしったのや~?」をお聴きいただきありがとうございます。

先月、7年前に制作したラジオドラマ「カフェ・あがすけ4杯目・カチンコ」を再放送いたしました。

 

眞島秀和さん出演ということもあり、県内はもちろん、聞き逃し配信で聴いていただいた全国の眞島ファン「マシマニア」の皆さん、さらには県外にお住まいの元山形県民の方々などよりたくさんの反響をいただき感謝の思いでいっぱいです。

 

そこで番組では、これから1か月に1本程度のペースで、できれば全話!お送りしたいと考えました。

そんな話をしていく中で、作者のあべ美佳さん(尾花沢市出身・いま「いいね!光源氏くん」で調子に乗っているが絶賛放送中)からメールをいただきました。

できればドラマのシナリオを皆さんに読んで欲しいというものです。と言いますのも、このお話は一話完結なのですが、時空を超えてすべてがつながる物語なんです。

 

ということで、今後このブログで紹介していくつもりでおります。

まずは1杯目のお話「はじまりのはじまり」をどうぞ。

出演はテツandトモのお二人です。

 

『Café あがすけ』1杯目

客:テツandトモ

 

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。もちろん、私のことではありません。会ってみたらわかります。……あ、でもわざわざ訪ねてこないでくださいね。必ずたどり着けるとは限りませんから。なぜなら『cafe・あがすけ』の看板は、悩める山形県人にしか見えないのです──」
カランコローンとドアベルが鳴る。男性客が1人。

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

テツ「あ……こんにちは。コーヒーをお願いします」

 

マスター「かしこまりました」

 

   しゅんしゅんとお湯が沸く。

 

N「そのお客は薄手のコートを脱ぐと、寒そうに肩をすくめました。なかなかの二枚目で、どこかで見たような気もしたのですが……」

 

   コーヒー豆をひく音。

 

マスター「お客さんは東京の方ですか?」

 

テツ「え? ええ。あ、いや……違うか」

 

マスター「どっちですか」

 

テツ「今は東京にいるけど、出身は……ここです」

 

   コーヒーをいれる音。

 

マスター「そうですか、帰省か何かで?

 

テツ「……きょうは同窓会があるんです。高校時代の仲間とね。えっと、だから……22年ぶり? うわ」

 

マスター「お客さん失礼ですけど、テレビとか出てません?」

 

テツ「あぁ、一応、役者やってるんで」

 

マスター「やっぱり! 見たことありますもん」

 

テツ「気ぃ使わないでいいです。俺、セリフなんてほとんどなくて、すぐに死ぬ役ばっかりだから。誰も覚えてないと思います。ことしなんてもう3回死んでるな。刀で斬られたり、銃で撃たれたり、爆死ってのもあったな」

 

マスター「すごいですね」

 

テツ「この年になると、普通の人は子どもの話とか会社の話とかするんでしょうね。俺、浮きまくりそうだ」

 

マスター「でも、そういう話、みんな喜ぶと思いますよ。ところで、同級会は何時からなんですか?」

 

テツ「……もう始まってます」

 

マスター「え? じゃあ、急がなきゃ」

 

テツ「……いいんです、別に」

 

マスター「……はぁ」

 

   カランコローンと、ドアベルの音。

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

トモ「マスター、コーヒー。うぅ、まだ寒いね……え」

 

テツ「──石澤?」

 

トモ「中本──」

 

N「まずいやつに見つかってしまった……2人の顔にはそう書いてありました。あとから来たお客さんは少し迷って、役者だという男性の1つ空けた隣の席に腰を下ろしました。お互いに探り合うような気まずい空気が流れていました」

 

   コーヒーを注ぐ音。
   カップを置く音。

 

マスター「お待たせしました。ブレンドです」

 

テツ「ありがとう」

 

マスター「そちらのお客様にもすぐ準備しますね」

 

トモ「いいよ、急がなくて」

 

テツ「え、おまえ、同級会は?」

 

トモ「いいんだ……てか、おまえこそなんでここにいるんだよ」

 

テツ「……別にいいだろ」

 

   コーヒー豆を引く音。

 

N「2人は同級生のようでした。なのに、会話は一向に弾みません。

……なんでこんな店に入っちゃったんだろう……そんな後悔の視線を、2人はかわるがわる、入口のほうへ投げていました」

 

   コーヒーに砂糖を入れる、テツ。

 

トモ「……おまえ、コーヒー飲めるようになったのか?」

 

テツ「まぁな。俺だって10年前とは違うよ」

 

トモ「(くすくす笑い出し)」

 

テツ「なんだよ」

 

トモ「今、砂糖4つ入れたよな? そんなのもうコーヒーじゃないよ」

 

テツ「うるせーよ」

 

マスター「お客さん、お待たせしました」

 

トモ「あ、どうも……(そのまま一口すすり)んまい!」

 

テツ「ふん、カッコつけやがって。そんな甘くもないやつがうまいわけないだろ?」

 

トモ「うるさいよ。てかおまえ、なんで同級会に行かないんだ? そのために、わざわざ東京から来たんだろ?」

 

テツ「……会場がわからなくなって」

 

トモ「相変わらずうそが下手だな。それでも役者かよ」

 

テツ「悪かったな。だから売れないんだよ」

 

トモ「自分で言うなよ」

 

テツ「……そんなことより、こっちの暮らしはどうなんだ? ちゃんと親孝行してるのか?」

 

N「それからの2人の話は、まるでコーヒーにミルクを注ぐような、遠くにある思い出をちょっとずつちょっとずつカップに浮かべてすすっているかのような、ほんわりした会話でした。私はカウンターの端っこに立ち、2人の邪魔にならないようにそっとカップを磨いていました。彼らはやはり高校の同級生でした。2人とも役者を目指していたようです。一緒に卒業し、一緒に東京へ出て、一緒に夢を追いかけました。6畳一間のアパートでの共同生活は、実に10年近くも続いたとか。……銭湯の値段が今いくらか知っているかとか、あのとき使っていた2層式の洗濯機が今も動いているとか、会えなかった時間を確認していくように、会話は続きました」

 

テツ「なぁ、『あがすけ』って懐かしいな」

 

トモ「あぁ。俺ら、昔よく言われたもんな。『このつかしたあがすけやろこ』って」

 

テツ「おまえもこの店の看板見て入ってきたのか?」

 

トモ「まぁな」

 

テツ「1番会いたくないやつと、同じとこに目がいくとはな」

 

トモ「1番会いたくないやつ、って。ひどいな」

 

テツ「……正直、俺はおまえに会いたくなかったから……会場に入れなくて。覚悟決めてきたつもり……だったけど

 

トモ「覚悟? 何のことだよ?」

 

テツ「オレ、おまえに謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

 

トモ「どういうことだよ」

 

テツ「……俺が初めてセリフもらった映画のオーディション……覚えてるか?」

 

トモ「あぁ。俺も受けたけど落ちたやつだよな」

 

テツ「それ……本当はおまえが受かってたんだ」

 

トモ「は? 何言ってるんだ?」

 

テツ「留守電に、おまえだけオーディションに受かったってメッセージが入ってた。それを俺が先に聴いて……消したんだ」

 

トモ「うそだろ……」

 

テツ「本当だよ。おまえが行くはずだった現場に俺が行って、監督にいっぱいうそついて、なんとか自分が出られるようにしたんだ」

 

トモ「そんな……」

 

テツ「おまえが田舎帰ったの、その後すぐだったよな? 夢諦めたの、俺のせいだ……ごめん」

 

トモ「ごめんって」

 

テツ「あの役、どうしても欲しかったんだ! たったひと言のセリフだったけど、俺どうしても映画に出たくて……」

 

トモ「なんだよ、それ。俺はてっきり、おまえだけ受かったんだと思って……そうか俺、受かってたんだ、マジかよ」

 

テツ「ごめん……俺はおまえのチャンスを盗んだ。謝って済むとは思ってないけど、本当にごめん。もし俺がうそつかなかったら、おまえは田舎へ帰ったりしなかっただろ? 俺がおまえの人生を──」

 

トモ「やめろ」

 

テツ「でも」

 

トモ「冗談じゃないぞ。俺は自分で決めて田舎へ帰ったんだ。それに……」

 

テツ「それに?」

 

トモ「……いや。なんでもない」

 

N「2人の間に再び沈黙が訪れました。──この店にやってくる人たちは、すべからく、会うべくして引き合わされるのです。たとえそれが、1番会いたくない人だとしても。コーヒーの香ばしい匂いは、ときに人の心を溶かしてくれます。私は、自分の入れたコーヒーの力を信じています。……そんなふうに静かに見守っていたときでした。あとから来たお客さんが、ゆっくりと口を開いたのです」

 

トモ「やっぱり……おまえだけ悪者にしちゃ卑怯だな。俺は覚悟が決まらなくて、土壇場でこの店に逃げたけど……逃げた先でまで、おまえに会って……うん、やっぱダメだ」

 

テツ「何のことだ」

 

トモ「俺も……おまえ宛ての留守電、消したことがあるんだ」

 

テツ「え」

 

トモ「彼女からの大事なメッセージだったのに。俺はそれをおまえに伝えずに、代わりに自分が彼女に会いに行った」

 

テツ「じょーだん、だよな?」

 

トモ「いや、ほんとだ。だから今……俺は彼女と結婚して故郷で暮らしている」

 

テツ「おまえが彼女と?」

 

トモ「やっぱり、知らなかったか……。おまえが映画の撮影に行った日だよ。俺は彼女にうそついて、おまえを諦めさせた。俺にしとけ、って言ったんだ」

 

テツ「…………なんだよ、それ」

 

トモ「……わるかった」

 

テツ「……許さない」

 

トモ「……俺だって」

 

   少し笑ってしまう、2人。

 

お湯が、しゅんしゅんと沸く。


   お皿が置かれる音。

 

マスター「はいこれ。お2人に私からのサービスです」

 

テツ「これ……ホットドック?」

 

マスター「はい。当店特製のホットドックです

 

トモ「1個しかないけど」

 

マスター「半分こずつ、召し上がってください」

 

テツ「上手に割れるかな(半分に割り)……よし。……ほら、大きいほうやるよ」

 

トモ「あぁ。ってか、久しぶりだな、こういうの」

 

テツ「いっつも、なんでも、半分こだったもんな」

 

トモ「(くんくん)……あれ? このソーセージ、ちょっと変わった匂いがする」

 

マスター「ふきのとうを練り込んであるんです」

 

テツ「ふきのとう?! へぇ」

 

マスター「高校のグラウンドの土手にね、毎年顔出すでしょ? アレですよ」

 

テツ「土手? あったかな?」

 

トモ「うん、あった、あった。ってか、マスターもあの高校出身?」

 

マスター「さあ、どうでしょう?」

 

テツ「秘密なんだ」

 

トモ「ってか、こんなところに喫茶店なんてあったっけ? マスター、この店、いつできたの?」

 

マスター「さあ、いつでしょう?」

 

テツ「また秘密なんだ」

 

トモ「なんか怪しいなぁ。俺らがここ出て言った瞬間、振り返ったら店ごと消えてたりして」

 

マスター「フフ。どうでしょう?」

 

トモ「ってが、マスターと俺、ずっと昔に、どこかで会ったことある気がするんだよなぁ。思い出せないなぁ」

 

マスター「フフ。……さあ、どうぞ召し上がってください。ふきのとうは一瞬ほろっと苦いけど、ゆっくりかんでいくと、春の味がしますよ」

 

テツ「どれどれ(もぐもぐ)……ん、なかなかいける」

 

トモ「うん、ちょぺっと苦んがい」

 

テツ「おまえ、今なまったぞ」

 

トモ「うるせ、いいなだ、こごは山形だもの」

 

テツ「だっせー。変わったな、おまえ」

 

トモ「なんだよ、ちょぺっとテレビ出でるがらって、この、つかしたあがすけやろこ!」

 

   笑い合う、2人。

 

テツ「……なぁ、石澤。俺はもし、その留守電を聴いていたとしても、彼女より夢を取ったよ」

 

トモ「……そうか」

 

テツ「うん」

 

トモ「……なぁ、中本。俺は、オーディションの合格通知を受け取っていたとしても、きっと彼女に会いに行ったよ」

 

テツ「……そうか」

 

トモ「うん」

 

マスター「右さ行っても、左さ行っても、正解」

 

テツ・トモ「え?」

 

マスター「それが自分で決断したことなら、ね」

 

トモ「んだね」

 

テツ「そうですね」

 

トモ「なぁ、これ食べだらよ、今から同級会に──」

 

テツ「──うん、行こうか。でも間に合うかな?」

 

トモ「間に合うよね、マスター?」

 

マスター「さあ。どうでしょう? 間に合うがもすんねし、間に合わないがもすんね」

 

テツ・トモ「ええ~」

 

マスター「んでも、お2人の同級会は、今ここからスタートですね」

 

曲のイントロ流れて

「さらば青春」エレファントカシマシ

 



なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:13:04