【記者特集】在来作物を"地域の宝"に!越沢集落の三角そば

 

「在来作物」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

 

山形県内では鶴岡市のだだちゃ豆や焼き畑あつみかぶ、それに、上山市の小笹うるいなど、その数、少なくとも150品目にものぼります。

 

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在来作物とは、長年にわたって継承されてきた地域特有の貴重な作物のことです。

 

しかし、生産者の減少や栽培の難しさなどの理由から、姿を消してしまうものも少なくはありません。

 

そうした中、地元の人たちが価値に気づきブランド化を進めてきた在来作物が鶴岡市にあります。その歩みにはほかの地域にも役立つヒントがありました。

 

 

 

すぐ“そば”にあった「宝物」

 

地元の人たちにとって、ごく当たり前の存在だった、三角そば。

 

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かつては「地そば」と呼ばれ、特に名前はなかったそうで、野尻さんたちは、この地域にしかない特有のものだとは思いもしなかったといいます。

 

この三角そばを宝物にするために、生産組合がさまざまな取り組みを行っていること、VTRで紹介しました。

 

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その1つ、県内の主力品種「でわかおり」よりも、三角そばを高く買い取ることを実現できた源は「地域の連携パワー」でした。

 

 

地域の”連携パワー”!

 

三角そばを提供しているそば店、実は自治会が運営しています。

自治会運営とあって、利益追求が最大の目的ではありません。

 

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できるだけ多くの人たちに、三角そばを味わってもらい、三角そばのよさを知ってほしい。それが一番の目的なのです。ですから、生産組合が高く買い取った分をそば店は提供価格に転嫁していません。

 

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一番の目的を実現するには、三角そばの生産を増やし安定的に確保できるようにすることが必要不可欠と考え、生産組合と自治会が強いタッグを組んで取り組んでいるというわけです。

 

 

課題①安定的な収穫量の確保

 

これまでのところ、順調そうに見える三角そばのブランド化。

しかし、在来作物ならではの課題もあります。

 

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その1つが、栽培技術の向上と安定した収穫量の確保。

三角そばは一般的なそばよりも背丈が長い分、雨風の影響を受けやすい特徴があります。

 

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ことしは夏の長雨で茎が倒れるなどし、去年と比べると約600キロ少ない収穫量。その分、乾麺に加工できる量は少なくなったといいます。

 

 

課題②後継者の育成

 

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また、世代を超えて引き継いでいくためには後継者が必要です。

三角そばの生産者の平均年齢は65歳。

 

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そば店の人材も、そばを打てるのは野尻さんを含めわずか2人。

60代で”まだまだ現役!”と話す野尻さんはお元気そのものですが、10年20年先も変わらない三角そばを提供するためには、そば打ち職人の育成も必要不可欠です。

 

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そこで、毎年開催しているのが、そば打ち体験。

参加者は、地元の小学生や外国人観光客などさまざまです。

 

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三角そばの魅力発信のイベントですが、そば打ち体験を通してやがてはみずからそばを打ち、提供する側に立ちたいと思う人が現れてほしいという期待も込めて、開催を続けているのだそうです。

 

 

在来作物の存続意義は

 

山形在来作物研究会の会長を務める、山形大学農学部の江頭宏昌教授は在来作物の存在意義について次のように話しています。

 

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「在来作物は地域の歴史や文化を体現できるシンボルだ。愛着をもって楽しみながら栽培したり食べたりすることにより多くの人たちに関心を持ってもらい、守り育ててほしい」

 

 

在来作物を“地域の宝”に

 

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集落内のそば畑を100%三角そばにすることを目標にしてきた野尻さん。集落内の作付面積は9割近くが三角そばと、目標達成まであと一歩のところまできました。

 

ひょんなことから発見された“地域の宝”を、地域活性化の起爆剤にした越沢集落。全国にもその魅力を発信できた背景には、野尻さんをはじめとする地元の人たちの地道な努力の積み重ねがありました。

 

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私は取材やプライベートで何度も越沢集落を訪れましたが、いつも生き生きと、楽しそうにそばを作る野尻さんたちの姿が心に強く残っています。令和4年の営業は12月18日で終了し、令和5年3月19日から再開する予定とのこと。これからも地域一体となって越沢集落にしかない“宝”を大切に守り育ててほしいと願ってやみません。

 

県内には、ほかにもたくさんの在来作物が存在しています。気づいたときには消滅していたということにならないよう、越沢集落の活動も参考にしながら、在来作物を守り育て、地域の活性化にもつなげてほしいと感じました。

 



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山形局記者 | 投稿時間:14:27