【記者特集】水害から地域を守れ"田んぼダム"

 

20221114_suzuki_01.png

 

突然ですが、“田んぼダム”というのをご存じですか?

田んぼダムとは、大雨のときに田んぼに一時的に水をためるという取り組みなんです。

 

住宅地などへの浸水被害の軽減につながると期待されていて、

県内でも少しずつ広がってきています。

 

 

 

“田んぼダム”とは

 

20221114_suzuki_02.png

 

田んぼダムの仕組みです。

 

大雨が降ると、田んぼにたまった水は排水口を通ってそのまま水路に流れ出るため、川の水位は上昇します。

 

20221114_suzuki_03.png

 

一方、田んぼダムは、排水口に穴の開いた1枚の板を設置します。

 

20221114_suzuki_04.png

 

大雨が降ったとき、一定量の水を田んぼにためて水路に流れ出る水の量を減らすことで川の水位が急激に上がることを防ぎます。

 

20221114_suzuki_05.png

 

新潟市が行った排水量の違いを調べる実験画像です。

 

右側の通常の田んぼと左側の田んぼダムでは、水路に流れ出る水量に大きな違いがあるのがわかります。

 

20221114_suzuki_06.png

 

田んぼダムは、板を設置するだけで手間はほとんどかかりません。

 

一定量の水をためられる水田を活用していて、国の調査では大雨によって水位が上がっても米の品質や収穫量に影響はないとしています。

 

 

豪雨の被災地で実証調査

 

20221114_suzuki_07.png

 

山形県は今年度、飯豊町と川西町で実証調査を行っています。

 

この地域はことし8月の豪雨で住宅の浸水被害が相次ぎました。

 

県は浸水被害を防ぐ“田んぼダム”の効果などについて分析を進めています。

 

20221114_suzuki_08.png

 

「今後分析して、このような効果があるとか、農家に対して地域防災の重要性などを示せれば、取り組みも進むのかなと思います」

 

 

“田んぼダム”独自の取り組み

 

20221114_suzuki_09.png

 

天童市西部の三郷堰地区では、7年前から農家の人たちが独自に田んぼダムに取り組んでいます。

 

20221114_suzuki_10.png

 

この地域では、過去、水害に見舞われてきました。

9年前の平成25年から2年続けて、住宅近くの道路や農園が浸水しました。

 

20221114_suzuki_11.png

 

この地区で米農家をしている長瀬正宏さんは、農家仲間とともにNPO団体を立ち上げ、田んぼダムの取り組みを進めてきました。

 

現在、この地区にある水田あわせて500ヘクタールのうち半分を超える280ヘクタールまで広がっています。

 

20221114_suzuki_12.png

 

「田んぼダムはなるべく地区全ての田んぼでやりたい。それで少しでも水害が抑制されればなと思います」

 

20221114_13.png

 

田んぼダムの効果をより高めるにはどうすればよいのか。

 

長瀬さんたちは一部の地区だけでなく広い範囲で取り組むことが必要だと考えています。

 

20221114_14.png

 

最上川沿いにある三郷堰地区は天童市の下流に位置します。大雨が降った場合、上流からも水が流れ込でくるため、浸水被害を防ぐには上流地域の農家の協力が欠かせません。

 

20221114_15.png

 

長瀬さんたちは協力してくれる農家をさらに増やそうと話し合いを重ねています。

 

その中で出た意見は、田んぼダムに対する“意識の差”をどうやって埋めるかでした。

 

20221114_16.png

 

「8月豪雨では置賜の方で被害があったけど、対岸の火事じゃないですけど切迫感が伝わってないところがある」

 

20221114_17.png

 

「三郷堰地区だけ100%やったとしても全然足りない。やっぱりほかの地区、上流部あたりに一緒に取り組んでもらわないと、なかなか効果というのは見えない」

 

20221114_18.png

 

長瀬さんたちは、水害から自分たちの地域を守るためには市全体で連携して取り組むことが大切だとアピールして、ほかの地区にも協力を呼びかけることにしています。

 

20221114_19.png

 

「水害をなくすには上流のほうから行動をとってもらわなければならない。安心安全な生活を送りたいっていうのが第一ですから、田んぼダムの整備を進めることによって水害がなくなればいいなと思ってます」

 

 

効果は? 浸水面積47%減

 

20221114_20.png

 

田んぼダムの効果について新潟大学農学部がことし7月の宮城県大崎市での豪雨でシミュレーションしました。

 

田んぼダムを地域全域で取り組んだ場合、

取り組んでいない場合と比べて浸水面積が47%減少するという結果が出たといいます。

 

20221114_21.png

 

「最近の雨の降り方は大きく変わってますので、田んぼダムは想定を超えるような雨が来た場合に被害を軽減するような対策であるべきだと思っています」

 

「例えば避難時間を稼ぐとか、そういった効果というものは得られると思います。すなわち従来の治水対策を補完する対策が田んぼダムであるべきだというふうに考えています」

 

さらに宮津助教は、田んぼダムは農家のボランティア精神に頼っているため、農家が取り組むきっかけ作りが必要だとしています。

 

20221114_22.png

 

先進的に取り組んでいる新潟県見附市では、田んぼダム1か所ごとに年間500円を市から農家に支払っています。

 

また、栃木県宇都宮市では田んぼダムで栽培した米を学校給食や企業の社食で買い取ることを検討しているということです。

 

20221114_23.png

 

堤防の整備といった水害のハード整備にはばく大な時間とお金がかかります。

 

それに比べ、田んぼダムは1枚の板を設置するだけで手間もお金もさほどかかりません。

 

田んぼダムだけで水害を完全に防ぐことはできませんが、広い範囲で取り組めば効果があがり被害を軽減させることにつながります。

 

農家のボランティア精神に頼るだけでは限界があるので、県は農家が取り組みやすいきっかけを作るなどして、行政と農家が連携して取り組んでいく必要があると感じました。

 



記者特集    

山形局記者 | 投稿時間:14:39