山形県内に大きな被害をもたらした8月の豪雨災害。
置賜地方を中心に多くの田んぼが冠水し、一部は土砂が流れ込みました。土砂を取り除く作業が進んでいますが、ことしのコメの収穫量にも影響が出ています。
10月25日時点でのことしの米の作柄、県全域では「平年並み」となりましたが、置賜地方は「やや不良」となっています。また、米が着色したり、実りが悪くなったりする質の低下も確認されています。
こうした中、豪雨災害で浮き彫りとなったのが、世界的な半導体不足が農業に及ぼす影響です。
冠水・土砂流入で刈り取れず 農機具にも影響
豪雨によって大きな被害が出た、飯豊町。
県によりますと、町内の田んぼの9割近くで冠水・土砂流入の被害が確認されました。こうした田んぼの一部では、刈り取りができない稲が残されています。
●佐原一治さん:
用水路が氾濫し大量の土砂が田んぼに流れ込みました。流木や土砂は今もそのままの状態で残されていて、ことしの刈り取りを断念しました。
「豪雨で被害が出るまでは丹念に育てていた。土砂が入ったあとは手入れを諦めたが何もしなくてもこんなに育っていて、稲刈りできないのが悔しい」
流れ込んだ土砂は自力で取り除けるような量ではなく、田んぼの脇を流れる川が田んぼの一部を削り取っていて、行政などの力を借りざるを得ない状況です。来年の田植えができるかどうかも不透明なままです。
●遠藤善夫さん:
田んぼに土砂が流れ込み、ことしの収穫量は2割あまり減少。
50年以上米を生産してきたものの、こうした被害は初めてだといい、生産者としての苦悩を明かします。
「1年間かけて作った米が収穫できなくて、ほったらかしにしておくことは本当にもったいなくて情けない」
収穫に使うコンバインは、刃やチェーンなどが入り組んだ構造で、異物の混入で破損や不具合が生じます。遠藤さんが別の生産者と共同で所有するコンバインは1台のみ。故障すれば収穫できなくなるため、例年より時間をかけて、慎重に刈り取りを行いました。しかし、それでも木片などを巻き込み、コンバインの刃が折れてしまいました。
「刃だけでよかった。内部が壊れたら大変なことになるところだった。機械がなければ農業はできない」
農機具がない!!!
8月の豪雨では、農業には欠かせない農機具も水没して使えなくなるなど、大きな被害が出ました。ところが、その大切な農機具をすぐには新調できない生産者もいます。
●鈴木寛幸さん:
収穫した米の乾燥や調整を行う作業場が浸水。田んぼで使う草刈り機や田植え機といった農機具や乾燥機など、機械一式が水没しました。
家族や友人などの力を借りて作業場の復旧作業を続け、稲刈りが始まる前日に新たに購入した農機具などの設置が終わったといいます。
「1番の問題は、新たに購入した農機具の支払い。水没した農機具との二重ローンを組まざるを得ない。担い手の高齢化がさらに進めば、農機具への依存はその分大きくなっていく。機械は絶対に欠かせない。コンバインなど高額な農機具が使えなくなった生産者の中には離農を考える人もいる。国や県といった行政の支援が必要だ」
●「いいで農産」高橋勝さん:
鈴木さんと同じように、作業場が浸水。米の色などを測定し質の高い米粒を選別する「色彩選別機」や乾燥機が水没して使えなくなり、被害額は数百万円にも上るといいます。
収穫前に買い替えようとしましたが、メーカーからは「新品を用意できない」との返事。理由は、世界的な“半導体不足”でした。
米作りでは、田植えや収穫などの作業に応じ、時期によって異なる農機具が必要です。インターネットのオークションを通じて急きょ中古品を確保し、秋の収穫にぎりぎり間に合いました。
「肥料も農薬も、燃料も価格が高騰する中での今回の水害。水没した色彩選別機はまだ2年しか使っていない上、またお金を借りて新品の機材をそろえないといけない。今後に不安がないと言えばうそになる。農機具が買えないという状況は、生産者としては、はっきり言って厳しい」
深刻な“半導体不足”の影響
東北の多くの米農家も使っている農機具を製造している島根県のメーカーは、半導体不足による納期の遅れという問題に直面しています。
ことし4月に納品予定だった大型トラクターは、11月に入っても製造が続いていて、一部は納品できずにいます。部品が1つでも足りなければ完成しないからです。半導体が使われているエンジンなどが入手できず、部品の発注をおよそ半年前倒しするなどの対応に追われています。さらに、少しでも早く手に入れようと輸入方法は船便から航空便に変更。追加費用はメーカー側で負担しています。
三菱マヒンドラ農機 金塚巧製造担当役員
「お客さんに少しでも早く届けるために生産順位を工夫していく。場合によっては工場を土曜日も稼働させるなどの対応もとっている。われわれのコントロールできる部分とできない部分があるので、コントロールできる部分については精いっぱいやっていくし、物をそろえるための努力を継続していきたい」
対策①“見込み発注”
こうした中、農機具を販売する側も、対策に乗り出しました。
それは「見込み発注」の増加。農家からの注文を前に農機具を先に発注するというもので割合を1割余り増やしました。売り切れない場合の在庫リスクも覚悟の上です。
三菱農業機械 尾形敏宏山形支店長
「賭けと言われればその通りだが、お客さんがほしいときに物がありませんとは言えないので、そのために在庫の確保はしなければならない」
対策②聞き取りの前倒し
一方、地元の農協も11月から新たな対応を始めました。生産者を1軒ずつ訪問し、今後の農機具の購入予定などを聞き取っています。例年、年明けに実施していましたが、ことしは2か月ほど前倒ししたのです。
「豪雨災害に見舞われたこともあり、農機具の需要はあるが物が来ないという状況になっていて、少しでも迷惑かけないように物の確保をしていきたい」
豪雨災害で浮き彫りとなった“半導体不足”が農業に与える影響。日本の主食米の安定供給にも影響を及ぼしかねない問題です。農機具の需給のバランスは、製造する側と使う側それぞれの知恵と工夫で、ぎりぎり成り立っています。農業に欠かせない肥料や農薬などの価格高騰も相次ぎ、米農家の経営は厳しさを増しています。厳しさに耐えかね米づくりを諦める農家が増えると、日本の食の安全が脅かされる事態となりかねません。日本の米づくりは岐路に立たされようとしています。
山元康司
(やまもと こうじ)
国際部・シンガポール支局長・経済部などを経て令和4年8月山形局に赴任 山形の魅力はコメ・野菜・果物・温泉、そして何より「人」 おにぎりは塩むすび派
永田哲子
(ながた・さとこ)
令和2年入局。東京都出身。
令和3年11月から米沢支局で政治や子ども、文化などを取材しています。
置賜の魅力をたっぷりお伝えします!
山形局記者 | 投稿時間:15:35