東日本大震災では、岩手、宮城、福島で74の高齢者施設が被災し
利用者と職員あわせて638人が犠牲になりました。
あの日から11年。
高齢者施設の津波避難対策が全国的な課題となる中、津波の浸水想定区域に立地する鶴岡市内の施設を取材しました。
NHKは東日本震災から11年を前に、全国およそ5万5000か所の施設の津波の浸水リスクをビッグデータを使って独自に調べました。
その結果、震災後、津波の浸水想定区域の中に開設された施設が
1892か所にのぼることが判明しました。
NHKでは、この1892施設を対象にことし1月から2月にかけてアンケートを行い、20%あまりにあたる391施設から回答を得ました。
その中で、実際に津波が来た際、避難計画に沿って全員の安全を確保できるかどうかについて尋ねました。
その結果、回答のあった352施設のおよそ7割が「不安がある」と回答しました。
鶴岡市の施設と同じように、多くの施設も避難計画どおりに避難することに不安があるという結果になりました。
また、アンケートでは、夜間の職員数については、84%が「不十分」と回答しました。
一方、今回取材した鶴岡市の施設は将来的に津波リスクの極めて低い場所への移転も検討しているということです。
アンケートでは半数近くが移転はしたいが難しいと回答したのですが、その理由がこちらです。
「高いコストがかかり現実的でない」が61%にものぼっています。
多くの施設が、移転はしたいものの土地や資金の確保で難しいと感じているということがわかりました。
NHKが津波浸水域にある全国の施設を取材したところ、
津波のリスクに向き合い、命を守るための模索を続けている施設もありました。
高知県中土佐町(なかとさちょう)の特別養護老人ホームです。津波の想定は15メートルですが、周囲に避難できる高台はありません。
そこで導入したのが写真の白い箱状の乗り物、「津波救命艇」です。
町の協力で屋上や駐車場など7か所に設置しています。
がれきなどとの衝突にも耐えることができ、津波が来た際には、水に浮かんで救助を待ちます。
一方、静岡県焼津市(やいづし)の高齢者施設が震災後に設置したのが、「津波避難階段」と呼ばれる外階段です。入所者や住民が屋上に避難するためのものです。
避難した住民に入所者の避難も手伝ってもらう計画で、町内会と合同で訓練も行っています。
専門家は、長期的には移転も検討しながら、今できる対策を行政や地域と連携して行うべきだと指摘しています。
高齢者施設の防災に詳しい跡見学園女子大学の鍵屋一 教授は
「高齢者施設は津波が来たときに逃げられる状況にあるのか、なければどういう課題があるのか、それを施設に考えておきなさい、自分でやりなさいというだけでは課題は解決できない。限界があると思う。地域住民と行政と施設経営者の方々で避難方法についてあらゆる知恵を絞って助かるように考えていかなければいけない」
と話しています。
津波避難階段を使う場合、車いすの人1人を避難させるには2人以上の人手が必要で、地域住民の支援が欠かせません。
また、アンケートでも多くの施設が回答していたように移転には非常に多くの費用がかかります。
鍵屋教授は、人材不足で介護人材の人件費が高騰する中、施設側が津波対策にどこまで予算をかけられるのかという課題もあると指摘しています。
津波避難を施設だけの問題にせず、高齢者をいかに守るか社会全体で考えていく必要があると思います。
山形局記者 | 投稿時間:18:16