“妊娠前にワクチンを打つと不妊になる”
“妊娠中にワクチンを打つと流産する”
一時、SNSなどでは新型コロナウイルスのワクチン接種と妊娠の関係について、さまざまな情報が拡散しました。
これらの情報について厚生労働省や専門の医師は“根拠のないデマ情報”として否定していますが、ワクチン接種が進む中、妊娠を前にした接種への不安が広がっています。
どうする?妊娠前のワクチン接種
このうち子どもを望み、不妊治療を続ける人たちが通う専門のクリニックでは、ワクチンに対する相談が相次いでいます。
鶴岡市の不妊治療を専門とするクリニックの斎藤憲康院長は、1日あたりおよそ40人の診療にあたっています。
その中で、『ワクチンを打つと不妊症になるというのは本当か』とか『ワクチンを打つと精子が少なくなるのか』といった相談を受けることが多いということです。
去年から斎藤院長のクリニックで不妊治療を受けていた酒田市の
30代の女性もその1人です。
女性はことし3月にワクチン接種の機会がありましたが、治療を続ける中でのワクチン接種に戸惑いがあったといいます。
「ワクチンを接種することで、妊娠したあとの赤ちゃんに影響はないのか?」
「ワクチンと赤ちゃん、どちらを優先したほうがいいのか?」
ワクチン接種が妊娠に及ぼす影響を心配した女性は斎藤院長に相談するためクリニックを受診。
すると斎藤院長からは“ワクチンが安全であること” “妊娠したあとに感染するリスクを考えれば接種を優先したほうがいいこと”を伝えられました。
専門の医師からの正しいアドバイスによって、女性は不妊治療中のワクチン接種を決めたのです。
不妊治療中のワクチン接種は
女性が受けていた不妊治療は、卵子を採取して受精させたあと体内に戻す「体外受精」です。
当初はことし2月に体内に戻す予定でしたが、ワクチン接種のために、治療のスケジュールを4か月延長。
その期間に女性は接種を終えました。
そして無事、6月に妊娠することができました。
女性は「ワクチンを打っていないと、おそらく外出もできないし、仕事に行くのも不安が大きかったと思います。ワクチンを打ったあとに妊娠をして本当によかったと思っています」と話していました。
コロナ禍でも安心して赤ちゃんを授かることができるよう、斎藤院長は妊娠前のワクチン接種を強く勧めています。
「産婦人科学会でも、一般的にも、外国のデータでも、ワクチンの妊娠に対する影響はないと言われています。不妊治療中でもワクチンを早めに打ってもらって、これから産まれてくる赤ちゃんに対して、本当に元気に産まれてきてって言えたら1番いいと思います」
副反応が不妊治療に与える影響は
今回取材した中で最も重要だと感じたのは「不妊治療とワクチン接種のスケジュール」です。
ワクチンを接種すると発熱や頭痛などの副反応が出ることがあります。
斎藤院長によりますと、こうした副反応が出ると、不妊治療を行うことができない場合があるということです。
たとえば体外受精の場合は発熱があると卵子を採取することはできないからです。
そのため斎藤院長によりますと、
▼不妊治療中でもワクチン接種のタイミングはいつがいいのかを担当の医師とよく相談すること、
▼もしくは治療前の検査の段階でワクチンを接種することが望ましいということです。
安心して赤ちゃんを産むために
また斎藤院長は
「ワクチンについて、ネット上の情報やうわさを耳にする中で少しでも不安を感じたら、1人で抱え込まずに専門の医師に相談してほしい」
とした上で、
「不妊治療は仕事や家庭などと両立しながら治療を受ける人が多いため、当事者は妊娠に焦りを感じてしまい、ワクチン接種を後回しにしてしまう人が多い。そのため一緒に住む家族など周囲の理解が重要になる。女性に限らず夫婦で、一緒に住む家族みんなでワクチンを接種してもらえたら」
と話していました。
コロナ禍でも誰もが安心して不妊治療を受け、出産ができるよう、ワクチン接種への正しい理解が進んでほしいと感じました。
記者特集 やままる 小林桃子 山形局記者 感染しても安心して暮らせるように
山形局記者 | 投稿時間:17:46