【記者特集】相次ぐ豪雨「ひと事とは...」

 

「とても、ひと事ではない」。

 

県内の介護施設の施設長が、私たちの前で口にしたことばです。

 

20200720_kazama_01.jpg

 

熊本県などを襲った記録的な豪雨では、球磨川のそばにあった特別養護老人ホームが濁流にのまれ、逃げ遅れた14人の高齢者が亡くなっています。

 

20200720_kazama_02.jpg

 

山形県の介護施設にとっても、まさにひと事ではありません。

県に取材すると「浸水想定区域」にある県内の介護施設は376か所に上ることがわかりました。

そこで、危機感を強めている介護施設を取材しました。

 

 

20200720_kazama__03.jpg

 

 

どこに逃げれば

 

上山市の特別養護老人ホーム「蓬仙園」(※「蓬」の字のしんにょうは点が1つ)には、短期利用も含めると100人の高齢者が入居しています。目の前には川が流れ、裏手の山は「土砂災害警戒区域」に指定されています。

一方、施設は平屋で2階に逃げることはできません。

 

理事長の島崎みつ子さんは

「建てた当初は川も山もあって自然に恵まれていい場所だと思っていたけど、今ではこの2つがリスクになってきた」

と話しています。

 

20200716_04_.jpg

 

再来年には、より安全な場所に移転する計画ですが、それまでの間、どうやって入居者の安全を確保するのかが課題となっています。

 

そこで今、検討しているのが入居者をほかの施設に避難させることです。

2月には、近隣の施設にアンケートで、緊急時に入居者を受け入れてもらえないかを尋ねました。結果、これまでに上山市と山形市であわせて16の施設と病院が受け入れる意向を示してくれました。

 

20200720_kazama_05.jpg

 

しかし、島崎理事長によると、そうした施設の中には、川の近くや、土砂災害の危険がある場所に建っている施設もあるそうです。

このため、理事長は

「いざ災害が起きたら、受け入れてもらえないこともあるのではないか」

と不安を口にしています。

 

また、ほかの施設まで避難する場合、誰が入居者を送り届けるのか、おむつなど必要な物資をどれくらい持っていけばいいのか。

新型コロナウイルスの感染に最大限の注意を払わなければいけない状況で、どれだけの人数を受け入れてもらえるかなど「話し合わなければいけないことがたくさんある」と話していました。

 

20200720_kazama__06.jpg

 

思い切った対策を取った施設もあります。

同じく川沿いにある山辺町の特別養護老人ホーム「やまのべ荘」は、国の想定で最大2メートル80センチまで浸水するおそれがあるとされています。この施設も平屋建てなので天井まで水につかってしまいかねません。以前には施設のすぐ近くに水が迫ってきたこともあったそうです。

 

20200720_kazama_07.jpg

 

「何かあったときに小学校に避難しようとしても、距離がおよそ2キロあるんですよ。これは2階建てか多層階の施設がないと、避難するのは時間的に人的にも難しいところがあると思っていました」。

 

20200720_kazama_08.jpg

 

そこで、去年4月、敷地内に建設したのが2階建ての「避難棟」です。去年10月の台風19号でも、午後10時すぎに町が避難準備の情報を出したため、100人あまりの入居者を避難棟に避難させました。

 

20200720_kazama__09.jpg

 

しかし、ここで思わぬ問題が起きました。入居者の大半は車いすなどの介助が必要です。エレベーターも設置していましたが、1度に乗れる車いすは4台まで。5人の夜勤の職員に加えて、ほかの職員も応援に駆けつけましたが、全員が2階に避難できたのは避難準備の情報が出てからおよそ2時間半後でした。

 

砂押施設長は「今回の熊本のことは、とてもひと事ではありません。職員を早く呼び出して人数を集められるよう体制を整えていきたい」と話していました。

 

 

介護施設 なぜ川沿い?平屋?

 

しかし、なぜ川沿いにある施設が多いんでしょうか?

 

20200720_kazama__10.jpg

 

介護施設の危機管理に詳しい「びわこ学院大学」の烏野猛教授は、川沿いのほうが土地が広くて安いことと、昔は高齢者施設などを住宅地に作ることに住民から反発があったことが背景にあるとしています。

 

そして、今回取材して感じたのは、平屋建ての介護施設が多いことです。烏野教授によると、これは全国的な傾向で、その理由として、高齢者や職員が移動しすいことや、火災が起きても避難しやすいことなどがあるそうです。

 

また、2階建ての施設を建てたり、移転させたりする財政的な余裕がないというところも少なくありません。

 

 

どうする?豪雨への備え

 

20200720_kazama_11.jpg

 

こうしたさまざまな事情がある中で、介護施設はどう豪雨に備えていけばいいのでしょうか。

 

烏野教授によると、過去の水害で特に被害が大きかったのは、職員が少ない土日の夜間だったケースが目立っています。

 

そのため、介護施設ごとに職員をどのタイミングで呼び出すかや、入居者をどこにどう避難させるかを盛り込んだ「避難確保計画」を作ることが大切だということです。

 

避難先については、近くの介護施設か、近くにない場合はホテルや旅館、公共施設などが候補として挙げられますが、いずれの場合も、避難する場合の連絡方法などを事前によく相談しておく必要があるということです。

 

20200720_kazama_12.jpg

 

あとは、避難場所までいかに早くたどり着くかです。

 

烏野教授は

「最近は予測できないような災害も起きているので、空振りになってもいいから早めに避難するのが大事だ」

と指摘しています。

実際に避難を始めるタイミングは施設の立地などによって異なりますが、状況しだいでは、自治体から避難準備の情報が出るより前に避難することも考えてほしいということでした。

 

毎年のように異常気象が続く中、今回のような豪雨は、いつどこで起きてもおかしくありません。

介護施設の関係者の方はもちろん、そのほかの皆さんも、どうか早めの避難を心がけていただけたらと思います。

 



記者特集    

山形局記者 | 投稿時間:16:55