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2018年98日放送 午後900分~NHK-FM

放送一覧

『レモン色の恋』

原案:石田千穂、岩田陽菜、薮下楓

脚本:北阪昌人

★参考:ピット

出演

石田千穂、岩田陽菜、薮下楓、山寺宏一

あらすじ

瀬戸内海を見下ろす丘の上にあるSTU中学。三年B組の岩田陽菜男は、新しく転校してきた石田千穂に一目ぼれする。しかし、親友の薮下楓太も同じく石田に一目ぼれ!気持ちをすぐ言葉にできる薮下の存在に、内気な岩田はますます自信を失う。それから数日後、岩田は、道ばたにうずくまり、キーホルダーを探している石田に出会う。一緒に探していると、ふいに薮下があらわれて…。果たして、石田をめぐる三角関係の行方は…。

人物相関図

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ナレーション:ここは、瀬戸内海にぽっかり浮かぶ、小さな島。暑かった夏もようやく峠を越え、風には、秋の香りが混じっています。海を見下ろす丘の上にある、STU中学は、2学期を迎えました。三年B組のクラスに、ひとりの転校生がやってきたようです。担任の、坂本銀八先生が、紹介しています。


担任:はい、みんな、いいですか、人という字は、こうやって、はい、支えあって、できています。そして、入る、という字も、こうやって、支えあって、いるんです。入ってくるひとを、ちゃんと支える。それこそが、わが、STU中学の伝統なんです、はい、いいですかぁ。はい、そこ、おしゃべりしない! ええ、今日からこのクラスの仲間になる、石田千穂さんです。はい、石田、挨拶してくださいねえ、挨拶。

石田:はい、ええ、ただいま、ご紹介いただきました、石田千穂です。どうぞ、よろしくお願いいたします。

担任:ええ、石田は、なんでも、モノマネが得意だとか。ひとつふたつ、やってもらおうかな、はい、みんな、注目!

石田:えーー!? い、いま、ここで、ですか?

担任:はい。そうですよ。最初が肝心なんでございます。恥ずかしがらずに、思い切って、どうぞ!

石田:じゃ、じゃあ、ローラさんの真似、やります。

担任:・・・シーン、はい、いいんです、微妙でもいいんでございますですよ。青春ってやつは、恥ずかしい、恥ずかしいことをやるから、青春なんでございます。

岩田:か、か、か、かわいい・・・な、なんなんだ・・・あの美少女はっ! ぼ、ボク、岩田陽菜男(いわた・ひなお)は、一目で、胸を撃ち抜かれた。

薮下:なんや、めっちゃ可愛い子やなあ、陽菜男。

岩田:あ、ああ。

岩田:前の席の薮下楓太が、振り返る。無理もないよな・・・あんなかわいい子、めったにいない。

担任:ええ~、石田の席は・・・薮下の隣が空いてるな。

薮下:やった!!

担任:ええ? どうした、薮下?

薮下:いえ、こんなかわいい子が、ボクの隣なんて、めっちゃ、うれしいです!

担任:素直な薮下、先生、嫌いじゃないぞ。人間、素直がいちばん。はい、素直の「素」という字には、「糸」という漢字が入っています。糸は、紡ぐもの、糸は、結び付くもの。人間社会の、基本なんであります。

岩田:石田、千穂、この転校生が、ボクと薮下の友情を、壊していくなんて思いも、しなかった・・・。

薮下:石田さん、オレは、薮下楓太。困ったことがあったらなんでも聞いてくれよ。

石田:はい。ありがとうございます。

薮下:ございますなんて、やめてくれよ。こうして隣どうしになったのも、何かの縁だよ、もしかしたら、オレたち、結婚しちゃうかもな、ははははは、

石田:け、結婚?

岩田:薮下は、いいよなあ、あんなふうに気持ちをすぐ言葉にできて・・・ボクは何もいえずに・・・。ただ、石田さんの後ろ姿を見ていた。

薮下:あ、オレさ、バスケ部のキャプテンなんだ。ウチの部、けっこう強いんだ。あ、よかったら、放課後、見学に来ない?

石田:え? あ、ああ、あの、今日は・・・。

薮下:そっか、転校初日だしね。OK、そのうちに、見にきてね。オレさ、自分でいうのもなんだけど、けっこう、モテるんだぜ。ファンクラブが、あるんだ。ははははは、な、岩田、

岩田:いきなり、薮下が振り返って、ボクを見た。

薮下:こいつ、岩田陽菜男。オレの親友。

岩田:うわ! 石田さんが、ボクを見た・・・大きな瞳だ。

石田:よろしくお願いします、石田です。

岩田:ど、ど、どうも・・・。

岩田:どうもって、満足に自分の名前も言えないのかよ。ああ~、情けない!

薮下:おいおい、岩田、どうした? なに緊張してんだよ。あ、あれか? まさかおまえ、石田さんにひとめぼれか?

岩田:え? ええ?

薮下:なんだよ。図星か~? 顔、真っ赤だぜ。はははっは。

岩田:このときほど、薮下をぶんなぐりたいと思ったことはなかった・・・。


ナレーション:さて、それから数日がたった、ある日の放課後。遠く見える瀬戸内海に、夕日が落ちていきます。その美しさは、見たひとに一生分の感動を与えるほど。おだやかな水面(みなも)が、オレンジ色に染まっていきます。


岩田:ボクは、自転車に乗って校門を出た。しばらく進むと、道ばたに・・・。

岩田:え?

岩田:誰かが、うずくまっている・・・。

岩田:え? えええ? 石田さん?

石田:あ、どうも。

岩田:どうも。どうか、した? 怪我か、なんか?

石田:ううん、そうじゃなくて、大切にしてたキーホルダー、落としちゃって、

岩田:キーホルダー?

石田:私、インコが好きで、前の中学校の友達が、お別れにくれたの。黄色いインコのキーホルダー。カバンにつけてたんだけど、気がついたら、なくなってて。

岩田:・・一緒に・・・探すよ。

石田:え?

岩田:探すよ。

石田:ありがとう。

岩田:夕暮れの甘い時間が・・・やってきた。


ナレーション::転校生の石田千穂がなくした、インコのキーホルダーを岩田陽菜男は、必死に探しました。草をより分け、竹やぶに入り、汗をぬぐうこともせず、一生懸命、探しました。


石田:もういいよ、ありがとう。

岩田:そんな・・・大切なインコだったんでしょ。

石田:そうだけど。

岩田:じゃあ、もう少しだけ、

石田:でも、暗くなってきたし、明日、朝早く来て、探してみる。

岩田:・・じゃあ・・・ボクも、

石田:え?

岩田:いや、あの、ボクも、

岩田:ボクも、一緒に早くきて探すよ、と言いかけたとき、

薮下:おお、どうした? 岩田に、石田さん、

岩田:薮下・・・。

石田:私がキーホルダー、なくしちゃって、岩田くんが一緒に、探してくれて、

薮下:そのキーホルダーってさ、まさか、これ?!

岩田:薮下の手には・・・黄色いインコのキーホルダーが・・・。

石田:それです! それ、私の、インコ!

薮下:そっか・・・よかった。校門のわきに、落ちてたんだよね。

石田:ありがとう! 薮下くん、見つけてくれて、ありがとう!!

薮下:いやあ、いいってことよ。

石田:よかった! ああ、もう二度と出てこないかと思った。

薮下:そんなに大事なもんなら、もっと大切にしとけって話だぜ。

石田:ほんとだね、そうだね。

薮下:一緒に帰ろうか。

石田:うん。

岩田:あ、ああ、いっけね、忘れ物、したみたいだ。

薮下:ええ? マジかよ。

岩田:あ、ああ。先に帰って。ボクは、じゃあ、これで。

薮下:まあ、忘れ物じゃあ、仕方ないな。

石田:岩田くん、その、ありがとう。

岩田:去っていく二人の背中を見ていた。お似合いだよな、薮下と石田さん・・・。ほんとは、忘れ物なんかしていなかった。ボクは、ボクは・・・弱虫だ・・・。


ナレーション:そんなことがあってから、岩田陽菜男は、薮下楓太と石田千穂の姿を見かけると、いつも、逃げるようにその場を去ってしまうのでした。


ナレーション:岩田の家は、レモン農家です。山の斜面に植えられたたくさんのレモンの木は、10月の収穫を待っていました。今日は、休日。岩田は父親の仕事を手伝っています。


岩田:お父ちゃん、

岩田の父:あ?

岩田:ボクね、意気地なしなんだよ。

岩田の父:そうか。

岩田:好きなひとがいるんだけどね、

岩田の父:ああ、

岩田:自分の気持ちを言うどころか、逃げちゃうんだよ。

岩田の父:はははははは、

岩田:え? なんで笑うの?

岩田の父:オレと一緒だなあって思ってなあ。

岩田:え? お父ちゃんと一緒。

岩田の父:オレもなあ、お母ちゃんのことが好きになったけど、目の前にいると、何ひとつ、言えなかった。

岩田:そっか・・・お父ちゃんも、そうだったんだ。

岩田の父:でもなあ陽菜男。男には、どうしても言葉にしなきゃいけない思いってやつが、あるんだ。たとえ、その言葉を言うことで、笑われても、怒られても、逃げられても、言わなくちゃいけないときが、あるんだ。黙っていても伝わるなんていうのは、幻想だ。いいな。思いを伝えて、ダメなら、すぐにあきらめる。しつこくしちゃあ、ダメだ。人生は短い。ダメなら、次だ。ほれ、みろ、レモンだって、こっちがダメでも、こっちがよければ、それでいい。

岩田:レモンと一緒にするなよ・・・。

石田:おおい! 岩田く~ん!

岩田:そのとき、ボクは、天使のような声を聴いた。

石田:石田く~ん!

岩田:い、い、石田さん!

岩田の父:ほれ、向こうから、やってきた。

岩田:そんなことが・・・石田さんが、ボクに向かって走ってくる!と思ったら・・・。

薮下:おおい!! 岩田!!

岩田:って、薮下も一緒かよ・・・。

薮下:おじさん、こんにちは。

岩田の父:おお、こんにちは。

薮下:あ、このひと、岩田の父ちゃん。

石田:あ、初めまして、私、石田千穂と申します。

岩田の父:いやあ、ウチのバカ息子が、いつもお世話になっとります。

岩田:バカ息子とかいうなよ。

薮下:いや、あのさあ、岩田んちが、レモン農家やってるって言ったらさ、石田さんが、見にいきたい~っていうもんだからさ。

石田:私、レモン、大好きなんです! ほら、インコのキーホルダーもレモン色!

岩田の父:そうですか~、瀬戸内は、美味しいレモンをつくります。これ、どうぞ、まだちょっと青いが、うまいですよ。

岩田:石田さんが、お父ちゃんがさしだしたレモンを、かじる。

石田:うわあ・・・すっぱいけど、めっちゃ美味しい!

岩田の父:瀬戸内の太陽と風と水が、こいつを育ててくれるんです。ま、ごゆっくり。私はこれで。

岩田:ああ、ボクは、レモンになりたい、心からそう思った。

石田:素敵なところだね、ここ。

岩田:斜面で作業するのは、腰が痛い! ってお父ちゃんはいつもいってるけど。

薮下:岩田は、あれだよな、レモン農家を継ぐんだよな。

岩田:まだ決めてないけど。

石田:岩田くんの夢?

岩田:まあ、そうかな。

石田:素敵。薮下くんの夢は?

薮下:え? オレ? オレは・・・まずはバスケで日本一になる。

石田:そっか。高校でもやるんだね、バスケ。

薮下:ああ。もちろん。石田さんは? 石田さんの夢は?

石田:え? 私?

岩田:ボクは、石田さんの横顔を見た。綺麗な・・・白い・・・横顔。夢は・・・きっと女優か、アイドルか、モデルか・・・。

薮下:笑わないよ、なあ、岩田。

岩田:う、うん、笑わない。

石田:私の夢はね、

岩田・薮下:うん

石田:ブリッジ歩き選手権で、世界一になること。

岩田・薮下:え?

薮下:今、よく聞こえなかった。

石田:ブリッジ歩きで、世界一になりたいの。いい? ちょっと斜面で怖いけど、見せるからね。よいっ、しょっと!!

岩田:いきなり・・・石田さんが、ブリッジをして・・・。

石田:このまま、走るの。私、前の中学で一番だったんだよ。

薮下:そ、そっか・・・。

岩田:それは・・・すごいね。

石田:えい? っと、ああ、頭に血がのぼった。やっぱ斜面はキツイわ。あれ? 二人とも、ひいてない?

岩田・薮下:ひ、ひいてない。

石田:ひくよね。確かに。でも、いいの。私、だれがなんと言おうが、やって見せる。ねえ、好きなことを貫くって、素敵なことだよね。人生で、一番素晴らしいことだと、私は、思う。

岩田:ボクは・・・急に、なんだか、言葉がこみあげてきて、

岩田:ボクは、ボクは!

石田:え?

岩田:石田千穂さんが、好きだ!

石田:えええ?

薮下:このタイミングで?

岩田:だから、ボクも、世界一のレモン農家になる!

石田:・・・ありがとう。岩田くん。

薮下:じゃあオレも、世界一のバスケ選手になってみせる!

石田:ありがとう、薮下くん。

岩田:なんだかわからないけど、青春だ。すっぱい! なんだか、心が、レモンみたいに、すっぱい! 気が付けば、世界がレモン色に、見えた。

収録後のワンショット

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