OnAir

2018年323日放送 午後1000分~NHK-FM

放送一覧

番外編『ガラスの桜』

原案:佐藤詩織、尾関梨香、石森虹花

脚本:北阪昌人

★参考:みっひー、数学嫌いな里穂

出演

尾関梨香、佐藤詩織、石森虹花、山寺宏一

あらすじ

「病院の中庭の桜が全部散ったら、自分の命も散ってしまう…。」と思い込みで衰弱してしまっている尾関梨香。看護師の石森虹花からも病気は快方に向かっていると伝えられるが、聞く耳を持たない。そこで、尾関の父親は、現代美術アーティストの佐藤詩織に、散ることのないガラスの桜の制作を依頼する。果たして、佐藤は散らない桜を作ることができるのか!?

人物相関図

  • ストーリー&キーワード募集
  • メンバーへの質問募集
  • 感想を送る

物語が読める ♪


ナレーション:ここは、欅坂という坂の上にある、病院。中庭に、大きな桜の樹があることで有名です。最上階の病室で、ひとりの患者が、ため息をつきながら、その桜を見ています。


尾関:はあ~。あの桜が散る頃、私の命も散っていくのね・・・。

石森:さあ、尾関さん、お熱、はかりましょうね。

尾関:・・・看護師さん、

石森:はい?

尾関:目に涙をためて、ああ、私のはかない命をあわれんでいるのね。

石森:いやいや、花粉症なんですよ。

尾関:嘘をついたって、ダメ。私にはわかるんだから。

石森:またその話ですか、あのですね、尾関さんは、ちょっと風邪をこじらせただけで、もう快方に向かっていて、

尾関:いいの! そんな気休め、いたわり、聞きたくない! あの桜が散ったら・・・私の命も・・・。美人薄命、そう、ああ、美人に生まれなきゃ、よかった・・・ワ・タ・シ。


ナレーション:病院のロビーでは、尾関の父親が、ある女性と話しています。


父:お忙しいところ、お呼び立てしてすみません、佐藤詩織さん。

佐藤:いえ、私にお願いしたいことって、

父:現代美術アーティストとしてのあなたの才能は、とてつもないと思います。

佐藤:ありがとうございます。『ガラスの造形』という個展に来てくださったんですよね。

父:デザイン力、発想、そして何より、心のこもった魂の作品たち。特にガラスで作った花は、すごかった。リアルで、生き生きとしていて・・・。

佐藤:あの、私に何を・・・。

父:あ、すみません・・・私の娘は、生きる気力をなくしているんです。病気はすっかり治っているのに、勝手に、こう思っていて・・・。この病院の中庭の桜が全部散ったら、自分の命も散ってしまうと・・・。

佐藤:そんな・・・オー・ヘンリー「最後の一葉(ひとは)」じゃないんだから。

父:病は気からといいますが、全くそのとおりで、あの子、梨香の体はどんどん、衰弱していって・・・。で、お願いというのはですね、佐藤さん。中庭の桜、ガラスで作ってもらうことはできませんか?

佐藤:え? 桜を、作る?

父:散らない桜を、あなたに作ってほしいんです!

尾関:あ、また、散った・・・。あ、また風が吹いて、桜が、散った。

石森:しっかりしてください、尾関さん!

尾関:看護師さん、いろいろ優しくしてくれて、ありがとう。

石森:ちょっと、尾関さん! 先生! 尾関さんがっ!

父:お願いします! 院長には、話を通してあります。今夜から、できたら、とりかかっていただけないでしょうか?


ナレーション:アーティスト佐藤詩織は果たして、散らない桜を作ることができるのでしょうか?


父:おい、梨香! 大丈夫か?

石森:お父さん、落ち着いて。

尾関:あ、パパ、今までいろいろありがとう・・・。ねえ、見て、桜がね、ずいぶん、散ってしまったのよ。

父:いいか、梨香、何度も言うが、おまえの病気はもう治っているんだ。

尾関:そんな嘘・・・もういいのよ、パパ。

父:梨香! しっかりしろ!

尾関:バレーボールも25日しか続かなくてごめんなさい。ピアノを6年習ったのに「ねこふんじゃった」しか弾けなくてごめんなさい。水泳も4年通ったのに、壁を蹴ってすすむ蹴伸びしかできなくて、ごめんなさい・・・パパ。

父:しっかりするんだ、梨香! 梨香!

石森:あ、眠ってるだけです。

佐藤:私、佐藤詩織は、ガラスの桜づくりを、引き受けることにした。ただ・・・

佐藤:ひとつだけ、条件があります。

父:条件? なんですか? お金なら、できるだけのことを、

佐藤:いえ、会わせてほしいんです。お嬢さんに。

父:娘に?

佐藤:隣の病室の患者をよそおい、病室横のラウンジで尾関さんに話しかけた。

佐藤:今日は、春の陽射しが気持ちいいですね。

尾関:春って嫌い・・・だって、命がキラキラ輝くから。私みたいに、朽ちていく人間には、残酷な季節だわ。

佐藤:でも、顔色、とってもいいように思いますが、

尾関:ははは、何も知らないのね・・・。病は、内側からやってくるものなの。あなたこそ、元気そう。うわ、なんか、腕の筋肉、すごいわね。

佐藤:まあ、筋トレ、してるんで。

尾関:筋トレか・・・体を鍛えるなんて未来に希望が持てるひとだけができることね。

佐藤:どうしてそんなに悲観的なことばかり言うんですか?

尾関:悲観的? 別に私は・・・。

佐藤:生きることに真剣じゃないひと、私、嫌いです。

尾関:・・・別に、あなたに嫌われても全然、なんともないけど。

石森:あ、尾関さん、ここにいたのね。病室に戻りましょう。お薬の時間ですよ。

尾関:薬なんか飲んだって無駄よ。

石森:そんなことないですよ、どんどん、よくなってますから。

尾関:だから、そんな気休め、やめてって言ってるでしょ!

石森:あ、尾関さん・・・あれあれ、スタスタ元気に歩いてますよ・・・。

石森:どうも、

佐藤:どうも、

石森:尾関さん、いい子なんですよ、とっても。

佐藤:でも、甘えてます。

石森:まあねえ・・・。あ、そういえば、あなた、どこの病室の患者さん?

佐藤:失礼します。

石森:ちょっと、待って・・・あれあれ、バレエダンサーのように去っていくのね・・・。


ナレーション:深夜の病院。中庭では、佐藤詩織が、桜の樹に脚立をかけ、ガラスでつくった花びらを取り付けていきました。


佐藤:夜風が、私のかたわらを、通り過ぎていく。私は、ガラスの桜を枝につけていく。まるで、花さかじいさんのように。桜の樹が、驚いている。ごめんなさい、余計なものをとりつけて。散るからいいんだよね、散るから美しいんだよね、わかってるよ、でもね、少しの間だけ、辛抱、してね。


ナレーション:翌朝、尾関は、看護師の石森に、窓のカーテンを開けるように言いました。


尾関:きっと、ひとつ残らず、桜の花は散っているわね・・・。

石森:じゃあ、カーテン、開けますよ。

尾関:・・・いいわ。覚悟はできてる。

尾関:え? ど、どういうこと?

石森:すごい! 桜が、満開になってる! しかも、朝陽を浴びて、キラキラ輝いてる!

尾関:こ、こんなことって・・・すごい!命が、命が、輝いてる!

父:いやあ、ありがとうございました、佐藤さん、

佐藤:いえ、

父:娘がねえ、急に生きる希望を持ったようで、退院したら、陸上競技の選手になって、オリンピックに出たいだなんていいだす始末で・・・はははは、素晴らしい仕事をしてくれました。

佐藤:なんだろう・・・ほめられても、うれしくなかった。なにか、間違ってる・・・。

尾関:ねえ、石森さん、退院したら、今度一緒にライダースジャケットを買いにいきたい。

石森:いいですよ、ライダースジャケットは、いいですからねえ。

尾関:ねえ、窓をあけて! 桜、もっと良く見たいの。

石森:はいはい。

尾関:え? ねえ、桜の樹に誰かがのぼってる。

石森:ええ?

佐藤:私は、桜の樹にあやまった。ごめんね、やっぱり、違うよね、こういうのは・・・。

佐藤:尾関梨香さん!

尾関:やだ、あのひと、私の名前、言ってる。

佐藤:見ててね!!

佐藤:私は、自分でつくったガラスの桜を、とっては地面に投げつけ、叩き割った。

佐藤:あまったれんじゃない! 生きるって、もっと必死なもの! 尊いもの! ガラスの桜に、だまされるな!

尾関:ええ?

佐藤:桜は散ってしまうけど、散ったその日から、来年咲く準備を始めるの。生きることを、知ってるから、思い切り、散ることができる。

尾関:あれ・・・ガラス・・・だったんだ。

石森:あの音・・・ガラスが割れる音、尾関さんが、殻をやぶる音なのかも、しれませんね。

尾関:殻を、やぶる・・・。

佐藤:しっかり生きるんだ! バカヤロー!!

収録後のワンショット

Page Top