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2016年107日放送 午後1000分~NHK-FM

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『旅なんか大嫌い!』

原案:阿部マリア、中村麻里子、島田晴香

脚本:北阪昌人

★参考:ハサミン、キンキン

出演

阿部マリア、中村麻里子、島田晴香、山寺宏一

あらすじ

旅番組の収録のため、大自然に包まれた山間の小さな村を訪れた美しすぎる旅アイドル、阿部マリア! しかし、インドア派の阿部は、旅アイドルとして各地をめぐる仕事に不満があり、撮影がひと段落するたびにマネージャーの中村に文句を言っていた。
この日の収録をひと通り終え、阿部と中村は宿泊先である一日ひと組限定の宿を訪れるのだが…。

人物相関図

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物語が読める ♪


ナレーション:ここは大自然に包まれた山間の小さな村。綺麗な川には、真っ赤なつり橋がかかっています。その橋の前では旅番組の収録が行われていました。レポートをしているのは、最近、旅番組でおなじみの美しすぎる旅アイドル、阿部マリア!


阿部:はいはーい! どうも、こんにちは、旅大好きアイドルの阿部マリアで~す!
阿部マリアの「行ってみなけりゃ、わかりません!」 今日は、こんな素敵なつり橋のある場所に来ています。素敵な温泉宿もあるそうなので、マリア、ウキウキ! ワクワク!

ディレクター:はいカット! OK! いいねえ、マリアちゃん、サイコー! やっぱあれだなあ、旅好きが旅を案内するのって説得力が違うよなあ!


ナレーション:しかし、阿部マリアは撮影がひと段落すると、途端に不機嫌になり、隣に立っているメガネをかけた地味な女性、マーネージャーの中村に文句を言っています。


阿部:おい、中村!

中村:はい、マリアさん。

阿部:ったくもう、何度も言ってんだろ、あたしは嫌いなんだよ、旅。旅番組はもうやんないって言ったよね?

中村:はあ、あの、それはまあ、聞いてはいますが、マリアさんはもう立派な旅アイドルで、

阿部:だからその旅アイドルっての、やめたいんだよね。あたしはね、家にこもってゲームをやりたいインドア派。旅に出たって、疲れるだけだし、気をつかうし、家に帰ってきて、ぐったりだよ。

中村:はあ、でも、

阿部:でもじゃねえよ! おまけにあたし、高所恐怖症なんですけどぉ。

中村:じゃあ、あの、つり橋は渡ったことにして、ここはその、

阿部:じゃかましいわ! とにかく、今日は撮影終わりでしょ? さあ、ホテル行こう、ホテル。

中村:はあ。

阿部:で、高級ホテルなんでしょうねえ。ジャグジー付きのオシャレなやつ、夕食はフレンチで・・・。中村、だよね?

中村:あ、いや、このような田舎には、その、そのようなホテルは、

阿部:じゃかましいわ! 嫌だからね、あたしが日本旅館苦手なの、知ってるでしょ? 幽霊が出そうで嫌なの、ゼッタイ嫌!


ナレーション:そうして、阿部と中村が向かったのは、一軒の古びた家。


阿部:まさか、ここが、宿?

中村:はい。一日ひと組限定の宿で・・・。


ナレーション:と二人が話していると、


女将:いらっしゃい。疲れたでしょう、さあさあ、あがってあがって、


ナレーション:モンペを履いた女将さんが出てきました。


阿部:中村、

中村:はい、マリアさん、

阿部:ほんとにここに泊まるの?

中村:・・・はい。

女将:さあさあ、どうぞうどうぞ、何を遠慮してるの、さあ、入って。あがってくださいな。

阿部:遠慮は、してません。


ナレーション:阿部と中村は女将さんに宿の中に通されました。


女将:田舎なもんで、たいしたもんはないけどねえ、まあゆっくりしていってくださいねえ。

阿部:中村、もっとマシな宿なかったの?

中村:はあ、すみません。

女将:さあさあ、こっちの囲炉裏の前に座ってくださいな。

阿部:あたしがこういう古い家が嫌なこと知ってるでしょ?

中村:はあ、でも、

阿部:でも、なによ。

中村:いえ、

女将:まあまあ、このお茶でも飲んでくださいな。


ナレーション:囲炉裏の前に座った阿部と中村は、女将さんが出してくれたお茶を飲みました。


阿部:ん? ええ?

中村:美味しいお茶、ですね?

阿部:そうかな・・・そうでも・・・ないんじゃない。

女将:うちの宿に来てくださるお客さんは、このお茶を飲むと、み~んな、ほっこりした、いい顔をしますよ。ふだん、気をはったり、気をつかったり、心がクタクタなんですねえ、でも、このお茶を飲むと、ふわっと、心が軽くなるって言ってくれます、はい。

阿部:あ、その、お茶をおかわり、もらおうかな。

女将:はいはい、いますぐに。

阿部:あ、いや、美味しいとかじゃなく、ほら、ノド、かわいてたから。

女将:はいはい。


ナレーション:そして、二人は部屋に通されました。六畳ほどの畳の部屋。


女将:こちらですよ。狭いですけど、すみませんねえ。

阿部:えええ? マジ? ここで寝るの?

中村:あ、で、すみません、私も一緒に。

阿部:えええ? うそでしょ? アイドルのあたしと、マネージャーのあんたが一緒の部屋? しかも、こんなに狭い部屋?

中村:すみません、ここしかないんで。って、マリアさん、どこにいくんですか?

阿部:帰るに決まってるでしょ、

中村:帰るって、

阿部:ここにはいたくない!

女将:あ、ああ、あのねえ、町に出る最終のバス、もう行っちゃったからねえ、無理だねえ、

阿部:歩く!

女将:山を越えなきゃなんないから、朝になっちまうよぉ。あ、このあいだ、クマが出たって聞いたなあ。ま、人間は襲わないと思うけど、お腹がすいてたら、わかんないかなあ。

阿部:もうタクシー呼ぶ!

女将:はははは、ここいらにはないよ、タクシーは。

阿部:どうすんのよ、中村!

中村:はい。

阿部:ここには一秒もいたくないの!

女将:じゃあねえ、こうしましょうよ、お湯にね、つかってくださいな。ウチのお風呂は、温泉だし、気持ちいいですよぉ、はい。もし、お風呂に入っても、気持ちが変わらんかったら、村長さんに頼んで、軽トラックでおくってもらいますよぉ。

阿部:お風呂に入ったあと、ぜったい、おくってもらいますからね!

女将:はいはい、わかりました。


ナレーション:阿部マリアは、女将の言葉にしぶしぶ従い、お湯につかりました。岩でできた小さな露天風呂です。


阿部:はあ~。ほっこりするなあ・・・。

阿部:不思議なお湯だった。しっとりと肌になじみ、いい香りがする。秋風がときどき、白い湯気をさっと流す。気持ちよかった。体中の疲れが消えていくような感じ・・・。そうして私、阿部マリアは、自分と向き合った。なぜ、中村にあんな態度をとってしまうんだろう・・・。嫌な感じであたってしまう。ほんとうは、とっても感謝しているのに。そう、私は焦っていた。自分をどんなふうに売り込んだらいいのか、焦っていた・・・。


ナレーション:阿部がお風呂からあがると、囲炉裏のまわりには、料理が所狭しと並べられていました。


中村:どうでした? マリアさん、

阿部:ん? あ、まあまあ、ね。

中村:じゃあ、帰るって言いませんか?

阿部:まあね、ほら、あたしだって、そこまでわがまま言えないしね。

中村:ありがとうございます!

阿部:え?

女将:ほれ、麻里子、そろそろいいんじゃないかい。

阿部:麻里子?

中村:あ、マリアさん、すみません、ウチの母なんです。

阿部:え?

女将:麻里子がいつも、お世話になっております。

阿部:ってどういうこと?

中村:この宿、私の実家なんです。一度、マリアさんに来てほしくて。世話好きな母が始めた宿なんです。

阿部:だましたの?

中村:いえ、そんな、

阿部:二人して私をからかって面白かった?

中村:そんな、

阿部:やっぱりあたし、帰る!

女将:ちょっと待ってくださいな!

阿部:え?

女将:確かに、はじめに名のらんかったのは、よくなかったです、ごめんなさい。でもねえ、阿部さん、聞いてくださいなあ。この子はねえ、麻里子は、あなたのことが大好きなんです。なんとか、あなたに、元気になってほしくて、それで、ここに、

阿部:あたしはいつだって元気です。

中村:いえ、違います!

阿部:中村、

中村:マリアさん、迷ってる。焦ってる。でも、私は思います。マリアさんは、そのままでいいんじゃないかって。旅が苦手な人が紹介する旅番組があってもいいんじゃないかって。高所恐怖症のひとが高い場所を案内する番組があってもいいんじゃないかって。私は知ってるつもりです。マリアさんの優しさ、マリアさんの強さ、マリアさんは、アイドルなんです! だから、だから、私・・・。

阿部:泣くなよ、中村。

中村:すみません・・・。

女将:さあさあ、トン汁がさめちまうよ、さあ食べてくださいなあ。

阿部:お母さん、

女将:はいはい、

阿部:あの、娘さんにひどい口のききかたしてしまって、ごめんなさい。

女将:いいんですよ、ただね、この子はね、あなたの担当についたとき、うれしくて、わたしに電話かけてよこしたんですよ、

お母さん、阿部マリアのマネージャーになったよ!ってねえ、

阿部:中村・・・。

中村:私は・・・。

阿部:旅が嫌いな、旅アイドルが、旅する番組?

中村:はい。

阿部:そんなもの、誰が見るの?

中村:マリアさんがやれば、きっと成功します!

阿部:まあいい、とにかく今は・・・トン汁、食べよう。

中村:はい!

女将:さあさあ、おかわり、してくださいねえ。

阿部:美味しい・・・。

中村:よかった。

女将:今まで知らないものに出会う、それは全部、旅、なんですよ。

阿部:はい。


ナレーション:こうして、新しいアイドルが誕生したのです。


阿部:はいはーい! 旅が嫌いな旅アイドル、阿部マリアがおおくりする、『旅なんか大嫌い!』

ディレクター:はいカット! OK! この番組、人気ハンパないよう。やっぱあれだよねえ、旅好きじゃない人がそれでも勧めるいい旅っていうのは、説得力が違うよねえ。

中村:マリアさん! サイコーです!!

阿部:中村、ありがと!

収録後のワンショット

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