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2016年617日放送 午後1000分~NHK-FM

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『翼はいらない~小説家編』

原案:小嶋真子、小笠原茉由、平田梨奈、大森美優

脚本:北阪昌人

★参考:まほ、うみ

出演

小嶋真子、小笠原茉由、平田梨奈、大森美優、山寺宏一

あらすじ

小説『傘もささずに濡れて歩く』で文学賞の最高峰、芥山賞に輝いた大森美優。どこにでもいるフツウの高校生だった美優が小説を書くようになったのは、不思議な出会いがきっかけだった。ある雨の日、美優は傘もささずに濡れている占い師のおばあさんと出会い、文章を書く才能があると声をかけられる。半信半疑の美優だったが、雨の日のたびに現れるおばあさんの言葉が次第に気になり、図書館に通うようになった。そして…。

人物相関図

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物語が読める ♪


ナレーション:ここは、秋葉原のとあるホテルで行われている記者会見。文学賞の最高峰、芥山賞の授賞式が行われていました。カメラのフラッシュを浴びる今年の受賞者は、なんと、女子高生!


美優:どうも、大森美優です。今回、このような素敵な賞をいただいて、身がひきしまる思いがします。これまで、作文がうまいと言われたことはありましたが、まさか、自分が小説で文学賞をいただけるなんて、夢のようです。

記者A:大森さん、やはり小さい頃から才能に恵まれていたんでしょうか?

美優:いえ、私は才能という言葉が嫌いです。私は、思います。神様はみんなに平等に、なにか特技を与えていると思うんです。大事なのは、それに気づくこと、そして、特技に気づいたら、ひたすら努力すること。

記者B:大森さん、フツウの人間は、気づけずにいたり、努力できなかったりしますが、あなたができた理由はなんですか?

美優:それは、

記者B:それは?

美優:翼はいらないって思ったからだと思います。

記者B:翼はいらない、もう少し、教えてもらえますか?

美優:どんな道も、自分の足で歩かなくてはならないということです。自分で歩いた道だからこそ、いとおしいんです。

記者C:受賞作『傘もささずに濡れて歩く』は、どのようなきっかけで書かれたんですか?

美優:そうですねえ・・・それは・・・。


美優:私は、思い出していた。小説を書くようになった不思議な出会いを。


美優:私、大森美優は、どこにでもいる普通の高校生だった。ある雨の日。


おばあさん:ほれほれ、そこの若いおじょうちゃん。


美優:傘もささずに濡れている、占い師のおばあさんに声をかけられた。おばあさんは、魔女のような手で、私をてまねきした。


おばあさん:こっちにきなさい。

美優:なんですか?

おばあさん:あんたには、まだわかっていないようだが、

美優:はい?

おばあさん:あんたは、文章を書くために、生まれてきたようじゃなあ。

美優:文章を書く?まあ作文がほめられたことあるけど、

おばあさん:どうじゃ、わしのもとで修業、せんか?

美優:修業?

おばあさん:ああ、そうじゃ、何事にも近道というものはない。

美優:なんかメンドクサそうだから、いいや、やめとく。

おばあさん:そうかい、じゃあ、仕方ないなあ。


美優:そのときは、すぐに立ち去ったけれど、なんだかおばあさんの言葉が、忘れられなかった。


おばあさん:あんたは、文章を書くために生まれてきたようじゃな。


美優:学校で、友達の梨奈と、真子にその話をした。


梨奈:ええ?なにそれ、きっとなんかの勧誘じゃない?

真子:そうだよ、ヤバイよ、それ、やめときなって。

美優:そうだよね。

梨奈:よかったよ、はい!とか言わなくて、

真子:美優はひとがいいから心配だよ。


美優:次の日も、雨で・・・。


美優:やっぱり雨の中、あの占い師のおばあさんがいた。


おばあさん:おお、また来たのかい。どうだい、修行する気になったかい?

美優:いや、別に・・・。

おばあさん:いいかい、人間にはねえ、みんなそれぞれに、どうしてもやらなくちゃいけないことが、あるんじゃ。それができた人間こそが、悔いのない人生をおくれる。

美優:やらなくちゃ、いけないこと?

おばあさん:そうじゃ、

美優:私は、小説を書くの?

おばあさん:ああ、そうじゃ、

美優:なんで?

おばあさん:あんたの書く小説で、たくさんのひとを幸せにするためじゃ。

美優:そんな力、私にはないよ。だって私はフツウの高校生だし。

おばあさん:ほほほほほ、この世に、フツウなんてもんはないよ。

美優:修業ってなにをするの?

おばあさん:わしの言う本をかたっぱしから、読むんじゃ。読んで読んで
読みまくる。そして次は、書く。無理やりにでも、書いて書いて書きまくる。すると、いつの間にか、書けるようになる、自分の小説が。

美優:読んで、書く、それだけでいいの?

おばあさん:ほほほ、そうじゃ、それだけでいいんじゃ。


美優:それから私は、おばあさんが言う本を読んだ。放課後はいつもひとりで図書館に行った。古今東西の小説を読みあさった。


梨奈:ねえねえ、美優、ちょっと大丈夫? たまにはさ、一緒に遊びにいこうよ。

美優:ごめん梨奈、読みたい本、あるから。

真子:ねえねえ、美優、今日の放課後はさ、駅前にできたカフェでお茶しない?

美優:ごめん真子、読みたい本、あるから。


美優:やがて誰も私を誘わなくなった。でも・・・私は楽しかった。


おばあさん:さあ、今日から、読むのをやめて、書きなさい。

美優:え? 何を?

おばあさん:なんでもいい、頭に浮かんだことを、ただ書きなさい。

美優:なんでもいいの?

おばあさん:ああ、なんでもいい。

美優:わかった。


美優:私は書いた。ひたすら書いた。読むより、苦しかった。でも、白い紙を文字で埋めていくと、一歩一歩、自分の足で山の頂を目指しているような気持ちになった。


梨奈:ねえ、美優、

美優:なに? 梨奈、

梨奈:こういう賞があるんだけど、出してみたら?

美優:え?

梨奈:いや、真子と話したんだけど、私たち、応援したいなって。美優のこと。

美優:梨奈・・・。

真子:いや、最初はさ、つきあい悪くなった美優のこと、なんだよって正直思った。でもね、美優がすっごく頑張るから、頑張り続けるからあたしら感動したっていうか。

美優:真子・・・。

梨奈:賞に応募してみなよ。

美優:ありがとう!


美優:私はある雑誌の賞に応募した。そして、小説『傘もささずに濡れて歩く』は、めでたく賞をとり・・・


梨奈・真子 おめでとう!! 美優!

美優:ありがとう、梨奈に、真子。


美優:さらに芥山賞にもノミネートされた。


美優:おばあさん、私、ついにノミネートされたよ。

おばあさん:そうかいそうかい、これでわしの役目は終わったようじゃなあ。

美優:え?

おばあさん:もうあんたは大丈夫じゃあ、

美優:そんな・・・おばあさん、まだまだ教えてよ。

おばあさん:教えることはないよ。全部、自分の足で歩いたんじゃ、自信を持ちなさい。

美優:おばあさん!


美優:ふっと気がつくと、一瞬でおばあさんの姿は消えていた。そして、いつしか、雨もあがっていた。


ナレーション:さて、ここは、芥山賞の記者会見が行われているホテル。たくさんの報道陣に囲まれる大森美優の姿がありました。


梨奈:美優、おめでとう!

美優:来てくれたんだね、梨奈、

真子:おめでとう!

美優:真子も! ありがとう!! 二人が来てくれて、私、すっごくうれしい!!


美優:ふと、ホテルの廊下の向こうに、懐かしい姿が見えた。


美優:お、おばあさん・・・。


美優:おばあさんの口はこう動いた。


おばあさん:夢をつかむのに、翼は、いらない。

収録後のワンショット

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