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“風景が呼んでくれる” 彼女は足尾を描き続ける

栃木 足尾銅山 閉山50年
  • 2023年07月04日

かつて日本の近代化を支えた栃木県の足尾銅山。
ことしで閉山50年を迎えました。

30代で閉山後まもない足尾に出会い、
80代を目前にした現在もその姿を描き続ける1人の女性画家がいます。
彼女が伝えたい思いとは。
                                
NHK宇都宮放送局 梶原明奈 

変わりゆく足尾を絵に

今月、宇都宮市で油絵の展覧会が開かれました。
描かれているのはすべて、閉山後の足尾銅山です。

6月12日から18日まで 宇都宮市の県総合文化センターで開催
1枚1枚の絵にじっくりと見入る人も

工場があった場所へと続く、雪のなかの一本道。

「足尾への道」 1981年

時間とともに多くの建物が取り壊され、ぽつんと残った煙突。

「足尾の今ー2013」 

閉山してから今にいたるまでの景色が、59枚の絵でつづられました。 

訪れた人たち
「長い歴史がここに凝縮されたように描かれているので、胸に響くものがある」
「川の色も山の色も、ずいぶん変わっているんだなって実感できました」

“足尾の風景が呼んでくれる”

画家・鈴木喜美子さん

油絵を描いたのは、画家の鈴木喜美子さん(撮影時 79歳)。
45年間、埼玉県草加市から足尾に通って、「今」を描き続けてきました。

5月の終わり、足尾にはスケッチのため訪れた鈴木さんの姿がありました。
風景を眺めながら歩いたあと、地区にただひとう残った煙突の見える場所で止まりました。
「よし、ここにしよう」
そうつぶやくと、持ってきた折りたたみいすに腰をおろし、スケッチブックを開きました。

今も月に1回はスケッチのため足尾に通う

鈴木喜美子さん
会話をしてるんですよ。煙突1本しかないけど、
この煙突からどれだけのもの(煙)が出ていたのか、とか。
こうやってそびえ立ってるのを見ると、『私がいたからこういうことができたんだよ』って言っている感じを受けませんか? 

この場所に来ると、風景が呼んでくれるんです。

足尾銅山との出会い

かつて「日本一の銅山」として近代化を支えた足尾銅山。
一方で、流れ出た鉱毒による被害や環境破壊も引き起こしました。                     その後、銅山は1973年に閉山しました。
 

43歳のころの鈴木さん アトリエにて

鈴木さんが最初に足尾を訪れたのは、閉山から5年後。
地元で絵画教室を営んでいた鈴木さんは、よく教え子とスケッチ旅行に出かけていました。
「あの山の向こうには閉山した銅山がある」
教え子に言われて向かった先で、残された工場跡地の迫力に衝撃を受けたといいます。
そこから、鈴木さんと足尾との日々が始まりました。

「足尾の2月」 1981年

通い始めた初期のころに描いた油絵です。
雪景色のなかに見えた、足尾へ続く1本の橋。
当時、両親を相次いで亡くし、失意の底にいた自分の気持ちに重なりました。

鈴木喜美子さん
両親が他界する前はカラフルな絵を描いていたんですけど、
立て続けに他界しましたから、絵の具は白と黒しか使えなくなっちゃった。
だからこそ、雪の世界にひかれて入っていったんです。

使われなくなっても存在感を見せる工場設備
取り壊された建物跡地に咲いた1本の桜

その後も鈴木さんは足尾に通い続けました。
閉山に至るまでの歴史を調べながら、使われなくなった工場の設備や変わりゆく風景を描きました。

鈴木喜美子さん
最初のころは夢中でしたね、何も考えない。
足尾に呼ばれている様な感じで、毎週毎週行っていましたね。
なんなんだ、あなたは何が言いたい、なんなんだっていう。これがまだ続いている。
行く度に違って見える、それを咀嚼して積み重ねていく。

そこに暮らす人の思いも絵に

左が長井一雄さん 古河足尾歴史館にて

鈴木さんは足尾を描くうえで、地元の人たちとの交流を大切にしています。
この日はスケッチのあと、長年親交のある男性のもとを訪ねました。
長井一雄さん(撮影時 82歳)です。足尾の歴史を紹介する施設を立ち上げ、今も運営に携わっています。

工場跡がよく見えるこの斜面で描いていたという鈴木さん

2人は、鈴木さんがスケッチで描いていた煙突がよく見える場所まで一緒に歩きました。
長井さんが幼い頃に見ていた足尾、鈴木さんが描き始めた当初の足尾。
思い出話に花が咲きます。
 

1本だけ残った煙突を見渡す2人 今では緑豊かな足尾の風景

鈴木さんは、この場所で暮らしてきた人たちの思いも絵にのせたいと考えています。
長井さんはその熱意に励まされたといいます。

長井一雄さん
鈴木さんの絵を見たとき、次から次へとひもとくように当時の風景を思い出して、
衝撃を受けましたよね。なんでこうやって描けるのかなって。
その人の思いを込めて描くじゃないですか。魂ですよね。
尊敬ということばがピッタリですよ、歴史を残したっていうかね。

何かを感じてもらえたら

埼玉県草加市のアトリエにて

鈴木さんはいま、秋に発表予定の新作を描くため、準備を重ねています。
自分の絵が、足尾がたどった歴史を知るきっかけになればと考えています。

鈴木喜美子さん
まだまだ描き切れない。たぶんあの世へいくまで描き切れないと思う。
やっぱり日本の歴史っていうのは、我々日本人は知るべきことは知らないとね。
ご覧になっていただければ、何かを感じていただけるんじゃないかな。
感じていただきたい。それが願いです。

足尾の「声」に耳を傾けながら。
鈴木さんはこれからもこの風景と向き合い続けます。

  • 梶原明奈

    NHK宇都宮放送局・記者

    梶原明奈

    県政・宇都宮市政担当

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