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「メタバース」を子どもたちの居場所に 

不登校支援の新たなかたち
  • 2023年05月19日

    全国で、不登校の子どもの数が増えています。
    栃木県では令和3年度、不登校の小中学生の人数は4188人。
    9年連続で過去最多となりました。

    こうしたなか宇都宮市が、インターネット上の仮想空間=「メタバース」を活用した、新たな支援を始めました。いったいどんな取り組みなんでしょうか。

    NHK宇都宮放送局・梶原明奈

    「メタバース」で子どもたちと交流

    先生たち
    「ようこそ!U@りんくすです。これからオープニングセレモニーを行います。よろしくー!」

    大きなモニターに向かって、元気いっぱいに呼びかける先生たち。
    5月8日、仮想空間=「メタバース」内に、架空の教室「U@りんくす」がオープンしました。

    手を上げて“あいさつ”することもできる

    画面の中に広がるのは、公園のようなスペース。ところどころに、丸太のいすと机や、掲示板などが置かれていて、参加者は自分の分身=「アバター」を動かして自由に行き来することができます。
    みんなが集まる広場でギターの演奏を披露したり、ゲームコーナーに行ってボードゲームで対戦したり。ほかの「アバター」に近づけば、直接話をすることも、リアクションを送り合うこともできます。

     

    先生たち
    「パンダのしっぽは黒である、〇か✕か」
    「〇か✕か、思った方に動いて~!」

    初日はオープニングセレモニーが開かれ、中学生3人が「アバター」で〇✕クイズに取り組みました。正解はどちらなのか、参加者は広場に書かれた大きな「〇」と「✕」の間を行ったり来たりして楽しんでいました。

    “社会とつながるきっかけに”

    「U@りんくす」を運営する3人

    「U@りんくす」は、宇都宮市教育センターが運営しています。
    担当するのは、現役の先生と、先生として勤務経験のあるスタッフ、あわせて3人。
    この春まで小中学校でクラス担任をしていた人もいます。
    自宅などからでも参加しやすい「メタバース」を活用して、子どもたちが社会とつながるきっかけを作ろうと取り組んでいます。

    令和3年度、宇都宮市の公立の小中学生のうち、「不登校」とされた子どもの数は1126人。
    このうちおよそ300人は、さまざまな理由で学校やフリースクールなどから支援を受けられていないとされています。

    一方で、子どもによって学校に行けない理由も違うなか、「先生や学校だけでは支援を行き届かせるのは難しい」という声も出ていたといいます。
     

    飯塚さんは昨年度まで中学3年のクラス担任をしていました

    運営スタッフの1人 飯塚貴大さん 
    「U@りんくす」なら、学校にしばられず、全体として支援ができる。
    学校に来ることがゴールではないし、不登校の子でも自分のやりたいことが見つけられて、
    子どもたちの選択肢が増えると思います。

    先生も“動画クリエイター”

    「メタバース」の空間には動画が掲載されている

    「U@りんくす」では、オリジナル動画も配信しています。
    野菜を育てたりストレッチをしたりと、スタッフみずから出演するものが目立ちます。
    自分たちが体験する様子を見て、子どもに「やってみよう」と思ってもらう狙いがあります。
     

    この日、撮影していたのは、科学者にふんした先生による、理科の実験動画です。
    ペットボトルなど身近な材料を使って、「圧力」や「浮力」を学べる実験です。
    自宅などで取り組んでもらいたいと、装置の作り方も動画で詳しく紹介していました。

    運営する先生 飯塚貴大さん
    「やっているわれわれも楽しい」というのがモットーにあります。
    やりたいものをみんなで話し合って、いいものに仕上げて、
    それを子どもたちに見てもらって、楽しいって感じてくれたらいいかな。

    今後は、地元の企業や大学生にも動画を作ってもらい、子どもたちが将来を考えるうえでヒントになるようなコンテンツを増やしていきたいということです。

    “同じ趣味でつながれた”

    実際に参加している子どもたちはどう感じているのか。
    記者も「アバター」を作って「U@りんくす」に入り、聞いてみました。

    「みかん」さんに「あっきー(記者)」がアバターでインタビュー!

    オープン初日から、毎日参加しているという中学生2年生の「みかん」さんです。

    最近、ギターの練習を始めたという「みかん」さん。
    同じくギターが弾けるスタッフとの会話を楽しみにしています。
    この日も、練習しているギターの音色を聞かせてくれました。
    2人で同じ曲を練習して、いつかセッションするのを目標にしています。

    中学2年生の「みかん」さん
    最初は「ここにいていいのかな?」ってちょっと怖かったんですけど、
    数日たったら、けっこう慣れて、なんだかやりやすい雰囲気になりました。
    楽器のことでしゃべれる人があんまりいないので、
    趣味のギターとかでつながれたことがすごい楽しいです。

    “あなたは ひとりじゃないよ”

    子どもたちと交流中!楽しそうな先生たち

    オンラインだからこそ、縮まる距離がある。オンラインだからこそ、自分を出せるのかも。
    ほかの子どもからも「現実と違う体験ができた」「居心地がいい」などの声が上がっているそうです。

    仮想空間=「メタバース」を活用した不登校の子どもたちの支援は、まだ始まったばかりですが、
    これまで支援が届かなかった子どもたちの、新たな居場所になろうとしています。

    運営する先生 飯塚貴大さん
    子どもたちに、さまざまな活動を通して、自分がひとりじゃないってことや、
    こういう考えを持っている人がいるんだ、ということを発見してもらいたい。
    最初の一歩は大変だと思うけど、「U@りんくす」の世界に来てくれたらうれしいです。

      • 梶原明奈

        NHK宇都宮放送局・記者

        梶原明奈

        県政・宇都宮市政担当

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