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体操界のホープ 谷田雅治選手 親子で築いた“美しい体操„ 

  • 2023年03月09日

これまでオリンピックで数々のメダルを獲得し、日本の「お家芸」とも言われてきた体操で、将来の金メダル獲得を目指している栃木県の選手がいます。
ことし3月に作新学院を卒業した 谷田雅治 選手(18)。
日本伝統の“美しい体操”を受け継ぎ、将来を期待されているオールラウンダーです。
高校では主要な大会の個人総合ですべて優勝し、この春、新たなステージに進みます。

(宇都宮放送局キャスター 長井ゆめの)

日本伝統の“美しい体操” でパリへ

 

谷田選手の持ち味は、ひざやつま先まで一直線に伸びた“美しい体操”です。

身長は1メートル54センチと、決して大きな体ではありません。
それでも“美しい体操”をすることで体を大きく、ダイナミックに見せながら、小回りがきく利点を生かして難しい技を決めることで、高得点を出してきました。
 

去年は全国高校選抜、全国高校総体、全日本ジュニア選手権の個人総合ですべて優勝し、「高校3冠」の偉業を成し遂げました。

この春、親元を離れて順天堂大学に進学し、来年のパリオリンピック出場を目指しています。

谷田雅治選手
パリオリンピックに出て終わりではなくて、パリ大会に出られたら、次のロサンゼルス大会では個人総合の優勝もかかってくると思っているので、どんどん自分の道を究めていきたいです。

指導者は父  親子ならではの難しさも

谷田選手を小学生のときから指導してきたのが、今は作新学院の監督を務める父親の治樹さんです。

治樹さんが重視してきたのが、“美しい体操”でした。
日本の選手は伝統的に演技の美しさにこだわり、技の出来栄えを示す「Eスコア」で得点を伸ばしてきたという実績があります。

そこでジュニアの世代では、“美しい体操”を体に覚え込ませることが将来の成長につながると考え、谷田選手を厳しく指導してきました。

父・治樹さん
日本の体操というのは、世界でいちばん正確で美しいというものが伝統的なので、その日本の体操を世代が変わっても受け継いでもらいたいと思っています。
親子であっても言いにくいことだったり、取り組ませにくいことをしっかり言おうと思って指導を始めましたが、(谷田選手の)競技レベルが上がっていくとともに、今度は伝えるばかりではなく、横について一緒に考えてやる、そして最終的には彼の方が先にいて、僕はそういう彼を見守っている、というのが理想的なスタイルでした。

一方で2人には、親子ならではの難しさもあったといいます。

父・治樹さん
ほかの選手だと素直にすっと入っていくようなことが、お互いによく知りすぎている面もあるので素直に伝えられなかったり、素直に聞き入れられなかったり、そういうところが非常に難しかったです。自分もいろいろな経験をさせてもらった8年間だったので、(谷田選手には)すごく感謝もしています。

谷田雅治選手
「すごく厳しい指導者」というのが第一印象なんですけど、家でも体育館でも、いちばん長く一緒にいた人なので、自分のことをいちばん理解してくれているという部分が大きかったです。
治樹先生に教わってすごく楽しくもあったし、苦しいときもあったので、その両方を一緒に駆け抜けてこれたことはすごくうれしいし、すごく感謝しています。

「先生」から「お父さん」に

体育館では「治樹先生」と呼ぶ谷田選手ですが、自宅に帰ると「お父さん」に戻ります。

4月から始まる新生活に向けて、自宅で料理の練習をしていたときのことでした。
谷田選手が作ったたまご焼きの味見をした治樹さんは・・・
 

治樹さん

塩味がない。普通、入れるでしょ。

谷田選手

塩!?じゃあ、今度はお父さんバージョンで作ってみてよ!

体育館での、ぴりぴりした雰囲気とはまったく異なる、和やかな空気が流れていました。
家族で一緒にいるとき、親子で体操の話はほとんどしないと言います。

親子をつなぐ「体操ノート」

谷田選手には、春からの新生活に必ず持って行こうとしているものがあります。
7年にわたって書きためてきた27冊の「体操ノート」です。

中身を見せてもらうと、小学生から続けてきた毎日の練習内容や反省点などがびっしりと書かれている中、時折、赤い文字のメッセージがありました。

谷田雅治選手
赤ペンで書いてあるのは、お父さんの字です。
返事をしてくれたみたいで、勝手に1人でうれしくなっていましたね。

去年8月に「高校3冠」を成し遂げたときは、ノートに感謝の気持ちをつづっていました。

治樹さんからの返事です。

ときには「選手と監督」として。
ときには「息子と父親」として。

親子だからこそ直接、言いづらかったことでも、27冊の「体操ノート」を通じて、互いに素直な気持ちを伝えあってきました。

谷田雅治選手
ノートに書いてくれたことは、だいたい心に残っています。
自分で気持ちをすっきりさせるためにも、そして吐き出す意味でもノートにいっぱい書いて、たまに返事を返してくれたときには「この考えが間違ってたんだな」とか「この気持ちは正しかったけど、もう少し前向きに捉えなきゃだな」ということを、知ることができました。

二人三脚で磨いた“美しい体操” 新たなステージへ

谷田選手と治樹さんにとって、3月末に開かれる国際大会が、2人で臨む最後の大会になります。

親子二人三脚で、心身ともに磨き上げてきた“美しい体操”とともに、谷田選手はこの春、新たなステージに進みます。

父・治樹さん
自分が決めた道だと思うので、そこから逃げずにしっかりと向き合って、大学の4年間を過ごしてほしいと思います。これからは応援者として見守っていきたい。

谷田雅治選手
自分は努力をしてここまで上がってきたと思うので、大学で1人立ちしたとき、もう一度それを心に刻もうと思っています。大学に行っても(治樹さんには)たまには動画を送るなどして、「アドバイスがほしいです」と言いたいですね。
最終的にはオリンピックに出て金メダルを取って、その金メダルを家族に、まずはいちばんにかけてあげたいです

取材を終えて

谷田選手の体操は、取材中でも思わず手を止めて見入ってしまうほど美しく、しなやかで繊細でした。
一方で練習が終わったあと、明るく、屈託のない笑顔で話し始める姿には、周囲の人を引きつける魅力も感じました。

自宅で「体操ノート」を見せてもらったときには、谷田選手と治樹さんが、文字を通して互いの感情を素直に伝え合っている様子がまざまざと浮かび、私の高校時代に置き換えてみて、うらやましくも感じられました。
きっと27冊のノートは、親元を離れても、谷田選手の心を支え続けていくのだろうと思います。

谷田選手は、大学でも“美しい体操”に磨きをかける一方、技の難度を上げることにも挑戦していくということです。

順天堂大学には、東京オリンピックの個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝選手も所属していますので、人一倍努力家の谷田選手が、新天地でますます成長していく姿を見られるのが今から楽しみです。

  • 長井ゆめの

    宇都宮放送局 キャスター

    長井ゆめの

    生まれも育ちも栃木県。
    スポーツコーナー担当中。
    たまご焼きは「しょっぱい派」です。

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