ページの本文へ

とちぎWEB特集

  1. NHK宇都宮
  2. とちぎWEB特集
  3. 地区ごと別の場所に引っ越す? 「防災集団移転」とは?

地区ごと別の場所に引っ越す? 「防災集団移転」とは?

  • 2023年02月16日

4年前の台風19号で被災した地域の住民に、まとまって安全な場所に移り住んでもらう「防災集団移転」の計画が、栃木県那須烏山市で進められています。
「地区をまるごと別の場所に引っ越す」ような移転事業について、宇都宮放送局の齋藤記者が解説します。

(宇都宮放送局記者 齋藤貴浩)

那須烏山市の「防災集団移転」とは

「防災集団移転」って、そもそもどういうものなんですか?

齋藤記者

津波や川の氾濫などで被災した地域で、再び同じような被害が出ないようにするため、住民にまとまって別の安全な場所に移り住んでもらおうとする事業です。
わかりやすく言うと「地区をまるごと別の場所に引っ越す」ようなもので、住民の合意を得て進められることになっています。
過去には、宮城県や岩手県など東日本大震災の被災地でも行われました。

那須烏山市では、どこで計画されているんですか?

齋藤記者

市内の「宮原地区」と「下境地区」の2か所です。
ここでは4年前、令和元年の台風19号によって市内を流れる那珂川などが氾濫し、宮原地区では40世帯、下境地区では72世帯の住宅が浸水しました。
住宅によっては1階の天井近くまで水につかったところもありました。
また市内の他の場所でも浸水被害が起き、当時は最大で350人ほどの市民が避難生活を送りました。

「地区をまるごと引っ越す」とは、かなり大きな決断ですね。

齋藤記者

地図を見てもわかるとおり、那珂川が大きく蛇行していることもあって、那須烏山市は水害を受けやすく、これまでにもおよそ10年に1回の周期で浸水などの被害が繰り返されてきました。
このため市は、4年前の台風で特に被害が大きかった宮原地区と下境地区で、住民に集団移転してもらうことを決めました。

住民の声、今後の課題は?

台風から4年がたって、計画はどのくらい進んでいるんですか?

齋藤記者

まだ、あまり進んでいないのが実情です。
市は3年前からたびたび住民説明会を開いて、計画への理解を求めてきました。
しかし、住民がもっとも知りたい3つのこと、
 ▽具体的な移転先
 ▽移転の詳しいスケジュール
 ▽移転に伴う補償額
が、まだはっきり示されていないため、1月と2月の説明会でもこれらを早く明らかにするように求める声が相次ぎました。

2月に行われた住民説明会

住民の方々にとっては住み慣れたまちを離れることになりますよね。
反対している人はいないんですか?

齋藤記者

私が取材した限りでは「何が何でも絶対に反対」という方は目立ってはいない印象で、何度も浸水被害を受けている地区だけに「移転すること自体はやむを得ない」と考えている方が多いように感じました。
2月の説明会のあとで何人かに聞いたところ、

「どこに行くのかは気になりますね。
 “ここに移転しますよ”と言ってくれれば、安心するんだけど。
 あとは金額的な問題もあるので、正直、実際に移転するか残るか迷っています」

「市の説明を聞いた限りでは、とても安心はできないし、
 将来の希望が持てる内容とはほど遠い内容でした」

などと話していました。

市は今後、より小さな単位の集落や個人ごとに説明会を続けながら、具体的なスケジュールや移転先などを決めていくことにしています。

住民と行政は意思疎通を

どこに移転するのか、いつごろ引っ越しができるのかわからないことには、住民の皆さんも決断しづらいですね。

齋藤記者

私もそう思います。
これまで全国各地の「防災集団移転」について調査や研究を行い、おととしに那須烏山市も視察している専門家は、「計画が途中で白紙にならないように、住民と行政が丁寧に話を進めていくべきだ」と指摘しています。

山口大学大学院 山本晴彦教授
計画がある程度進んだ段階で「事前に聞いていた話と違うじゃないか」というようなことが起きてしまうと、計画自体が白紙になりかねません。
住民と行政が意思疎通をしっかり行って話を進めていくことが、何よりも重要です。
実際に全国では、互いの協議がうまくいかずに計画が白紙になってしまった事例もあります。

また、具体的な移転場所や補償の額について住民が不安に感じるのはもっともなことです。
行政側は全国でこれまでにあった「防災集団移転」の事例をサンプルとして住民に提示すれば、不安を少しでも和らげることにつながると思います。

次の災害が来る前に

地区ごと別の場所に引っ越す「防災集団移転」では、移転先や補償額に加え、「これまで築いてきた“地域のつながり”を移転先で維持できるのか」も重要な課題になります。
住民一人ひとりの意見をしっかりくみ取りながら事業を進めることがもちろん重要ですが、一方で次の災害がいつ再び起きるかわかりません。
行政には、迅速かつ丁寧な対応が求められていると思います。

  • 齋藤 貴浩

    NHK宇都宮放送局記者

    齋藤 貴浩

    2021年入局 宇都宮局が初任地
    警察や司法などを担当 
    出身は宮城県石巻市
    被災地域のその後をこれからも取材していきます

ページトップに戻る