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file259 「ブラウス」

女性らしさを演出できる定番アイテム、「ブラウス」。
一年中着まわせる服として愛される一方、ブラウスを美しく着こなすことは、シンプルだからこそ難しい、上級者のコーディネートです。

女性らしい曲線を生かして着こなす時に生まれる、美しいシルエット。
また、着る人の日常に彩りを添える、生地に描かれた風景。

最後の総仕上げとして、ブラウスの魅力を引き立て、思い出をよみがえらせるものにもなるボタン。
ブラウスならではの“美”の世界を紹介します。

壱のツボ 体に付かず離れずの シルエットを見極める

京都にあるシャツ専門店。
デザイナーの森蔭大介さんは、ブラウスを選ぶ際に、まず注意すべきポイントがあると言います。

森蔭 「シルエットが悪いものを着ると、結果的に体に合ってないってことですから、前だけじゃなくて横も後ろもチェックして選んだ方が良いと思います。」

ひとつ目のツボ、
「体に付かず離れずの シルエットを見極める」


(左)肩が合っていないもの
(右)肩が合っているもの

ブラウスを美しく着こなすために、重要なのはシルエット。
肩のサイズが大きいものを着ると、前も後ろもテント型に膨らんで、不恰好になってしまいます。
また、腕を上げた時に裾(すそ)も一緒に上がってしまうのは、肩の遊びの部分が適していないということ。

そして自分の体に合っているかどうか、見極めるためのポイントは、着た時のシワの寄り方にあります。
バストが合っていない物を着ると、生地が前に引っ張られ、背中にまっすぐな線が入ってしまいます。
さらに、裾の辺りにシワができてしまうのは、ブラウスが、ヒップのサイズに合っていない証拠。
前から見ただけでは、見落としがちなので、注意が必要です。

では、ブラウスの美しいシルエットは、どのように作られるのでしょうか?

森蔭 「まずこういうものを作ろうっていうのが頭の中にあったり、絵を描いたりというものがあって、ぐるっと360度どういう風に見えるかということをまず最初に考える。」

森蔭さんは、初めから人間の体をイメージし、立体で確認しながら細部を詰め、最後に型紙に落としていたのです。

森蔭 「体にフィットするわけではなく、体から適度に離れながらも美しいシルエットを作るというのが、僕の良いと思うシャツです。」

弐のツボ ブラウスの中に広がる風景を感じる

パリコレで発表するなど、世界的に活躍している、デザイナーの皆川明さん。

皆川 「女性らしさということで一つ柔らかい体の動きがあると思うんですけれども、顔の近くにあるブラウスというアイテムで、どのように表現するかということはとても重要だと思っています。」

生地のデザインを大切にして服作りをする皆川さん。
デザインしたテキスタイルには、すべて名前が付いています。
物語のある風景を図案に盛り込むことで、生地からイメージが膨らみ、服の世界観をさらに広げていくそうです。

ふたつ目のツボ、
「ブラウスの中に広がる風景を感じる」

右側は、ヴィヴィッドな図柄がプリントされたブラウス。
左側は、細かな刺繍(ししゅう)が全面にあしらわれたブラウス。
実は、この二つのブラウス、形が同じ。
でも、描かれた風景によって、着る人の雰囲気を変えるのです。


皆川さんが描いた、5つのブラウス、テーマは「花」。
そこにも、皆川さんの思いが。

皆川 「花の周りの視覚的には映っていないんだけども、花の様子によって感じる風とか空気感とか、そういうものを布の中でできるだけ表現したいと思う。」


皆川さんの風景への思いは、さらに製造の現場へとリレーされていきます。
この生地は、「二度刺し(にどざし)」という技法で作られています。二段階に分け、二色を刺繍するという凝ったもので、1ミリにも満たないズレも許されません。
さらに、ステッチの一つ一つに、向きや重ね具合にまで要望がおよびます。


この複雑で繊細な工程は、職人の工夫によって実現しています。
担当する、佐藤敏博さん。

佐藤 「筆記用具を使って描いたのと実際に布の上に糸を並べるのとでは差が出ますので、糸の並び方の増減だったりとか、微妙にステッチの角度をその図案よりかオーバーに描いたりとか、立体感を出したり、動きを出そうとか・・・」

そして、思いのバトンは、製造の現場から今度は着る人へ。
ブラウスに描かれた風景は、着る人の日常にも彩りを与えてくれるのです。

参のツボ ブラウスに魔法をかけるボタン


銀座にある、オーダーメード・テーラーの店。
テーラーの庄司博美さんは、ブラウスを作るにあたって、気をつけていることがあります。

庄司 「ブラウスは入れ込むデザインの要素に、その方らしさをどこまで反映させられるか、お客様のご要望をお伺いしながら、襟の表情を変えてみたり、ボタンのニュアンスを変えてみたりというところで、出せればと思いますよね。」


ブラウスづくりの総仕上げ=画竜点睛(がりょうてんせい)は、ボタン。
ボタン選びの相談をしたのが、銀座の老舗ボタン専門店の小堀孝司さん。

小堀 「洋服のボタンを決めるのって大体、最後の最後になると思うんですけど、そこでどう選ぶかによって洋服って本当に変わってしまって。その人に合うもの合わないもの、素材でランクアップという方法もありますし。」

3つ目のツボ、
「ブラウスに魔法をかけるボタン」

古くから、ボタンは機能だけでなく、装飾性を併せ持ち、小さな美術工芸品として愛されてきました。

18世紀のイギリスで流行したボタン。
さまざまな水辺の景色が描かれています。
手前のガラスには岸を描き、奥の象牙の板には海と船を描くことで、遠近感を表しています。

こちらは、石版画の技法で女性の写真を写したボタン。
19世紀、上流階級では、憧れの女性をボタンにして持ち歩くことが人気でした。

ボタンの博物館 館長の金子泰三さん。

金子 「ボタンって服が朽ちてもまだ使えるものなんです。ですから昔から代々、家宝として受け継がれたりして残されてきました。おばあちゃんの服から取った大切なボタンを思い入れをこめて孫の代に引き継ぐ。そういった事が行われてきました。」

時代を超え、受け継がれてきたヨーロッパのボタン。
でも、私たちの身近なところでも、ボタンにまつわる思い出を見つけることができます。


スタイリストの伊藤まさこさんが持ってきてくれたのは、お母さんから譲り受けたという思い出の詰まったボタン。
子どもの頃、お母さんによく洋服を作ってもらったそうです。

伊藤 「ブラウスやワンピースを作るときに「このボタンをつけて!」って選んで。アクセサリーをつけてるみたいで嬉(うれ)しかった記憶があります。
なぜか遠足とか学芸会のときは、服を新調してくれたんですけど。その当時の記憶がボタンを見ると蘇ってきます。」

これは、伊藤さんが作ったブラウス。
お母さんから受け継いだ貝のボタンを使いました。
思い出のボタンをつけることで、かけがえのないものに。
あなたも、特別な一枚を見つけてみませんか?

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

ブラウスと聞いて私が何をまず思い浮かべるかというと、シルクの光沢があって首でリボンを結び、柄にはきれいな花が描かれているもの。
実はこれ、私が子どもの頃、母が着ていたものなんです。
気に入った生地であつらえた世界でたった一枚のブラウスをとても大切にしていて、おしゃれをして出かける時には母はよくそれを着ていたような記憶があります。
小さかった私は、そのブラウスをうっとりして眺めていました。
すてきなブラウスを着こなす母の姿を見て、ブラウスを通して大人の女性に憧れていたのかもしれません。
今もまだ実家のクローゼットにあるはずです。
そういえば、あのブラウスを着ていた頃の母の年齢に、私も近づいているんだなーと思ったのでした。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin' Art Blakey & The Jazz Messengers 0分2秒
Sally's Blues Vince Guaraldi 1分4秒
Nice Work If You Can Get It Magnus Hjorth 2分10秒
Jamboree Jones Bobby Troup 3分57秒
Red Pepper Blues Art Pepper  5分13秒
Keepin' Out Of Mischief Now  Teddy Wilson 7分51秒
La Lettre De La-Bus Jean-Philippe Collard-Neven 10分28秒
The Trolley Song Brubeck & Desmond 11分35秒
Lonely Little Bluebird Janet Klein 13分29秒
My Favorite Things 土岐麻子 15分35秒
Question and Answer Gary Burton & Pat Metheny  17分16秒
The Green Mountain Klaus Lessmann 18分39秒
La Gran Mentira Jackie & Roy 20分15秒
Close Your Eyes Oscar Peterson 21分47秒
Theme For Ernie John Coltrane 23分45秒
What To Do Rose Murphy 25分47秒
Ndugu Dre Barnes 27分50秒
East Of The Sun Wynton Marsalis 28分24秒

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