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file257 「モンブラン」

食欲の秋。 秋の味覚「栗(くり)」をふんだんに使うのが、「モンブラン」。
モンブランと言えば、まず黄色。これは、日本生まれの和栗(わぐり)の色。
そして、茶色はヨーロッパ産の洋栗(ようぐり)の色です。

フランスやアメリカなど世界7か国のモンブランを食べた里井真由美さん。

里井 「フランスで頂いたモンブランにはソースがかかってたりする。
ソースって、フランスの食文化に欠かせない物。
アメリカで食べた物はすごい大きい。
それってアメリカのボリューム志向みたいな。
やっぱりお国柄が出るのかなと、ちょっと思いました。」

19世紀後半にヨーロッパで生まれたと言われるモンブラン。
今では世界で愛されるケーキになりました。
いまや日本の定番ケーキとなった「モンブラン」。
今日は、そのさまざまな美をご紹介しましょう。

壱のツボ そそり立つ造形にアルプスを見よ

モンブランといえば、ひも状のクリーム。
どうして生まれたのでしょうか?
ケーキの歴史に詳しい吉田菊次郎さんが作ったのは、マロングラッセ。
栗は熱いシロップに長時間浸されていると、どうしても形が崩れるマロングラッセ。
マロングラッセがどう関係しているのでしょう?

吉田 「壊れの再利用ということで昔のパティシエがペーストにしてみて絞ってみようかということで、モンブランというお菓子が生まれた。」

モンブランはマロングラッセの副産物だったのです。
なめらかにするため、ペーストに生クリームを混ぜ、細く絞り、空気を含ませフワッと盛りつけました。
こうしてひも状の形が生まれたのです。
ところで、モンブランとはフランス語で「白い山」。その由来は?

吉田 「ヨーロッパアルプスの最高峰だし、てっぺんに真っ白い雪を頂いている、おー、これはまるでモンブランのようだということで、誇りを持って付けた。」

モンブランは山の形。
粉砂糖を振りかければ、アルプスのモンブランの誕生です。

ひとつ目のツボ、
「そそり立つ造形にアルプスを見よ」

モンブランは、フランスとイタリアの国境にそびえています。
フランスから見えるモンブランは、丸みを帯びたドーム型。
しかし、イタリアから見たモンブランは鋭く尖(とが)った険しい形。
その理由はアルプス山脈の地形にありました。
フランスから見えるモンブランは、等高線の間隔が広くなだらかな姿。しかしイタリア側は、氷河が荒々しく山肌を削り取ったため、険しい形になったのです。
この2つのイメージから、どんなケーキが生まれたのでしょうか?

フランスのモンブランは、優しいドーム型の山頂を真似(まね)て、マロンクリームが丸みを帯びた形になっています。
粉砂糖は、アルプスの雪。

一方、イタリアのモンブランは生クリームを高く積み上げ、険しい雪山になっています。
ひも状のマロンペーストは山のふもとに鬱蒼(うっそう)と茂る森を表しています。

そして、日本では第3のモンブランが生まれました。
その一翼(いちよく)を担った菓子職人、迫田千万憶(さこた ちまお)です。 迫田は1930年代、ヨーロッパの菓子店に単身渡り、厳しい修業を積みました。

彼が生み出したのが、こんもり積み上がったマロンクリーム。
この立体感は和菓子の道具「小田巻(おだまき)」によるものです。
小田巻でマロンクリームを絞ると、穴から出てきたひも状のクリームが自由に動き、まとまらず広がります。
迫田が、修業の厳しさをアルプスの山肌の表現に込めたのではないかと言う人がいます。

スイーツ研究家 平岩理緒さん。

平岩 「当時、迫田さんが留学された頃って、本当に遠い異国の地に決意をして行かれる、そういう時代だった。
ご自分がヨーロッパで体験されている修業のつらさとか厳しさなんかにも重ね合わせられるような、そういう山の厳しさみたいな所だったんじゃないかと思いますね。」

モンブランには、アルプスへのさまざまな眼差(まなざ)しが投影されているのです。

弐のツボ 日本のモンブランに和栗あり

日本人に馴染(なじ)み深いモンブラン。
あるポイントが、海外では珍しいと言います。

フランス人 「ポテト?」

イタリア人 「モンブランだから栗?」


栗をモンブランに乗せるのが驚きでした。
栗は日本ならではの飾りつけなのです。

平岩 「やっぱり栗って、昔から『勝ち栗』っていう言葉もあるように、おめでたい物として食べられてきた物なので、縁起の良さを象徴しているというのがありますね。」


昔から重宝されてきた和栗。
和栗で数多くの菓子が作られてきました。
その栗へのこだわりや思いが、モンブランが日本に浸透した理由です。

ふたつ目のツボ、
「日本のモンブランに和栗あり」


長野県小布施町(おぶせまち)。
室町時代より和栗の名産地として知られ、その質の高さから、江戸時代には栗を年貢として納めていました。
大きな物は4、5センチに及びます。豊かな甘味と風味。
日本原産の栗は和栗と呼ばれ、愛されてきました。
立派な和栗はどのように生まれるのでしょうか?


カギは、小布施を流れる松川の水質にありました。
郷土史家 金田功子さん。

金田 「この松川の源流が横手山の方の活火山だったんですけど、そこの成分が硫黄とか、そういうのが入っているのがここに流れてきてて、石が酸化っていうか茶色くなってますよね。」

栗の木は、酸性の水が行き渡った土壌を好むと考えられています。
そのため、ここで育った栗の木には、大きく健康的な実が成ります。


さらに、農家が最も力を入れるのが「枝打ち(えだうち)」。
北側の枝にもたくさんの日光を当てるのがポイント。
そのため、南側の枝をこまめに払ってゆくのです。
農家は100本以上の栗すべての枝ぶりを把握し、丹精込めて育てています。


この小布施の栗を使ってこだわりの、モンブランを作る人がいます。
カフェを営む岡田剛さん。

岡田さんが着目したのは、小布施栗のゆで汁でした。
栗の殻の色素がにじみ出て、ゆで汁が茶色になっています。
このゆで汁を捨てずに、なんと栗のペーストに加えるのです。
出来上がったのは、なんとも風情がある「枯れ草色」のモンブラン。
果肉の甘味と殻の苦味がもたらす深い味わいが人気です。
常連客の橋本美江さん。

橋本 「いい色が出てますよね、この色、いい色ですよね。 秋の景色を思い浮かべますし、幸せですよね。」

日本の風土と技が生み出した優しい色と風味。
大人の秋のモンブランです。

参のツボ モンブラン、和の極みへ


東京・谷中(やなか)にある栗の専門店。
この店では、茨城県産の栗を使って、一風変わったモンブランが作られています。
下には寒天と白玉。モンブランのあんみつ風?

客 「ケーキじゃないなって感じですよね。
モンブランは私たちはいつもケーキだと思っているから。」


モンブランの常識に異変あり。こちらは抹茶のモンブラン。
マロンクリームに抹茶を加えて、緑のモンブランに。斬新ですね。
表の顔はモンブラン、裏の顔は紫イモ。
芋と合わせる。んー、その手が合ったか。
どうやらモンブランは和の食材と相性がいいようです。

3つ目のツボ、
「モンブラン、和の極みへ」


東京・吉祥寺。
日本料理店にモンブランと関係が深いメニューがあります。
「栗の渋皮煮(しぶかわに)」です。栗は殻を取ると、「渋皮」と呼ばれる褐色の薄い皮に覆われています。
その皮をむかずに食べる栗です。
栗の渋皮煮は、気の利いた和食に重宝されます。
日本料理店 店主 草野剛久さん。

草野 「大切なお客様が来た時のお茶うけであったりとか、食べてちょっと口が飽きてきた時に口直しという感じで使っています。
手間がすごいかけられて作られる物なので、特別感が増す。」

手間というのは、栗の殻を剥いた後、表面に残る毛羽(けば)を竹串で取り除くこと。
その後、硬い渋皮を柔らかくするために、1時間以上じっくり煮込みます。こうして、和食ならではの味わいが生まれるのです。


今、渋皮煮をモンブランに使うことが注目されています。
パティシエの神田広達(かんだ こうたつ)さん。
神田さんは、栗の渋皮煮を裏ごししたペーストを使って、モンブランを作っています。
ところが、渋皮煮でモンブランを作ろうとして困ったことがありました。ペーストを絞る時に、渋皮の粒が穴を通らなかったのです。
そこで、特殊な口金を使うことにしました。
その口金で作ったモンブランは、まるで、瓦の屋根を持つの民家のような形。


最後に、究極の和風モンブランをご覧に入れましょう。
日本料理店の店主・倉橋祥晃(くらはし よしあき)さん。
大阪の老舗料亭を始めとしておよそ40年、和食の世界で腕を振るってきました。
まずは、あずきを2時間じっくり煮込み、黒砂糖を混ぜます。
次に、黒餡(あん)の上には栗の甘露煮。
まるで、栗ようかんのような組み合わせ。
そして、直径わずか2、3センチの黒餡の上に特製の栗のクリームを1ミリの組み合わせで1本ずつ絞り出してゆきます。


このモンブランに合わせるのは抹茶です。
倉橋さんのモンブランはアルプスではなく、日本のある物を象(かたど)っています。倉橋さんが表現したのは、菊だったのです。
さまざまな和菓子の技がつぎ込まれ、優美なモンブランが出来上がりました。

倉橋 「モンブランに関しては秋の味覚である栗をたっぷり使っているので、日本人のイメージがとても強いお菓子だと思います。」

モンブランは日本料理と出会い、和の極みへと華麗に変身したのです。

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

大学生の時、銀座にモンブランを食べに行った時のこと思い出しました。
友達と2人で、渋い茶色をした少々高価なモンブランを、一口一口大切に食べましたよ~。
味も見た目も、まさに大人なモンブラン!
そして周りはきれいなマダムばかり。
あれはちょっと背伸びして、大人の気分を味わいましたねー。
たかがモンブラン、されどモンブランなのです!
小さい頃から見慣れた黄色いモンブランも、もちろん大好きです。
素朴で懐かしくて、安心できる味ですよね。
秋になるとモンブランを目にする機会が増えますが、日本人の栗好きと関係が深いとは・・・。
こんなにバリエーション豊かなモンブランを生み出す日本人って、やっぱりすごいですね。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin' Art Blakey & The Jazz Messengers 0分2秒
Better git It In Your Soul Charles Mingus 0分41秒
Autumn Leaves Bill Evans 1分11秒
Maiting Call Chet Baker 2分10秒
I Had To Be You Lisa Ekdahl 4分8秒
Djangology Birely Ragrane 5分19秒
If I Were A Bell Gerald Clayton Bond 6分9秒
Alligator Bogaloo Lou Donaldson 7分10秒
Come Sunday Richard Davis 8分12秒
Rose Of The Rio Grande Modern Jazz Quartet 9分6秒
Stormy Weather Itzhak Perlman & Oscar Peterson  9分43秒
Better git It In Your Soul Charles Mingus  11分47秒
Give Me Five Lars Jansson Trio 12分20秒
Cat Walk Mal Waldron  13分34秒
Jim's Blues Herb Elis 15分49秒
Taking A Chance On Live Steve Tyrell 17分0秒
雪山讃歌 ダークダックス 19分23秒
No More Brew Brew Moore 19分43秒
Stan's Moods Stan Getz 21分34秒
I 've Got The World on A String 佐山雅弘 23分2秒
Op-Oz 中村健吾 24分55秒
Lembra de Mim Gregore Male 26分5秒
Better git It In Your Soul Charles Mingus 28分13秒

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