NHK

鑑賞マニュアル美の壺

これまでの放送

file191 「横浜 後編」

開港以来、海外に向けて文化を発信し続けてきた横浜は、知る人ぞ知る、工芸技術の宝庫です。
横浜生まれの工芸には、一つ一つに新しい時代を背負って立とうとした匠たちの気概が込められています。

壱のツボ カンナが生む極上の曲面

日本で初めて本格的な西洋家具作りが行われたのは、横浜だったとされています。
誕生からおよそ150年経った現在も、独自の木工技術が受け継がれ、家具の生産が続けられています。

優雅なシルエットの横浜家具。150年間変わることのない、一つの特徴があります。
職人の内田勝人さん。

内田 「横浜の家具の一番の特徴であり、美しさっていうのは〈曲面〉にあると思うんですね。より美しくするために、色んな曲面のカンナを用いて最高のモノを仕上げていく。そこにあると思います。」

一つ目のツボ、
「カンナが生む極上の曲面」

初めて洋家具を作るに際して、直面した困難。
それは洋家具独特の複雑な《曲面》でした。
その曲面を作り出すため、横浜の職人たちは丸みを帯びたカンナを使いました。

丸みの異なる数多くのカンナを組み合わせることで、自由自在に曲面を作り出そうと考えたのです。

一人の職人が使うカンナは百種類を超えます。
そしてカンナを用いることによって、もう一つの魅力が生まれました。

先端の部分をご覧下さい。
曲面と曲面が接するところに、職人たちがキレと呼ぶ、鋭角的なラインが作り出されています。

イギリスで作られたテーブル。
やすりで仕上げられた為、全体が丸みを帯びています。

それに対して横浜の家具は、カンナによって生み出されたキレがアクセントになっています。

弐のツボ 捺染に込めた横浜ドリーム

横浜関内にある絹製品の専門店。華やかな色使いのプリント柄が並びます。
これらは全て横浜で作られたモノ。 横浜は明治以降絹製品の一大産地でした。


横浜産の絹製品“横浜シルク”の特徴は、プリントにあります。

細やかな線や微妙な色の濃淡も、見事に染め上げられています。


老舗シルク店 伊藤大輔さん

伊藤 「開港時というのは、既に横浜のこういった技術は世界でもトップレベルにあったと考えられます。どこが一番優れているかと申しますと、捺染(なっせん)なんですね。重ね版といいまして、色を幾つか重ねていくんですね。それによって細かい線とか、鮮やかな色を出すことができます。」

捺染とは、版画の技法を用いた、多色刷りのことです。
一色づつ色を重ねていくことで、多彩な色がプリントされていきます。 この捺染の技術で、横浜のシルクは世界に羽ばたいたのです。

二つ目のツボ、
「捺染に込めた横浜ドリーム」


捺染工房 三代目 瀧澤 靖さん

瀧澤 「横浜ドリームというか、人がいっぱい集まってきて、今の捺染(なっせん)の技術が構築されたと、私は聞いております。鎖国してた国が世界にこれから出て行くという、すごい夢を持ちながらみなさんお仕事をされてたのかなと想像しますね。」


当初は浮世絵にならって木版でプリントされていました。
花びら舞う満開の桜。このように日本的な柄を染め上げたシルクが、海外で絶賛されました。


シルクに映える「捺染」の色彩。
そこには日本独自の技で、世界と勝負しようとした、人々の心意気が隠されていたのです。

参のツボ 横浜焼きで伝えた和の誇り

横浜の洋食器は、明治時代海外で高い評価を受けた、輸出用陶磁器『横浜焼き』をルーツとしています。

横浜焼きコレクター 研究家 田邊哲人さん

田邊 「横浜焼きは圧倒されるような、西洋の文化が入ってきた。それでたじろがないで、対抗していこうっていうところがあったんじゃないかと思いますね。日本固有の文化というものに非常に重きをおいたもんですから、日本人の生活とか、花鳥風月とかを描いたんですよ。」

三つ目のツボ、
「横浜焼きで伝えた和の誇り」

陶芸家の宮川香山は、全国各地のさまざまな焼き物を研究し、その技法を体得した事で知られています。
香山は、各地の陶芸技術の粋を集めて、誰も見たことが無いような作品を作りだしました。

京焼にあった写実性を極端にまで高め、一羽のウズラが、舞い降りようとする一瞬を迫真のリアリズムで、表しました。

こちらの壺では、水辺の草花の世界を表現しています。

白い蓮の花。傍らの穴を覗き込むと、、、太鼓を叩くカエルの姿。
平安時代の鳥獣戯画に見られるような、獣たちを擬人化させる、ユーモラスな表現が取り入れられています。

香山は、日本の伝統的な美意識を西洋人が普段使いに用いる洋食器にも、表しました。
香山作のティーカップ。

金で表された霞(かすみ)の中に浮かび上がる草木。金を塗り重ねて行く、蒔絵(まきえ)の技法が用いられています。
香山はさまざまな工芸技術を使って、西洋人に日本の美の奥深さを、伝えようとしたのです。

明治時代、押し寄せる西洋文化にあらがい、日本ならではの表現を模索した匠(たくみ)たち。
横浜生まれの工芸には、その心が刻み込まれています。


古野晶子アナウンサーの今週のコラム

皆さんは“横浜・元町”に対してどんなイメージを抱いていますか?私にとっては「ハイソでおしゃれな街」という印象です。初めて訪れたのは上京してすぐの春のこと。横浜出身の先輩に連れて行ってもらったのです。大げさではなく、街の全てが洗練されキラキラ輝いているように見えました。道行く人が連れていた犬さえもスマートで賢く感じたほど。洋食店で食べた海鮮ドリアはホタテ貝の形をしたお皿で出され、「器さえもシャレとるね~」と思ったものです。あれから10年以上経ちますが、第一印象のインパクトは今でも強く、出かけるときは前日から着ていく服を決めるなど、“緊張”や“期待”で気分が高揚します。私にとってはそれほど魅力を感じる街なのです。
横浜出身者にも聞いてみたところ、“元町”や“山手”は浜っ子にとっても特別な場所なのだとか。桜木町までは放課後にふらっと遊びに行けても、その先は身なりやしぐさに気をつけねば!という意識に変わるのだそうです。地元の人にとっても特別な場所なのですね。街の雰囲気は時代と共に変化していきますが、ここは最初の感動を覚えたままであって欲しいなと思います。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Bewitched Theme (奥様は魔女) シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラ
Ain't Cha Glad David Johansen
I Wish You Love Rod Stewart
Stormy Weather Itzhak Perlman, Oscar Peterson
Love For Sale Turtle Island String Quartet
Just Squeeze Me John Pizzarelli
When You Smilin' Louis Armstrong
I Can't Get Started Bill Charlap
Skating in Central Park 秋吉敏子
If I Were A Bell Miles Davis
Blue Spirits Andrea Pozza Trio
Night And Day 小林キヨシ
Epilogue 南博トリオ
A Time For Love Elvin Jones
Simone Richard Davis
Variations On Goldberg's Theme And Dreams - Reich Riff Intro Richard Stoltzman
Divine Epilogue 中村健吾
The Street Beat/52nd Street Theme 大西順子

このページの一番上へ

トップページへ