炭野誠 蔵 |
幽霊画はなぜ描かれたのでしょうか?
仏教の教えを説くため。納涼の小道具。亡くなった人の肖像――
諸説ありますが、はっきりした理由はわかっていません。 |
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幽霊画の多くには足が描かれていません。
実は、「幽霊に足がない」というイメージは、幽霊画が作り出したものなのです。 |
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幽霊画コレクターの炭野誠さんです。
炭野「足がないという表現ひとつとっても、いろんなバリエーションがあって、注意してみていくとおもしろいんですよ。」 |
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一つ目のツボ、
「見えない足もとに目を凝らせ」 |
久渡寺 蔵 |
弘前市のお寺に伝わる、江戸時代中期を代表する絵師・円山応挙の描いた幽霊画です。
それまで、江戸時代初期ごろの幽霊には足が描かれていましたが、この幽霊画には足がありません。
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久渡寺 蔵 |
とある言い伝えでは――
あるとき応挙の夢に、亡き妻が現れました。妻には足がなく、宙を漂っています。写生画の大家として知られる応挙は、夢で見たこの妻の姿を、忠実に描いたのだといいます。 |
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その後、応挙の幽霊画にならい、足のない幽霊画が数多く描かれていきます。
東京・谷中の全生庵では、毎年8月、50点近い幽霊画を展示します。そのほとんどは、怪談ばなしを得意とした明治の落語家・三遊亭円朝が集めたものです。 |
全生庵 蔵 |
円朝コレクションの名品『蚊帳の前に坐る幽霊』。
あんどんの向こうに座る悲しげな表情の女性。かすかな光の中に、座っているはずの足もとが消えています。 |
全生庵 蔵 |
円朝コレクションの名品『皿屋敷』。
ふすまの奥で、顔を隠す女性。よく見ると、着物の袖が透き通っています。ふすまの向こうの足も消えているはずです。 |
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怪談ばなしをするとき、幽霊画を飾ることがあったといいます。
その再現を試みます。 |
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立ち会っていただいた美術史家の安村敏信さんです。
安村「今残っている幽霊画を見ると、明治・大正・昭和の名作が多いんです。それは怪談会が続いていたせいだと思います。演出として幽霊画を掛けて、その怪談をさらに怖くするということは十分ありえることですね。」 |
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落語家の林家正雀さんに、三遊亭円朝作「怪談 牡丹燈籠」(お札はがしの場面より)を演じていただきました。 |
炭野誠 蔵 |
使用したのは、「怪談 牡丹燈籠」に登場する「お露」の幽霊画です。
安村「幽霊がふわふわ飛んでいく瞬間は、まさに足のない幽霊画と一致して、想像力をさらにかきたてられました。足のない幽霊は世界でも例がないんじゃないでしょうか。」 |
全生庵 蔵 |
円朝コレクションの名品『還魂香』。
死者を呼び戻すお香の煙に溶け込む足もと。
幽霊はみな恨みをもって現れるとは限りません。彼女のように、愛する者に呼び戻される幽霊もいるのです。
見えない足もとに、幽霊画の怖さと美しさが秘められています。 |