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ばらは、人が改良に改良を重ねてきた花です。
日本原産のばら「ノイバラ」。
日本には、このほかにも10種類あまりの野生のバラがあります。
これらはみな、一重(ひとえ)のシンプルな形をしています。 |
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万葉集には、この「ノイバラ」を詠った和歌が収められています。 |
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ノイバラは当時、「うまら」と呼ばれました。それが、やがて「ばら」に変化したのです。 |
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平安時代には、華やかな中国のばらが輸入され、貴族たちに珍重されたといいます。
のちに、中国でばらを意味する漢字「薔薇」に、「ばら」という音を当てるようになりました。 |
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中国もまた、野生のばらの宝庫。
花びらが尖(とが)った形をしているものなど、豊富な品種があります。
中国では、これらを栽培し、さまざまな園芸品種を生み出しました。
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18世紀以降、中国や日本のばらがヨーロッパへもたらされ、さらに交配が重ねられます。 |
| そして1867年、フランスで生まれたのが、この花「ラ・フランス」です。
大輪の花を年に何度も咲かせる、完成された品種でした。
これ以降作られたばらを「モダンローズ」と呼びます。
私たちがばらと聞いてイメージする、豪華な花の誕生です。 |
| 一方、こちらは西洋の庭園でよく目にする、華やかなつるばら。
これも近代になって作られたモダンローズの一種。
その元となったのは日本からもたらされたばらでした。 |
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日本の野生のばら・「テリハノイバラ」。これが、つる状の性質を伝えました。
近代ヨーロッパで作り出されたモダンローズ。
その原点は、中国や日本のばらだったのです。 |
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では、花の形に注目しましょう。
5月、世界のばらを展示する大規模なイベントが開かれました。
ばらには、現在3万にのぼる品種があります。
その形もじつにさまざまです。 |
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ティーカップのような「カップ咲き」。 |
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花びらが密集した「ロゼット咲き」。 |
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会場では、ばらの美しさを競うコンテストも開かれました。
ばらの愛好家たちが庭で育てた花を出品しています。
審査員は、ばらの普及につとめる団体「日本ばら会」の理事たちです。 |
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大賞に輝いたのは、こちらのばら。
この花のどこが優れているのか。
理事長の長田武雄さんにポイントをきいてみましょう。 |
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長田「現代ばらの最大の特徴である剣弁高芯、すなわち、一番外側の花びらが内側にちょっと丸め込まれまして、先が尖ると。で、中の芯(しん)は、残りの花弁は、こんもりと包まれまして、全体が正形になってると。同心円ていいますか。形の上で最高の形になってると。」
ばら鑑賞・最初のツボは、
「均斉のとれた剣弁高芯を味わう」 |
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「剣弁高芯」は、モダンローズの代表的な形。
花弁、つまり花びらが剣のように尖り、中央の芯が高くそびえる姿をいいます。
中国の園芸品種がもつ特徴を、ヨーロッパでさらに際立たせて作り上げた、究極のばらの形です。
剣弁高芯の花は、19世紀以来、ばらの主流として栽培されてきました。
100年以上かけて、世界中で磨き上げられてきたのです。 |
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この「京成バラ園」で7000株もの花を育てているのが、チーフ・ガーデナーの鈴木満男さん。
剣弁高芯の花をみごとに咲かせるコツをうかがってみましょう。
鈴木「まず、花数を少し制限するということが大事かと思います。そうしますと、ステム(枝)が長くなりまして、もっと大きな花が咲いてくれます。さらに、剣弁になってくれると思います。」
しかし、花の数を減らし過ぎてもいけません。今度は、高芯の形が崩れてしまいます。 |
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鈴木「こちらのダブル・ポイント、芯が二つですね。こういう状態になることがあります。肥料吸収しすぎる。せっかくの花が、芯がふたつになる、ということが起きてしまう。」
同じ剣弁高芯のばらでも、品種によって性質が異なります。
花のすき方や肥料の与え方など、こまやかな目配りが必要です。
鈴木「自然界にはなかなかこういう花形は存在しないんですが、ま、存在しないってところがいいわけですね。それがずっとみんなに受け入れられてきた。まあ、ばらとしては非常に完成された形だと思います。」
精巧な彫刻を思わせる剣弁高芯のばら。それは、人間の美意識が作り上げた、高度な芸術品なのです。 |