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一般的な土蔵のイメージは、真っ白に塗り固められた漆喰壁。黒い瓦やなまこ壁が、白さを際だたせています。白い壁の蔵は江戸時代に全国でつくられるようになりました。 |
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一方、こちらは幕末の江戸・日本橋の町並みを描いた浮世絵です。通りに面して並ぶ蔵は、どれも黒い色をしています。「江戸黒」と呼ばれる蔵の黒は、江戸商人たちの間で大流行しました。 |
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その日本橋をまねて作られた町並みが、小江戸と呼ばれる埼玉県川越に残されています。明治26年に起きた大火のあと、川越商人たちが建てた蔵造りの店舗。
今も30棟ほど残っている蔵のほとんどは、「黒漆喰(くろじっくい)」によって重厚な色をまとっています。 |
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川越の蔵の調査・研究を行っている福田喜文さんです。
福田「黒漆喰は、手間・暇・金のかかる非常にぜいたくなもの。しかもただ黒いというだけでなく、輝きをもった黒なんです。商人たちは競って輝きを持った黒い蔵造りを作っていったのです。」
蔵鑑賞、二つ目のツボ、
「漆黒の壁に輝きあり」 |
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もともと黒は渋好みの江戸っ子たちの間で粋(いき)とされた色。
こちらは解体された蔵の壁の破片です。断面を見ると、白い漆喰で仕上げた上に、輝くような黒がごく薄く塗られていることがわかります。 |
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輝きを持った黒はどのようにして作られるのでしょうか。
今では少なくなった黒漆喰を作ることができる左官の加藤信吾さん。次の世代に技術を伝えるため、蔵造りの自宅を若い職人とともに建築中です。
加藤さんに、黒漆喰の作り方を教えていただきます。 |
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黒漆喰の黒は、菜種油を燃やしてつくる「油煙」という高級なすすから生まれます。油煙を混ぜた黒い漆喰を、丁寧にこしたものが、「黒ノロ」といわれる塗料です。なめらかな黒ノロが輝くばかりの江戸黒の壁を生み出すのです。 |
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真っ白に仕上げた壁の上に、黒ノロを薄く塗っていきます。ひび割れのないなめらかな表面にするためには、黒を「紙一枚」と言われるほど薄く塗る必要があります。 |
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黒ノロが固まってくると、次に絹布で磨きます。しだいに輝きが宿ってくる壁にさらにとの粉を打って、最後にはなんと素手で磨き出します。時間をかけてじっくり磨くことで、表面は鏡のようになり、顔が映るほどです。 |
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加藤「磨いていて音が出るようになるとだいたい下地が堅くなってきて、だいたい磨けてきたかな、という感じなんです。手で触ってみるといい漆喰は瀬戸物のようにつるつるしています。」 |
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川越にある明治33年に建てられたしにせの茶屋の蔵。ここに、川越でもっとも美しいとされる黒漆喰が残っています。1階部分は屋根に覆われているため、風雨にさらされることなく、今なおつややかな光沢をたたえています。商人たちがあこがれた江戸黒の輝きです。 |