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蓄音機は、1877年、かの発明王、トーマス・エジソンが生み出しました。
蓄音機独特の臨場感あふれる音。人を魅了する、その音の秘密はどこにあるのでしょうか? |
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数十年に渡って蓄音機を研究してきた店のオーナー磯貝建文(いそがいたけふみ)さんに伺いましょう。
磯貝「蓄音機と今のオーディオ機器とはまったく別物。
電気信号に変換せず、直接、空気を震わせて音を出す蓄音機は、いわば『楽器』だと思えばよい。」 |
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音が出る仕組みは、いたってシンプル。
まず、レコードに刻まれた溝から、針が小さな振動を拾い上げ、サウンドボックスと呼ばれる部分で、音を再生します。
さらに、ホーンを通ることで音が拡大されます。
大切なのは、この過程で、忠実な音を再生すること。
そのために、曲線を駆使した独特の形が生み出されました。 |
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磯貝「美しさが美しさのための美しさではなく、いかに良い音にするためにそういう形にするのか。
音の入り口から出口まですべて曲線でできているし、それが最も美しい音を出すような形に折り曲げられたりしている。」
そこで、蓄音機鑑賞、一つ目のツボは、
「曲線が生む華麗な響き」 |
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この円形のサウンドボックス。蓄音機の心臓部と呼ばれています。
中に入っているのは、ダイアフラムと呼ばれる振動板。
この丸い形に音を再生する秘密が隠されています。 |
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まず、レコードから拾いあげた振動を中心で受けます。 |

| そして、そこから波紋のように広がる振動がダイアフラム全体に均等に伝わっていきます。
円形だからこそ、録音された音が正確に再生されるのです。
さらに、渦巻状に施された美しい模様は、ダイアフラムの中心から外側まで振動を効率的に伝えるために計算された形なのです。 |
| そして、サウンドボックスで再生された音を拡大する装置がラッパ型のホーンです。
蓄音機の顔とも呼ばれ、ここにも独特な曲線美があります。 |
| 最初にエジソンが発明した蓄音機は、ストレート・ホーンと呼ばる、直線的な形でした。(冒頭写真参照)
その後、試行錯誤を重ね、生み出されたのが、この、滑らかな曲線です。
徐々に比率を変えて広がっていくことで、それまで出なかった低い音や高い音が再生されるようになりました。 |
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どうしてなのでしょうか?
まず、直線的なホーンの場合、空洞の中で音が乱反射するので出口付近で音がこもってしまいます。 |
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対して、ラッパ型は、音の伝わり方に抵抗が少なく、より自然に音を再現しながら、拡大することができるのです。
音の測定器が無い時代、職人は、耳だけを頼りに、この複雑な曲線を生み出していったのです。 |
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ラッパの造形には、高度な技術が必要でした。
木製のラッパの場合…
何枚かのパネルを、微妙な曲線に整形したあと、はり合わせて作ります。
100年経った今なお、木が反ったりせず、継ぎ目がわからないほど正確な形をとどめています。 |
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こちらは、明治の終わりに造られた、国産第1号の蓄音機。
9枚の金属パネルをはり合わせた形は、菊の花。
花びら一枚一枚が彫金され、美しさが引き立ちます。
百花りょう乱、個性的な表情を見せる、ラッパの形。
蓄音機を飾るさまざまな曲線美。
それは、より美しい音を求めた職人たちの技術のたまものです。 |