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File89 鶏(にわとり)


現在、17種のにわとりが国の天然記念物に指定されています。

気品ある白と黒の「小国(しょうこく)」。平安時代に遣唐使とともに渡来し、その後日本で洗練されて独自の品種となりました。

直立する姿が勇ましい「軍鶏(シャモ)」など、江戸時代には、東南アジア原産の品種も持ち込まれます。


もともと弥生時代ごろから、家畜として飼われていたといわれる「にわとり」。
アジア各地からさまざまな種類が入ってくるようになり、江戸時代に観賞用の鶏(とり)として品種の改良が進みました。

 

壱のツボ 尾羽の華やかさを堪能(たんのう)せよ


まずは、羽に注目です。

高知県が誇る品種、「尾長鶏(おながどり)」です。
尾羽の長さは5メートル余り。
長いものでは10メートルを越します。命を持つ芸術品といわれ、特別天然記念物に指定されました。
つまり、国宝級。

230年ほど前、尾羽が生え変わらないにわとりの雄を見つけ、改良を重ねてきました。
江戸時代、この長い尾羽を土佐藩は珍重しました。
そして、大名行列の先頭を行く槍(やり)のさやに飾り付けました。
「鳥毛(とりげ)」と呼ばれたこの装飾は、他の藩のせんぼうの的となったといいます。

高知県の山間部で行われる「秋葉神社」の祭礼。
祭りの華(はな)は、男達の「鳥毛」の投げ合い。
大きく舞い上がる長い羽は、大名行列の勇壮な姿をしのばせます。
土佐藩は、「尾長鶏」を門外不出とするほど、大切にしました。

その「尾長鶏」を守り育てて60年余り、保存会の会長・池本俊夫さんです。長いだけではない尾羽の魅力を感じています。

池本「つやがある毛色や、抜けずに伸びるところに特徴がありますね。こんなにきれいな鳥はないですね。」

鶏鑑賞、壱のツボは、
「尾羽の華やかさを堪能せよ」


珍しい全身白色の「尾長鶏」。
より美しく、より長く、愛鶏家たちの熱意が生み出した優美な姿です。

こちらは、小型で短い脚が特徴の「矮鶏(チャボ)」です。
チャムバ、今のベトナムが原産とされることから名付けられた品種です。
江戸の初め、そのかれんな姿に魅せられた武士や商人達によって、広く飼われました。
当時の記述によれば、人々は「羽」の色の違いなどから呼び名を付けていました。
その後、羽の美しさを競い合い、現在では25種にもなります。

淡い黄褐色のまだら模様が広がる、「金鈴波(きんすずなみ)」。

緑がかった黒い羽が光る「黒」チャボ。

白と黒のコントラスが鮮やかな「碁石(ごいし)」チャボ。
羽の中でも色や模様がより豪華に映し出される尾羽を、日本人は特にめでてきました。

去年、品評会で日本一となったチャボ。「桂」と呼ばれる種類です。

飼い主は、宮城県大崎市に住む熊谷弘さん。
日本一の決め手となった尾羽の魅力を伺いました。

熊谷「尾の中でも真ん中の長い2本の尾羽が謡羽(うたいばね)と呼ばれます。硬さも硬すぎず柔かすぎず、わずかに曲がった状態が好まれます。
冠の一番後ろを冠尻と呼ぶんですが、尾羽を立てた時にちょうど冠尻がこの謡羽と少し触れる程度が標準とされています。」

雄の尾羽の中で、特に美しいとされるのが、ひときわ大きな一対の「謡羽」です。
この立ち姿。「チャボ」は、「動く盆栽」とも言われています。
身近な生き物にまで、美を求める日本人の情熱が、華やかな尾羽のにわとりを生んだのです。

弐のツボ 真紅(しんく)の鶏冠(とさか)に生命力を見よ

次は、にわとりの冠、鶏冠(とさか)です。

3月下旬、香川県高松市で、にわとりの「品評会」が開かれました。
各地の愛鶏家たちが自慢のにわとりを、持ち寄りました。
色や形など、総合点で美しさを競います。審査で大きなポイントとなるのは尾羽、そして、頭の部分です。特に重要なのが「鶏冠」です。

愛鶏家の情報誌を発行している佐竹満治さんに、その鑑賞法を教えていただきました。

佐竹「この冠と この耳朶(じだ)ですね。この肉髯(にくぜん)の三つのバランスを頭部としてみる。
これが基本の見方なんですね。
あの朱色、赤が鶏冠の色で、垂直に立って、真っ赤で生き生きとした冠の色が、にわとりの命みたいな部分に当たるかもしれませんね。」

鶏冠は頭の皮膚が発達したもの。その大きさは、雄が勝ります。
おなじみの形は「単冠(たんかん)」と呼ばれています。
一枚の薄い鶏冠と肉髯(にくぜん)が、目を中心にして丸い円の中に納まるのが、生き生きとした理想の美しさとされます。

鶏鑑賞、弐のツボ、
「真紅の鶏冠に生命力を見よ」

雄の鶏冠が大きいのは、雌に対して魅力をアピールするためと考えられています。
雄と雄が闘うときには、鶏冠のある頭部を攻撃します。

平安時代から雄どうしを闘わせてその勝ち負けで吉凶を占う「闘鶏(とうけい)」が行われていました。
江戸時代には、娯楽として盛んになり、強いにわとりが求められました。

人気を呼んだのが闘争本能の強い「軍鶏(シャモ)」。
シャム、今のタイから持ち込まれた品種です。

「三枚冠(さんまいかん)」と呼ばれるその独特の鶏冠は、まさに闘うために小さく進化させたものです。
ごつごつとした三列の盛り上がりが特徴です。


奈良県五条市で、「軍鶏」を含め500羽を飼育する愛鶏家の前川圭造さん。自慢は、鹿児島県で生み出された精かんな品種「薩摩鶏(さつまどり)」です。「軍鶏」と大型のにわとりとを交配し「闘鶏」用に改良されたものです。鶏冠は、きりっと締まった「三枚冠」です。

前川「やっぱり冠が力強いですね。
軍鶏の血が入って三枚冠になっていますからね。この冠で鶏の雰囲気が変わりますね。毎日見ているけど、かわいいもんです。」

どうです。このつやと張りのある「三枚冠」。さらに、その形からさまざまなものに見立て、名前がつけられました。

こちらは、くるみ冠。

そして、菊冠。

日本人はにわとりの真紅の鶏冠にこうした力強い美しさを見出してきたのです。

参のツボ 長鳴きの味わいは節回しにあり

 

古来より、にわとりの鳴き声は、神聖なものとされてきました。
「古事記」には、天照大御神が天の岩屋戸(いわやと)にこもって闇夜が続いたとき、神々が太陽の復活を願って鳴かせたのが、常世(とこよ)の長鳴鳥だったと記されています。

現在でも、長い時間鳴く品種が、大切に育てられています。
おもに四国地方で愛好されてきた「東天紅(とうてんこう)」です。
日本人はにわとりの長鳴きに魅了されてきました。

神奈川県川崎市の愛鶏家、一寸木誠一さんが飼っているのは「声良(こえよし)」という長鳴き鶏です。
一寸木さんは、「鳴き台」の上で、鳴くように訓練しています。

「声良」は、青森や秋田など東北地方で生みだされたにわとり。
その鳴き声は…。

くちばしを閉じて、うなるように胸底から絞り出す声は、にわとりの中で最も低いといわれています。

一寸木「世界でもまれな声だと聞くので、もともと好きな鳴き声になお、ほれちゃうんです。
ただ、棒鳴きみたいな鳴き方ではだめですね。」

長鳴きの聞きどころは、その抑揚。 
「出し」から、「張り」、そして、最後の「引き」の調子を愉(たの)しみます。

鶏鑑賞、最後のツボ、
「長鳴きの味わいは節回しにあり」

新潟地方で生みだされた長鳴き鶏「唐丸(とうまる)」。
その朗々とした鳴きっぷりは、屈指といわれます。
さあ、どんな長鳴きなのでしょうか

「唐丸」は、「すくみ箱」と呼ばれる箱の中に入れられ、運ばれてきました。
出したとき、夜明けが来たと思わせるためです。

去年、「唐丸」の「鳴合わせ会」で優勝した吉橋菊治さん。

仲間でライバルの吉野則明さんと共に、「鳴合わせ」を披露していただきました。


雄の長鳴き鳥は、お互いに「鳴き」を競い合う習性があります。
鳴き台の上に乗せると、まず右側の「唐丸」が…、

「唐丸」の長鳴きは、どのように愉しむのでしょうか?

吉橋「飼っている人の楽しみは、『ろの字鳴き』でしょうね。ヒューっと鳴いて、いったん落ちて裏返した声がろの字に丸くなって、グーと伸ばす。それが『ろの字鳴き』と呼ばれるんです。」

「ろの字鳴き」とは、ひらがなの「ろ」の字を横にしたような鳴き方です。
謡い出してすぐに下げ(分け)、
徐々に上げて〜力強く張り〜、
緩めながら落し〜静かに結ぶ。
それを理想としています。

唐丸の鳴声が何度も響きます。

長鳴きの節回し、何ともいえない心地よさを感じませんか?

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

野原で、花の中で、布の上で、美しい姿を見せるにわとりたち。撮影はさぞ大変だったのでは?と思ったら・・・鶏たちはとてもおとなしくポーズをとってくれたそうです。今回は愛鶏家の方々が大切に育てたにわとりをお借りして撮影したのですが、愛情をもって大事にされているにわとりというのは、むやみに興奮したり、走り回ったりはしないそうです。
仕事柄、長鳴き鳥の声にはとても興味があったのですが、ちゃんと「息をいっぱい使って声を出し切って」いたことにびっくり!聞いていると私まで腹筋に力が入りました。鳴いたあとの、どこか自慢げな表情も心憎いばかり。あの美声とプロ意識、すばらしいです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
Tick-Tock Wynton Marsalis
Ruby Oscar Peterson
Times Like These Gary Burton & Makoto Ozone
Nocturne For Flute Bud Shank
My One And Only Love Oscar Peterson
Maria Branford Marsalis
Ragtime Wynton Marsalis
Stolen Moments Turtle Island String Quartet
Us Three Horace Parlan
Saeta Miles Davis
No.12 Chick Corea
Slow Drag Wynton Marsalis
Naima Turtle Island String Quartet
Trouble My Soul Wynton Marsalis
The Drum Thunder Suite Art Blakey
New Orleans Bump Wynton Marsalis
The Bare Necessities Louis Armstrong