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しなやかな身のこなし。
きらびやかな衣装に、派手な化粧。
立ち居振る舞いのすべてが様式美に彩られた歌舞伎は世界に誇る日本の伝統芸能です。
派手な格好をした歌舞伎役者たちは、娯楽の少なかった時代、庶民を熱狂させました。
「演目」には大きく分けて2種類あります。
時代物は、江戸時代以前の歴史上の事件や人物を描いたもの。
『義経千本桜』などが有名です。
源義経をめぐり、平家の武将がおん念をはらそうとする物語です。
世話物は、庶民の人間模様を扱った、いわば、当時のトレンディドラマ。
盗賊、弁天小僧の物語などが知られています。 |
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歌舞伎に関するエッセイを数多く発表している、山川静夫さん。
歌舞伎の一番の魅力はどこにあるのでしょうか。
山川「歌舞伎は"役者を見る"演劇。役者の芸を見るのが歌舞伎だと思います。その芸を見るのには"役柄(やくがら)"というものがある。この"役柄"を楽しんでいただきたい。」 |
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歌舞伎では、物語をわかりやすくするため、性格がパターン化された役を配しています。
それを"役柄"といいます。
善人の男性役である『立役(たちやく)』。
悪人の『敵役(かたきやく)』。女性の役、「女方(おんながた)」などがあります。
この役柄、まずは、どこに注目すればいいのでしょうか?
山川「一つの方法としてはね、"化粧"。これは、役柄によって違うんですよ。それを見ると、役者の性格とか物語の背景が見えてくるんです。」
歌舞伎鑑賞、一つ目のツボは、
「役は化粧で読み解け」 |
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『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』は、多くの役柄が勢ぞろいする演目。
曽我の兄弟が親の敵(かたき)である、工藤祐経に対面する物語です。
立ち役である曽我の兄弟。
化粧によって性格が区別されています。
兄・十郎の役は、『和事(わごと)』というスタイルで演じられます。
「和事」はやわらかみのある演技が特徴で、顔を白く塗った色男の化粧です。
一方、弟・五郎は、『荒事(あらごと)』。
力みなぎる、荒々しい演技をひときわ派手な化粧で強調します。
そして、工藤祐経は『実事(じつごと)』。
敵討ちにはやる兄弟を押さえる思慮深い演技をするため、現実感のある化粧をしています。 |
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こうした歌舞伎独特の化粧の中で最も強い印象を与えるのが、荒事に使われる、『隈取(くまど)』です。 |
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こちら、歌舞伎俳優、十代目・坂東三津五郎さん。
7年前の襲名披露公演では、荒事・曽我五郎をみごとに演じました。
坂東「実は赤い隈取りというのは、人間がガアッとゲキした時に、赤い血管が浮き出た、極限の状況をわかりやすく化粧として表現している。この五郎の場合は、青年らしい一本気な強さ、そして、一つの香気というんでしょうか、香りのようなもの、そういうようなものが、この隈取りから表れなければいけないと思っています。」 |
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さらに、『隈取』の色によって、どんな役が演じられるのかわかります。
「紅隈(べにぐま)」と呼ばれる、赤い『隈取』は、正義感や力強さを表す、ヒーローの色。
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対して、青い『隈取』は邪悪な心を表す、悪人の化粧。
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茶色い隈取は、よう怪変化などに多く用いられます。
こうした、化粧の特徴を理解すれば、その役を役者がどのように演じるか、期待をこめて見ることができます。
このように、化粧に注目する事で歌舞伎独特の様式美に彩られた役を味わうことができるのです。
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