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File76 かるた


日本に「かるた」が伝わったのは室町時代後期。キリスト教や鉄砲とともに、ポルトガル人によってもたらされました。

カードはポルトガル語で「Carta」(カルタ)。

かるたが入ってくる以前から、日本には、二枚貝の貝殻を合わせる「貝覆い(かいおおい)」という遊びがありました。

バラバラになった貝殻の一方を探す「貝覆い」は、ポルトガルから渡来したカルタと融合します。

そして誕生したのが、カード型に仕立てられた日本独自の「かるた」でした。

当初つくられたのは、上の句と下の句に分けた和歌の札を合わせる「歌かるた」。

絹地の札に、金箔(きんぱく)を散らした華やかな絵。かるたは、みやびな歌の世界を楽しむためのものだったのです。

 

壱のツボ かるたは遊ぶだけにあらず 見て楽しめ

競技人口が全国で百万人以上にもなる百人一首かるた。

詠み上げられた上の句から、下の句の書かれた札を取り合う、かるた取りの競技です。

百人一首が競技として競われるようになったのは、明治以降のこと。

 


百人一首かるたの誕生は江戸時代の初期。
かるたは、見て楽しむためのものでした。
愛好したのは、貴族や大名など裕福な家柄の女性たち。

その形は今では考えられないほど、自由奔放です。扇をかたどった札からも、かるたが、遊ぶためではなく鑑賞のために作られていたことが分ります。

かるた鑑賞、一つ目のツボ
「かるたは遊ぶだけにあらず 見て楽しめ」


大牟田市立三池カルタ歴史資料館 蔵

江戸時代、百人一首が豪華になっていったのは、かるたが、貴族の嫁入り道具だったからでした。

貴族たちは、著名な絵師や文人に書画を依頼し、自分だけのかるたをつくらせました。

さらに、かるたを入れるための箱にも究極の美を求めます。

黒漆に、波の上を飛びゆく千鳥を優雅に描いた蒔絵(まきえ)。

嫁入り道具のかるたに、上流階級の人々は、惜しみなく贅(ぜい)を尽くしたのです。

こちらは、江戸中期の絵師、尾形光琳が描いた百人一首かるたを復元したものです。三十年前、京都の旧家から発見されたものをもとに作られました。

描かれているのは、和歌を詠んだ歌人の絵です。
光琳は、衣装一つ一つに金を施し、よりあでやかに仕立てました。

光琳の百人一首を復元し、その技を伝えようとしている職人がいます。

金箔を扱う、職人の吹上重雄(ふきあげ・しげお)さんです。
吹上さんの仕事は、かるたに金箔を貼りつけること。

吹上「まさに芸術的な美術品のかるたっていうふうに一言で申し上げるとそれに尽きるんじゃないかって思いますけど、できるだけ心を落ち着けて、みやびな心に近づける気持ちで仕事をすればそれが反映されるかなっていうふうに思ってこのかるたに取り組んでいます」

貼り付けた金箔をすると、のりが付いている部分にだけ金箔が残ります。

金がのるのはほんの一部、大部分は削り取られてしまう、これ以上ないぜい沢なかるたです。

歌人たちの衣装に、散りばめられたまばゆいばかりの金箔。

貴族たちが愛でたであろう豪華なかるたに仕上がりました。

華麗なる百人一首かるた、みやびな世界をごたんのういただけましたか?

弐のツボ お見事! 花札に込めた職人たちの知恵


滴翠美術館 蔵

桃山時代に作られた現存する日本最古のかるたです。
まるで西洋のトランプそのものです。

こうしたかるたは大名や武士を始め、広く庶民の間にも流行していきました。
しかし、カード遊びには、かけ事が付きもの。
江戸時代、幕府は風紀を乱す遊びに禁止令を出すようになります。


大牟田市立三池カルタ歴史資料館 蔵

かるたを作って生計を立てていた職人たちは、札の絵を棒や丸に置き換えるなど、デザインを巧みに変え、幕府の目をかいくぐります。

さらに新たな禁令がかけられると、また新しいかるたを作るというイタチごっこが繰り広げられたのです。


大牟田市立三池カルタ歴史資料館 蔵

そして、職人たちが行き着いたのが「花札」でした。

京都で200年続く老舗(しにせ)かるた屋の主人・ 前田俊行(まえだとしゆき)さんです。 代々、さまざまな花札を世に送り出してきました。

前田「日本の四季の移り変わりによって、一年中、花が何かあるとということで、花を題材にしてできたのが、この花札なんです。これは今までに、ヨーロッパから伝わってきたカルタとはまったく違う日本独特のかるたがついに生まれたわけなんです」

一月は松、二月は梅、三月は桜と、日本の四季の花の豊かさに着目した花札。

賭博(とばく)に付きものであった数字を十二ヶ月の花や生き物に置き換えることで、絵札に数字の意味合いを持たせたのです。

かるた鑑賞、弐のツボ
「お見事! 花札に込めた職人たちの知恵」

京都に江戸時代の職人の技を継ぎ、手ずりで花札を作っている人がいます。

かるたを作り続けて五十年になる松井重夫(まついしげお)さんです。

手ずりのかるた職人は全国で松井さんただ一人です。

染料にのりとみょうばんを混ぜた絵具で、型紙の上から色を塗る江戸時代のままのすりの作業です。

職人が生き残りをかけた複雑な図柄は、花札に色彩の美しさを与えます。

図柄から大胆にはみ出した色彩は、手仕事の独特の風合いを醸し出します。

移ろう季節の花で表現された小さな札は、職人の絶え間ない知恵の結晶だったのです。

参のツボ かるたは文化を映す鏡

江戸時代後期、急速に広まっていったのが、「いろはかるた」です。

子どもから大人まで庶民の遊びとして流行しました。

よく知られた教訓や道徳心をうたったことわざが用いられ、日本人に最もなじみ深いかるたです。

 

いろはかるたの収集をはじめて二十年以上になる時田昌瑞(まさみず)さんです。

週に一度は行くという骨とう市でさまざまな珍品と巡り合ってきました。

中でも、珍しいのがこちら。「井のふちのちゃわん」ということわざで始まる男女の姿を描いた春画。

ちょっとでも触れると、井戸に茶わんが落ちるという意味で、二人の危うい関係を示しています。
かるたが大人の風俗に、うまく利用されていたことが分ります。
 
時田「私はこれ、ぱっと見て、私は本当ぎょっとしてびっくりしてね。で、これはすごい資料だと思って、子どもの遊びであると同時に、並行的に大人独自の文化・美術というものとして存在したんじゃないかというのが私の今の見解なんですけどね」

かるた鑑賞、最後のツボは
「かるたは文化を映す鏡」

かるたの伝える日本文化を見ていきましょう。

こちらは、能のかるた。演目で歌われる和歌と演者を合わせるという、古典芸能の教養が試されるかるたです。

一風変わったこちらのかるたは、幕末に作られた英和かるたです。開国当時、外国語を学ぶために作りました。

ことわざに留まらず、時代の文化を伝承する道具としてかるたが広く流行していたのです。

ひな人形の生産地である静岡市。ここに、かるたを使って日本の伝統文化を伝えようとしている職人がいます。

ひな人形に着せる十二ひとえの生地で作っているこのカードが、実はかるた。
言葉や絵はない代わりに、色を表したカルタなのです。

日本の色は、古来、草木染めから多くの名前が付けられてきました。
代表的な二十四色をかるたにし、色の文化を伝えようとしています。

色のかるたを作っている望月和人(もちづきかずひと)さんです。 望月さんは、かるたが持つ「伝達」の役割に着目しました。

望月「自然の中にある造形を、そのまま色の名前にするという、日本人の自然と一体化した色感覚っていうのを、今の人にも分ってもらいたいなと思って、やっぱり手に取って楽しんでもらいたい、プラス、学んでもらいたい、それが両方できるのが、やはりかるたかなと思ったもんですから。かるたにしてみたんですけど」

平安時代に付けられた色の名前は一つの色を表すだけではありません。
貴族たちは、着物を重ね合わせてできる色の組み合わせにも名前を付けていました。



こちらは名付けて「雪の下」。

白いかるたは、うっすらと庭に降り積もる雪を、その下には春の訪れを待つ花と新緑の色を配しています。



こちらは「山吹(やまぶき)」と呼ばれる秋の配色。

紅葉する木々が混じり合う山の情景を、朽葉色(くちばいろ)や苅安色(かりやすいろ)で重ね合わせています。

かるたで知るいにしえの色彩。
かるたは、さまざまな日本の文化を伝えることのできる優れた遊び道具でもあるのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

私が中学生の時、父が百人一首を買ってきて、我が家に「百人一首ブーム」がまきおこりました。あっというまに家族中が夢中になり、その正月は朝から晩まで百人一首!繰り返し繰り返し遊んだものです。
私のふるさと北海道の百人一首はちょっと変わっていて、下の句しか読みません(「下の句かるたとも呼ばれています)。読むのは下の句だけで、それを聞いて下の句が書かれた札をとりあうというシンプルなもの。取り札は紙ではなく木の板になっていて、それに独特の書体で下の句が書かれているのですが、慣れるまでこの字がちょっと読みづらかったのを覚えています。
ちなみに最初に好きになったのは「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ」という歌・・・ロマンチックな恋の歌に憧れました。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moose The Moose Uptown String Quartet
Westwood Walk Shorty Rogers & Gerry Mulligan
The Riviera Blossom Dearie
Allice In Wonderland Dave Brubeck
I Thought About You Oscar Peterson
Lush Life Yoshiaki Masuo
Maria Branford Marsalis
I Feel Good Uptown String Quartet
Fugue In A Minor MJQ
Blues March Art Blakey
Left Alone Mal Waldron
Bye Bye Blackbird Miles Davis
My One And Only Love Oscar Peterson
Samba Para Ustedes Dos Uptown String Quartet
Give A Little Whistle Dave Brubeck
When I Am Laid In Earth MJQ
Satin Doll Jimmy Smith
My Funny Valentine Bill Evans & Jim Hall
Try Your Wings Blossom Dearie
S’Wonderful New York String Quartet