バックナンバー

File72 懐石料理


壱のツボ 季節の移ろいを見よ


クリックで拡大表示

懐石料理は、四季折々の食材を用いた美しい日本料理。
1品1品の料理が、順を追って出されます。

懐石料理の始まりは、茶の湯の席で、千利休が客人をもてなすために用意した質素な食事です。


クリックで拡大表示

当時の記録をもとに、利休の春の献立を再現しました。身近なものを使った質素な料理。
しかし、季節の食材に利休はこだわりました。

「一汁三菜(いちじゅうさんさい)」と呼ばれる質素な献立に、利休が盛り込んだ季節の食材。それが、懐石料理の原点です。

それでは、食材に込められた季節感を味わってみましょう。

長い歴史の中で「懐石料理」がはぐくまれてきた京都。
人々は、この土地ならではの食材を育ててきました。
その一つが京野菜です。

地の食材にこだわってきた料理長の藤原昭人(ふじわらあきひと)さんに、季節の食材の楽しみ方を教えて頂きましょう。

藤原「懐石には、ま、あの四季のですね、料理の食材がありまして、季節の移ろいをですね、変わりゆく季節の変化をですね、味わってもらうのが懐石のだいご味やと私は思いますけど。」

懐石料理鑑賞、一つめのツボは
「 季節の移ろいを見よ 」

藤原さんが、旬の食材として選んだのは、この魚。
福井県の若狭湾(わかさわん)で採れた「グジ」です。
黄色く色づいたウロコは、冬ならでは。
脂がのっている印です。
早速、旬の食材グジを調理して頂きましょう。


クリックで拡大表示

「ぐじの若狭地焼」。
冬の京都ならではの食材でもてなしたいという思いが込められています。

じつは、懐石料理に用いられるのは、旬の食材だけではありません。
こちらは秋の味覚「松茸」。

一つ前の季節の食材を「名残(なごり)」と呼びます。

こちらは、冬から春にかけてが旬の京野菜、「くわい」。

季節を先取りした食材は、「走り」と呼ばれ、旬を引き立てるために使われます。


クリックで拡大表示

旬だけでなく、名残、走りの食材によって、懐石料理は移ろう季節を表現しているのです。

 

弐のツボ 器と料理が織りなす和


クリックで拡大表示

器と料理には切っても切れない関係があるんですよ。

茶人の井関宗脩(いせきそうしゅう)さん。
茶会を開く時、客をもてなすために、献立を決めるだけでなく、すべての器も自ら選びます。

井関「器と料理の調和を一番大事に致します。その時に、その料理にあった器を選ぶ、そして全体の器のバランスをみるということがありますので、器を選ぶということは非常に大事なことになってまいります。」

懐石料理鑑賞、二つ目のツボは
「器と料理が織りなす和 」

用意したのは、四角い器と丸い器です。

四角い器には、直線や角を生かすため、丸みのある料理を盛りつけます。

一方、丸い器には四角い料理を盛りつけて、器の丸みを生かします。

器と料理が調和して完成する美です。

参のツボ 飾り包丁に遊び心

最後は、彩りを添える「飾り」を見ていきましょう。

もともと茶の湯の席で振る舞われた懐石料理は、質素な料理でした。
それが江戸時代中ごろ、大きく変わります。

そこで用いられるのが「飾り包丁」。
食材に繊細な切り込みを入れ、彫刻のように美しく仕上げる技です。


クリックで拡大表示

飾り包丁によって創り出された「分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)」。
福をもたらす伝説上の釜が、細かな細工で表現されています。

細工に用いるのは、日本料理に欠かせない片刃包丁です。
片方の面にしか刃がない包丁は、繊細な切れ味が特徴です。

日本料理の歴史を研究し、包丁の技を極めた長島博(ながしまひろし)さん。
その魅力ついて伺いました。

長島「飾り包丁によって、花や動物などを形どり、季節の風景を見立てたりします。そして、お客様にも見た目の世界を、さらに楽しんでもらうために、飾り包丁はもっとも活躍する技なんですね。」

懐石料理、最後のツボは
「飾り包丁に遊び心 」


クリックで拡大表示

雪につつまれた冬の山里。
長島さんの作品です。

カブラをくりぬいたかまくらの中には、えびで見立てた火鉢が置かれています。


クリックで拡大表示

正月や結婚式など、おめでたい場を盛り上げる料理をご覧頂きましょう。


クリックで拡大表示

飾り包丁によって、会席料理には食べるだけでなく、見て楽しむという魅力も加わりました。


クリックで拡大表示

四季折々の食材を盛り合わせる懐石料理。

そこには、食にも美を求める日本人の感性が深く息づいています。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

今回の収録は大変でした!見た目にも美しくアイディアにあふれたおいしそうな料理が次々登場するものですから、おなかがすいてすいて・・・。
谷流家庭懐石も力作でしたよね。「スモークサーモンと焼きせりのあえもの」はわさび醤油(じょうゆ)であえているそうです。丸い器と四角い器の法則もおぼえやすい、さっそく実践してみようと思います。
それにしても『名残』『旬』『走り』と、今の季節感だけでなく季節の「移ろい」を感じさせるなんて心憎い演出。献立にこめた物語を語る料理長は、まるで詩人のようでした。
地元でとれた京野菜を積極的に使っているところにも、食文化を大切にする京都らしさを感じます。谷さんが手にしていた聖護院大根も堀川ごぼうも寒い時期が旬。おいしいものを求めて京都に行ってみたくなりますね。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Begin The Beguine Pete Fountain
Hymn Of The Orient Clifford Brown
Memories Of You King Singers
Bewitched Paul Desmond
Sweet Pumpkins Blue Mitchell
The Girl From Ipanema Oscar Peterson
Dinner For One,Please, James J.J.Johnson
My Song Keith Jarrett
In The Mood Pete Fountain
Angel Eyes MJQ
King Porter Stomp Wynton Marsalis
It’s Easy To Remember John Coltrane
My Funny Valentine Miles Davis
Hello,Dolly Pete Fountain
Nuarges Joe Pass
So What Bill Evans-Jeremy Steig
These Foolish Sings Bud Shank
There Will Never Be Another You Carol Simpson
When The Saints Go Marching In Pete Fountain