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File71 絞り染め


日本では古くから布に美しい模様を施すため、さまざまな工夫がされてきました。
その一つが絞り染めという技法。


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こちらの女性の振り袖も、絞り染めで染められたものです。


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絞り染めはとてもシンプルな染色法です。
布をつまみ、糸で縛って染料に浸すと、染料の染み込まなかった部分がさまざまな模様となって浮かび上がってきます。

奈良時代にはすでに行われていたその原理を応用して、絞り染めは驚くほどたくさんの模様を作り出してきました。


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独特のにじみや「しぼ」と呼ばれる凹凸。
絞り染めは布にさまざまな表情を作り出すことができます。

 

壱のツボ 無限に広がる模様を楽しめ

創業280年の京都の呉服問屋。
絞り染めにはどんな技法があるのでしょうか。

こちらの反物。
地の部分は色を大きく染め分ける「桶絞り」という技法が用いられています。


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白い花は、複雑な模様を作る「帽子絞り」という技法。


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細かな斑点模様は「鹿の子(かのこ)絞り」です。


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こちらの着物には、石垣に桜が咲き乱れる大胆な絵柄があしらわれています。


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その石垣を描くのは、傘が開いたような模様を作る「傘巻(かさまき)絞り」と呼ばれる技法です。

技法によって絞りの職人は分業化されています。




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放射状の柄を作り出すため、まず、糸で模様の輪郭線を縫って引き絞り、根もとから糸を固く巻き上げていきます。

これを染料液の中に浸して染めます。


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糸をほどくと、傘が開いたような柄、糸の巻き方ひとつで、微妙に染まり方が変わり、模様に二つと同じものはありません。

村上「計算できない上がりになる。同じものは二度とできへんし、それが絞りの手仕事の魅力のひとつ。」

絞り染め鑑賞、最初のツボは
「無限に広がる模様を楽しめ」


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こちらは、京都嵯峨野の竹林を描いた作品。
多彩な色遣いで竹林の奥行きまで感じさせます。


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使われているのは2種類の技法。
わずか2種類の技法を細かく使い分けることでこのような凝った模様が染め出されます。

数ある絞り染めの中で、最も手間が掛かると言われているのが鹿の子(かのこ)絞りです。


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ひとつの振り袖に、16万とも、18万ともいわれる小さな絞りが一粒ずつ絞り上げられています。
あまりにぜいたくなため、江戸時代には度々、禁制品となりました。

50年にわたって鹿の子絞りを手掛ける中川弘美さんです。

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指先で生地をつまんで4つに折りたたみ、絹糸を巻いて絞ります。
ひとつの粒はわずか2ミリ。

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振り袖一枚分の粒を作るためには一年以上かかるといいます。
中川「一粒一粒に心込めてやっておりますからなんぼもできしません。一時間に100粒くらいしか絞れませんのでね。」

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絞りの技法は、そのどれもが無限に広がる宇宙を作り出すのです。

弐のツボ 枯山水の苔に命の森を見よ

次は、絞り染めを彩る鮮やかな色に注目しましょう。

草木染めを50年に渡って手掛けてきた篠崎節(しのざき みさお)さんです。

篠崎さんが使う染めの材料は、野にある身近な植物です。


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ムラサキの根は、その名の通りの紫色を。

 


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クチナシの実は、落ち着いた黄色。

 


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クサギは、澄んだ水色を染め出します。

 


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篠崎「模様がいかに形として最終的に出るかっていうことが絞りの技術。そこに色が加わって絞りが生きる。逆に色も生かされるっていうことですから。」

そこで、絞り染め鑑賞弐のツボ、
「絞りは色で生かされる」


染職人たちは、より鮮やかな色を出そうとさまざまな工夫を凝らしてきました。
そのひとつが「重ね染め」と呼ばれる手法。

イネ科の多年草・カリヤスを煮込んだ染料は黄色を染め出しますが、


藍で青く染めた生地をカリヤスで重ね染めすると…、


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ご覧ください。
こんなに鮮やかな緑に染め上がります。


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赤を染める場合も、はじめにコブナグサで黄色に染め、次にアカネの染料液で重ね染めすると、赤がより鮮やかに染まります。


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鎌倉時代から伝わるといわれる岩手県の南部絞り。
茜で染めた鮮やかな朱色。
紫の根からとった染料からは深みのある紫色。


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自然が生み出す豊かな色彩が絞りの文様に温かい風合いをもたらすのです。

参のツボ 絵模様は絞りの極致なり


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最後に、幻の絞り染めをご紹介しましょう。

京都市右京区の旧家には、徳川家康から譲り受けたという絞り染めの小袖が伝わっています。
この絞り染めは「辻が花」と呼ばれるもの。江戸中期に、友禅染という新しい技術が生まれたため、すっかり作られなくなったという幻の絞り染めです。


絞り作家の小倉淳史さん。辻が花の技法で作品を作り続けています。

小倉「その当時職人がなんとか絞り染めで絵模様を描きたいと思って作り上げたのが辻が花です。それは実は染め模様の着物としては日本で最初に絵模様を描いたものだったんです。」


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絞り染め鑑賞、参のツボ、
「絵模様は絞りの極致なり」


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絞り染めで絵模様を描くとき、最も多く使われるのは、帽子絞りと呼ばれる技法です。


絞り染めで絵模様を描くとき、最も多く使われるのは、帽子絞りと呼ばれる技法です。


輪郭線の外側だけを染める場合、ビニールを被せて糸で巻き上げます。
帽子のように覆ってしまうことで染色液がこの部分には染み込みません。


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さらに染めたくない部分を隠し、異なる色を染めていきます。


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色の数だけ、絞りと染めが繰り返されます。

小島「でき上がりよく見ますとね、生地に針穴が残ってるんです。糸入れの跡と染め分けの線が。いかにずれなく防染できているかってところを我々は見て欲しいと思います」


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小倉さんの手による辻が花。
明るいヒスイ色の地に水の流れが色とりどりの花とともに描かれています。
筆の趣くままに描いた絵画のようです。
辻が花は、職人が技の限りを尽くした染めの芸術です。

   

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

収録が終わって取り出したのはお気に入りの「鹿の子絞りのポーチ」。京都のみやげに友人からもらったもので、赤い鹿の子模様がとても愛らしいのです。手のひらサイズでかばんに入れても使いやすく重宝しています。
小物なのでそれほど細かい柄ではないと思うのですが(糸の種類やくくる回数など、絞り染めにもいろいろな段階のものがあるようです)、昨日数えてみたら全部で600以上の粒々がありました。
あの粒のひとつひとつをどなたかが「つまんでくくって染めて」くださったんですね。番組で紹介させていただいた職人さんの手の動きを思い出し、なんとありがたいこと!と感謝の気持ちがわきあがりました。手先の不器用な私には、とても信じられないような細かく根気のいる作業…このポーチは宝物になりそうです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Milou Stephane Grappelli
You Go To My Head Keely Smith
Someday My Prince Will Come Dave Brubeck
What’s New Bill Evans & Jeremy Steig
You Look Good To Me Oscar Peterson
Claire Stephane Grappelli
I’ll Close My Eyes Blue Mitchell
Moon Dreams Miles Davis
Over The Rainbow MJQ
Geoges Stephane Grappelli
I Only Have Eyes For You Oscar Peterson
On Green Dolphin Street Miles Davis
My Romance Dave Brubeck
Dream Pied Pipers
Milou Stephane Grappelli