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File35 将棋(駒と盤)

 

壱のツボ 駒を彩る木目を味わえ

美しい木肌に、一つ一つ漆で書かれた文字。このような高級感溢れる将棋の駒が作られ始めたのは、明治の後半からです。


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王将の駒尻と呼ばれる部分には、職人の銘が刻まれています。「駒師」と呼ばれる職人が、自信を持って手掛けた証。いずれも、将棋ファンにとって、垂涎の逸品です。

芸術的な駒を最初に手掛けたのは、豊島龍山という人物。元々は材木商を営んでいた「将棋指し」でした。

それまでは、単なる勝負の道具だった駒が、龍山によって芸術的なものにまで高められていきます。

こちらの駒は、江戸時代のもの。だいぶ使い込まれています。
当時、将棋は武士から庶民にまでひろがり、余った木の破片などを利用して駒が作られました。

明治から大正にかけて、将棋は全国的なブームになりました。
大正時代には、強い「将棋指し」の活躍が話題を呼び、人々を熱狂させます。そうした時代に、豊島龍山の駒が登場したのです。

龍山が作った芸術的な駒は、何と今では、数百万の値が付くものもあります。

まずは、木地に注目です。高級な駒の木地とは、どんなものなのでしょうか?
将棋の駒を長年にわたって研究してきた鵜川善郷さんに、教えていただきました。


鵜川さん 「こういう駒がありますね。駒木地、見ていただくと分かるように模様が付いております。色んな味わいが、彩を添えたというんでしょうか、木の良さといいますかね。そういう雰囲気が味わって頂けるでしょうかね」


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芸術的に完成された駒の魅力の一つは、独特な木目にあります。
一組40枚の駒の中で、裏に文字を入れない王将・金将の6枚には、最も美しい表情の木地が選ばれます。

今日最初のツボは 「駒を彩る木目を味わえ」


伊豆諸島・御蔵島。
最高級の駒に使われる木はこの島に生えています。

「黄楊(ツゲ)」の木。江戸の昔から、櫛や印鑑、版木などに用いられてきました。

切り出された「ツゲ」は、10年近く寝かせ、充分乾燥させた上で、ようやく「駒」に加工できます。一組40枚の将棋の駒は、木地の模様や色合いを統一するために、一本の木から取ります。
木目が真っ直ぐ通った部分は、江戸時代から駒の材料として使われていました。


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ところが、駒師・豊島龍山は意外な部分に注目します。

鵜川 「こういう根っこなんかのですね、縮んでいる部分とか、普通ですと、捨ててしまうようなところ。こういうところに着目したようです。アルコールで拭いてみますとこういう風に木の模様が出るわけです。 こういう木の美しさを、木の宝石のように扱ったわけです。」

根の複雑な模様は「根杢(ねもく)」と呼ばれます。

こちらは、虎の毛皮のような「虎杢(とらもく)」。
どの部分に出るか、切ってみないと分からないという模様です。


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鮮やかな斑文様は幹や根などに表れ、「銀目(ギンメ)」と名づけられました。


このように「ツゲ」には、場所によって、様々な木目が出ます。しかし、一本の木から取れる美しい木目は、ごく僅かです。
芸術的な味わいを持った「駒」。その材料を見つけるのは、まさに宝石を探すようなものです。

その後の駒師たちは、さらに珍しい木目を追い求めました。
これは「孔雀杢」。孔雀が羽を広げたような模様です。

「孔雀杢」は木が枝分かれする部分にしか現れず、一本の木から駒数個分しか取れません。そのため、数十本の「ツゲ」が無ければ「孔雀杢」は揃わないのです。


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40枚の同じ色合いと模様を揃えるのは、並大抵ではありません。

変化に富んだツゲの木目。その美しさは、木の宝石と呼ばれる駒だけが持つ表情なのです。

 

弐のツボ 駒の命は文字の艶

様々な書体で書かれた玉将…。末広がりの五角形という形の中で、駒の書体は、独特な発展を遂げてきました。
書体についても豊島龍山は、大きな業績を残しています。

古くから伝わる様々な文字を洗練された書体として完成させたのです。そして、それらの文字を版木にし、同じ書体のものを作れるようにしました。
これは、20種類余りの書体のサンプルをまとめたもの。現在も、将棋駒の文字の大半は龍山の書体をベースにしています。

 

さらに龍山は、駒の上に文字を描き込む、ある技を完成させました。それまで、文字は、駒に直接書いたり、彫ったり、さらに黒の漆を埋め込んだりしていました。

 

龍山が完成させた技。
漆を盛り上げつややかで立体感のある文字を表現した「盛り上げ駒」です。手にした者は、その重量感と気品に圧倒されました。

こちらは東京にある将棋駒研究会の皆さん。駒の収集や、さらには、制作までも手掛けています。

 

会長・北田義之さん 「私がね、この世界に入ったというのはこの盛り上げ駒見たときのね、漆のね、フアーとしたところ、これに魅せられちゃったんです」

ふっくらと盛り上がる漆の文字。それは、小さな駒の上に花開いた、独特の表現です。

 

二つ目のツボ。「駒の命は 文字の艶」

「盛り上げ駒」の技を伝える駒師は、全国に数えるほどしかいません。その第一人者が、新潟県三条市の大竹竹風さんです。

最初は、下地を作ります。

龍山が作った書体を写した紙を張りつけ、それに沿って彫り込みます。そこに砥粉を混ぜた黒漆を埋め込み、下地が出来上がります。

 

文字を盛り上げる筆は蒔絵筆。さらに細く作り変えます。漆は、硬めに調整した粘りのあるものを使います。

大竹さん 「漆っていうのは、墨と違って一気に書いて盛り上がるものじゃないですから、何度も何度も一本の線を書くのに筆がいくわけです。それで、一回で書いたように盛り上げなければだめ。」

 

この作業のある日は、朝から一切重たい物は持ちません。手が震えてしまうからです。

何度も漆を置き、伸ばし、盛り上げる…真っ直ぐ進む「飛車」…。
その勢いがこの一本の縦の線に込められます。

駒に命をふきこむ瞬間です。

 

最後に手掛ける、玉将と王将。40枚ある駒の中で最も太い線。たっぷりと威厳に満ちた貌です。


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美しい木目に、艶やかな漆の線…、
力強く盛り上がった文字が、駒一つ一つに個性を与えています。

参のツボ 盤上の澄んだ音を楽しむ

最後は、将棋の盤に注目です。

「将棋盤」は、勝負を行う神聖な場、その最高級の材は、榧(カヤ)の木です。
硬いツゲの駒をしっかりと受けとめる強靭さと弾力性をあわせ持ちます。


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脚はクチナシの実に似ているため、「勝負に口を出すな」という意味があるといわれています。

裏に彫られている「血溜まり」。
「口を出したら首を切り、ここに血を溜める」とか・・・。

日本将棋連盟には「名人駒」と呼ばれる駒、そして、「盤」が残されています。名だたる棋士たちが名勝負を演じた駒です。

その名人駒と盤の指し味、そして駒音を確かめるのは、女流名人の矢内理絵子さんです。

矢内さん 「将棋盤も木でできていて、駒も木でできていて、そういった自然のもので。ハーモニーっていうものなので、何か聞いていると落ち着くというか、やっぱりこの音がしないと将棋じゃないよね、っていう感じが、私としてはします。」

女流名人の駒さばき。
ツゲの駒とカヤの盤が放つ、澄んだ駒音が響きます。

最後のツボは、「盤上の澄んだ音を楽しむ」

 

プロ棋士による「竜王戦」の対局場。前の日には、必ず対局者同士が立ち会って、勝負に使う盤と駒を選びます。
手のなじみ具合、そして、何より駒音の響き具合。棋士たちは、駒の指し味を入念に確かめます。

翌日の対局です。
駒音の響きが、張り詰めた緊張の時を演出します。

東京・両国にある盤の専門店です。盤を作る職人を「盤師」と呼びます。

4代目の前沢道雄さんは、加工前に必ず「駒音」を確かめます。

前沢さん 「盤の大事な要素の一つなんですよね。見た目に良くて音がいいという。その音の感覚の中にも、四隅どこを打っても、この天井面どこを打っても同じような感覚であるということが大事ですから。」

音の良し悪しが、盤の価値を決めます。
そして、「盤師」が引く緊張感のある81の升目。
漆をヘラでこすり付け、線を引く江戸職人伝統の「ヘラ目盛り」と呼ばれる技。木の塊は、次第に神聖な「盤」に変貌していきます。

 

将棋盤。
それは、一つの小さな宇宙です。勝負の時、「駒」は81マスの宇宙で踊り、澄んだ音のハーモニーを奏でるのです。

 

今週の音楽

 

曲名
アーティスト名
Honeysuckle rose Count Basie
Don't ever leave me Keith Jarrett
The twitch Duke Ellington
Judyful Curtis Fuller
無伴奏チェロ組曲 Courant Ron Carter
Jumpin' at the woodside Super Trombone
Misty Eroll Garner
Up in Cynthia's room Horace Parlan Quintet
Willow weep for me Ron Carter
Stolen moments Oliver Nelson
Come rain or come shine Bill Evans
Cantaloupe island Hervie Hancock
Stardust Clifford Brown
It's only a paper moon Nat King Cole