東京・表参道にあるアンティークキモノショップ。 大正浪漫の香りが漂うレトロな着物を現代風に楽しみたいと若い女性たちに人気です。 その着こなしやおしゃれのお手本となっているのが、夢二の美人画なんです。
すらりとした手足にしなやかな体。そこはかとなくにじむ女性の色香。 夢二の描く女性は大正時代、「夢二式美人」と呼ばれ、大変な人気を博しました。
まずは竹久夢二がどんな画家だったのかみてみましょう。 岡山県邑久町に残る夢二の生家。夢二は、明治17年、造り酒屋の次男坊として生まれました。幼い頃から絵が得意で17歳の時に上京。 新聞や雑誌の挿絵で活躍し、情緒溢れる美人画で、たちまち流行画家へとのぼりつめました。
夢二の創作の源。それは、彼が愛した女性たちです。年上の女性、画学生、モデル。夢二式美人は愛の遍歴から生まれたものでした。
女性をどう描けば美しく見えるのか、夢二は彼女たちにさまざまなポーズを取らせました。可愛らしさ、奥ゆかしさ、艶やかさ。しぐさやポーズが女性独特の美しさを醸し出します。 「夢二の美人画」、鑑賞の最初のツボは『しぐさに女性美を見よ』
夢二の美人画は、今も、多くの女性たちの心を捉えて放しません。
日光で旅館の女将をしている臼井静枝さんもその一人です。臼井さんが26歳の時、初めて出会ったという夢二の作品です。 お盆の灯籠流しを見送る女性と子ども。亡き人への想いがさびしげな後ろ姿に滲んでいます。
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臼井さん 「日本の女性のすべてがこの後ろ姿の肩の線に見えたんですね。喜びも悲しみも苦しみも全部あの女性の肩の線に出ているように見えるんですね」
後ろ姿や何かにもたれかかる姿などさりげないポーズに女性の美しさを見出した夢二の美人画。実は、これらには共通する描き方があります。 それがS字曲線。どの女性もゆるやかなS字のラインで描かれているのです。 本来キモノは洋服よりも体の線が分かりにくいもの。そこで夢二はS字のポーズをとらせて、しなやかな線を表現したのです。
さらに夢二がこだわったのが手のしぐさなんです。バラエティーに富んだ手の表情は何を語りかけているのでしょうか?
女性たちに美しいしぐさや表情をアドバイスするビューティープランナーの長坂靖子さん。夢二の絵を見てもらいました。 長坂さん 「たとえば、開くと元気の良い感じになる。手を窄めると女性らしくなる。 同じ笑う表情でも手のしぐさでちょっと違いますよね。彼の絵を拝見しますと顔の表情はないのに、しぐさやポージングでその女性像が分かりやすくなっている」
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夢二式美人の見所、続いては「お洒落」です。 夢二が活躍した大正時代。大正デモクラシーの波に乗って平和で自由な空気が生まれました。女性たちのお洒落にもそんな開放的な雰囲気が溢れています。 当時の婦人向けファッション雑誌。その表紙を飾ったのが夢二の美人画でした。夢二が表紙を描くと飛ぶように売れたといいます。粋でモダンな夢二式美人を皆こぞって見習おうとしました。
クリックで拡大表示 夢二郷土美術館 蔵
今日、二つ目のツボは「夢二流お洒落術を楽しめ」
まずはコーディネートから・・・渋い縞のキモノに鮮やかな赤の模様を施した帯の組み合わせ。シックでありながらモダンさを感じさせます。
続いて、夢二流の着こなし方を見てみましょう。 夢二の着つけは女性がやさしく楽な姿勢でいられるのが基本です。帯や紐も窮屈な着方はしません。襟元からほのみえる肌。夢二ならではの女性らしさは、このゆるやかな着こなしから生まれるのです。 夢二に魅せられ夢二に関する著作も多い作家の近藤富枝さん。夢二らしさの秘密を教えて頂きました。
近藤さん 「夢二の絵をみますとね、このおはしょりの腰ひもがちょこっと出ているんですね。これがなんとも言えず愛らしいです」 キモノを折り込む、いわゆる、「おはしょり」のための腰紐。普通人前で見せないこの紐をちらりと見せるのが夢二流。夢二の美人画をよく見ると、ほらこの通り。ひもがちらり、ちらり。
隙もないきりっとした着こなしより、隙のある着崩れた佇まいの方が可愛らしい。 それが夢二の美学です。
夢二流お洒落術、最後は夢二オリジナルデザインの着物をご覧下さい。 雪の降る夜の街。電柱と電線が描かれているのが分かりますか? 大胆でモダンなデザインです。
夢二の字も味わいがあります。左は、自作の短歌。右は、それを自ら絵にしたもの。 『青麦の青きをわけてはるばると逢いに来る子とおもへば哀し』 書と絵が融合し、女性らしい艶やかさを引き立てています。
夢二式美人。最後は、色づかいです。
まずは、こちらをごらんいただきましょう。夢二の最高傑作といわれる『黒船屋』。 縞模様の鮮やかな黄色い着物をまとい、真っ黒な猫を抱いた女性。 その肌は、ハッとするほど白く輝いています。
木暮さん 「絵画に使われている色、それは音楽に使う音と同じように私たちの目から入って見る人に心地よく伝わってくる。白と黒についても黒白のリピートがものすごく効果的に全体を引き締めている。絵は、色と形で描かれた音楽。目で見る音楽と私は思っています。」
すべての色彩が巧みに響きあう画面。それはまさに色が織りなすメロディ。 夢二の美人画鑑賞最後のツボは『配色の妙を見よ』
豊かな色彩の才能を持っていた夢二は雑貨屋を開き、みずからデザインした絵はがきや封筒などを売っていました。こちらは夢二オリジナルの千代紙。 花柄や幾何学模様が斬新な色の組み合わせで表されています。 美しく可愛らしい千代紙は、当時、若い女性たちに大人気でした。
乙女心を惹きつける夢二の色づかい。その秘密を解き明かしてくれるのは、この方です。色彩研究のスペシャリスト、内田広由紀さん。
内田さん 「夢二の色を分析してみますと、かなり完璧なんですね。それは、夢二の色彩家としての天性なんだと思います。」
夢二の色づかいには、原色より少し明るい色が多く使われていると内田さんは分析しています。こうした色は、現代の色彩心理学で注目されている色なのです。
内田さん 「強い色は威圧的できつい。それに対して明るい色は優しい気持ちになります。優しいけども元気がある。女の人にすごく好まれる色。」
強すぎず、ちょっと控えめな優しい色を好んだ夢二は、こんなところにもこだわりを見せています。それは、配色。
まず黄色に注目して下さい。黄色は、髪飾り、着物、画帖に使われています。
次は赤。使われているのは口紅、帯、下駄の鼻緒です。
そして緑は、木の葉、帯紐、画帖に挟んだしおりに使われています。夢二の色の配置は、まるで音楽のようにリズミカルに繰り返されています。
優しく元気な色で音楽のようなメロディーを奏でる。ここに夢二の色づかいの優れた味わいがあるのです。
女性のさりげないしぐさやお洒落、それを美しく描きたいと願い続けた竹久夢二。 美人画には夢二のそんな想いが込められています。
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