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File7 瓦屋根

 

壱のツボ まだらに悠久の時をしのべ

日本の建物の「あたま」を飾ってきた「瓦屋根」。 家を雨風から守るのはもちろん、伝統的な日本の美しい屋並みを作り上げてきました。

瓦は、土地の気候や風土とともに発展してきました。日本海に面した島根県江津市は、釉薬をかけた赤い石州瓦で知られています。山陰地方の寒い冬でも凍結することがない、丈夫な瓦です。

古い商家が軒を連ねる、滋賀県近江八幡。
琵琶湖のきめ細かい土を使った「八幡瓦」は、美しい光沢が豪商たちに好まれました。

それではここで、瓦の歴史をひもといてみましょう。
         
瓦に関する最初の記録は、日本で最も古い歴史書「日本書紀」の中にあります。

崇峻(すしゅん)天皇元年、西暦588年、4人の瓦博士が 寺院を作るため、朝鮮半島の百済から遣わされたと記されています。


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瓦博士は、瓦を成形する技術、 高温で焼き上げる技術、 そして、瓦を規則正しく屋根に 葺く技術を日本にもたらしました。その瓦博士が作った瓦が、なんと今も 使われています。

奈良市内にある「元興寺」の屋根。赤くみえるのが日本最古の瓦です。

瓦屋根は、百年ほどで葺きかえられ ますが、傷みの少ないものは、 そのまま残されます。 最古の瓦は、千四百年もの間、 建物を守り続けてきたのです。

奈良時代以降、瓦は、お寺や城などに使われてきました。 民家に使われるようになったのは、 江戸時代の中頃です。

幕府は、度重なる大火から町を守る ため、板葺きをやめて、瓦葺きにするよう奨励しました。 そうして日本各地に 瓦屋根は広まったのです。

ツボがわかる最高の場所を お見せしましょう。

ここは奈良 東大寺の法華堂。

天平時代に建てられ、屋根は幾たびも 葺き直されてきました。 ここには、天平から現代まで 様々な時代の瓦が並んでいます。

 

それぞれの時代によって、微妙に色が異なり、 屋根全体がまだら模様に見えます。

瓦屋根鑑賞、壱のツボ  「まだらに悠久の時をしのべ」


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瓦職人の山本清一さんは、34年前、 法華堂の瓦を葺き直しました。

 

その質問にお答えする前に、瓦の作り方から説明しましょう。

粘土の素地を 千百度の 高温で、焼きしめます。この時、すすを吹き付けて、銀色にするのがポイントです。 いわゆるいぶし瓦です。表面は、100分の1ミリの 薄い炭素の膜で覆われています。

この膜は、水をはじき 雨を防ぎます。実はこの膜が、酸化したり、はがれたりすることで瓦の色が 変化するのです。かつて瓦は、松の木の煙で 燻されました。

 

手作業で、良質の瓦を作るには、高い技が必要とされました。

良いいぶし瓦は、 膜がはがれても、炭素が中まで しみこんでいるため、長持ちします。そして時を経るごとに深い色へと 変わっていくのです。

瓦屋根のまだらの美が楽しめる とっておきの場所に ご案内しましょう。

奈良の新薬師寺です。奈良時代の瓦が今でも5百枚ほど 残っています。 その後、鎌倉・室町・江戸そして 昭和にいたるまで、、、まだら模様の瓦屋根は、悠久の時が 生み出した日本の美なのです。

 

弐のツボ 反りの曲線を味わえ

奈良、霊山寺(りょうせんじ)。 瓦が曲線を描いています。

こうした反りが生まれたのは 鎌倉時代。 武士の時代に入って、建築にも 勇壮な姿が好まれるように なったのです。

瓦屋根鑑賞、二つ目の壺は、 「反りの曲線を味わえ」


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京都、東本願寺。今、御影堂の 屋根が、百年ぶりに葺き替えられています。

 

御影堂の屋根には、12万枚もの瓦が 用いられます。主に使われるのは、四角い平瓦。こちらは、半円筒形の丸瓦。 これが屋根の反りを生み出します。

もともと木の下地は直線的に 作られます。
積み上げただけでは、それ程、 大きな反りは出ません。 その上に漆喰を塗り、 丸瓦をのせることで、 反りが生まれるのです。

御影堂の試し葺きが行われました。まず、平瓦を並べます。

間に漆喰を置いていきます。 これがそりを作るベースと なります。漆喰の上に丸瓦を角度をつけながら 置いていきます。最後に金槌で叩き、微妙な角度を調整します。

長年培った職人の勘。反りの美しさは、 職人たちの技によって 支えられているのです。

今年3月に瓦を葺きなおしたばかりの 東京池上本門寺。およそ6万3千枚の瓦が使われまし た。

屋根の勾配は、35度。 一枚、一枚、微妙な高さを 調節して作り出されました。10人の職人が、半年をかけて 作りあげた曲線美です。

参のツボ 飾り瓦にこめた願いを探れ

最後は飾り瓦に注目です。 屋根を見上げると細工や模様をを施した瓦に気づきませんか。

これを「飾り瓦」といいます。

「飾り瓦」の中で最も有名なものが、屋根の一番高いところに飾られている、こちら、そう、鬼瓦です。

恐ろしい顔の鬼瓦は、 魔よけとして飾られてきました。しかし家が密集する町中では、 「鬼を隣に向けるのは申し訳ない」と鬼瓦は敬遠されました。その代わりに、小さな人形が置かれ ました。

中国の鬼退治の神様、鍾馗(しょうき)さん。これも飾り瓦の一つです。

飾り瓦を作り続けて50年になる 小林章男さん。特に鬼瓦を 得意とし、「鬼師」とも 呼ばれています。
小林さんは、全国各地の飾り瓦を見て歩き、その歴史を研究してきました。


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小林さんは、飾り瓦にはその建物に 住む人々の様々な願いが こめられていると言います。

瓦屋根鑑賞、最後のツボは、 「飾り瓦にこめた願いを探れ」

 

これは7世紀の末、飛鳥のお寺で 使れていた最も初期の飾り瓦です。

蓮の花は、お釈迦さまの象徴。日本に仏教を広めたいという 願いがこめられています。飾り瓦に鬼が現れるのは、全国に戦乱が広がった南北朝時代のことです。

これは、興福寺の鬼瓦。
鋭い角、睨みつける眼。 怖い顔は、戦乱の世に満ちた 邪気を払うためだと小林さんはいいます。

一方、唐招提寺の鬼には、 えくぼがあります。平和を願ったのでしょうか。


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同じ時代の鬼瓦には額に仏の智慧の 象徴である宝珠がついたものも あります。仏の智慧で救ってもらいたいという 願いの表れです。

 

江戸時代に入り、民家にも瓦が 普及すると、人々は様々な飾り瓦を 置くようになります。


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さて、ここでクイズです。
瓦に書かれた「水」の文字 どういう思いがこめられいるか わかりますか?

 

火事から建物を 守ってほしいという思いをこめて、 水の文字をいれたんです。

 


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では、次の問題です。
お城などに飾られるシャチは、 何を願ったのでしょう?

 

シャチは水を はいて、火を消し止める神様。 これも、火除けの願いが こめられています。

他にも商家の軒先には、 商売繁盛の神様である恵比寿さま。こちらには家紋と一緒に鶴と亀が飾られています。

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つるは千年、かめは万年。
家が絶えることなく、 子孫繁栄しますように。瓦屋根には、その下に集う人々 の願いが、美しいかざりとなって 置かれているのです。


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甍が波のように連なる日本の 美しい風景。
瓦屋根はいくつもの家族の幸せを 今も見守っています。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Gone with the wind Stan Getz
Down fuzz Lem Winchester with Benny Golson
Night and day Frank Sinatra
Stan's mood Stan Getz
Isotope Joe Henderson
Rockin' chair Fats Waller
I want to talk about you Akiko Grace & George Garzone
Qualtet#2 pt.1 Super Trio
T.J.S Blues The Don Randy Trio
Here's that rainy day Tommy Flanagan
West 42nd st. John Coltrane
Night and day Joe Henderson
Pavane Steve Kuhn Trio
Four Brothers Brian Bromberg
Night and day Francois Rabbath
Just in time Oscar Peterson