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時速140キロ超でも“過失運転”「納得できる法改正を」

  • 2023年12月27日

まもなく年が変わろうという平成30年の暮れ。
津市の国道で、時速およそ146キロの猛スピードで走ってきた乗用車がタクシーに衝突し、乗客と運転手のあわせて4人が死亡しました。
その刑事裁判で被告に言い渡されたのは“過失運転”致死傷の罪。
「“危険運転”致死傷ではないのか?」
事故からまもなく5年。事故で息子を亡くした母親が、初めて講演に立ち、納得できる法改正を訴えました。
(津放送局 伊藤憲哉)

危険運転か過失運転か 納得できない裁判

「いまでも、お正月が近づいてくると、気分が落ち込むし、胸のもやもやは消えていません。」

こう話すのは、息子の朗さんを交通事故で亡くした母親の大西まゆみさんです。

平成30年12月29日、雪交じりの雨が降る日でした。
午後10時前。
津市の国道23号線で、猛スピードで走っていた乗用車がタクシーに衝突する事故が起きました。
この事故で息子の朗さんを含むタクシーの乗客と運転手の合わせて4人が死亡し、1人が大けがを負いました。
そのとき、乗用車は、およそ146キロの猛スピードで走行していて、運転手は制御できない速さで走行し事故を起こしたとして危険運転致死傷の罪で逮捕・起訴されました。

ところが、およそ1年半後にむかえた刑事裁判では、適用する刑をめぐって争われることになります。

「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」どちらを適用するか。
「危険運転致死傷罪」は制御困難な高速度などで走行し、人を死傷させた場合に適用され、刑の上限は懲役20年です。
一方、「過失運転致死傷」は、注意が不十分で、人を死傷させた場合に適用され、上限は懲役7年です。
この2つの刑の重さに大きな開きがあります。

1審の津地方裁判所の判決では「制御困難な高速度で運転していたことは認められるが、被告がその危険性を具体的に思い描いていたとは言えない」として、危険運転致死傷の罪ではなく、過失運転致死傷の罪を適用しました。被告に言い渡されたのは懲役7年。
この判決に、検察側と弁護側の双方が控訴し、2審の名古屋高等裁判所でも争われることになりましたが、1審と同じ過失運転致死傷の罪が適用され、懲役7年が言い渡されました。
この判決は朗さんの両親にとって到底、受け入れられないものでした。
判決直後の記者会見で、憤りをにじませていました。

朗さんの父親の正晃さん(判決直後)
「危険運転致死傷の罪を認めないという判決で、私たちにとって最悪の結果です。悔しい。」
朗さんの母親のまゆみさん(判決直後)
「判決は常識的に考えれば被告の運転は危険であるが、危険運転は適用できないというもので、納得できない。それしかなくてこのままでは絶対終わりたくない。」

最高裁判所に上告してほしいと検察に懇願した大西さん。しかし、検察からは「法律のつきどころがない」と言われ、頭を下げられたといいます。こうして、上告を断念しました。結果的に乗用車の運転手は過失運転致死傷の罪で、懲役7年の刑が確定しました。

この判決のあと、100キロを超えるような猛スピードで事故を起こしたものの危険運転致死傷の罪ではなく、過失運転致死傷の罪が適用される判決は、全国で相次いでいます。

「2度と自分たちのようなつらい思いをする人を出したくない。」
大西さんは、初めて公の場で当時の思いや法改正の必要性を訴えることにしました。

曖昧な「危険運転致死傷罪」の法改正望む

大西まゆみさん
「息子の朗は名前の通り、朗らかで優しい子でした。生きていれば、これからの長い人生描いていた夢も希望もいっぱいあったと思います。その夢や希望はこの事故で無残にも打ち砕かれました。」

こう話す大西さん。
「過失運転致死傷」の罪が適用される現在の法律に納得できない思いを語りました。

大西まゆみさん
「『過失』ということばは“うっかり”という意味ですが、判決は146キロのスピードで“うっかり”運転していて4人殺しましたというものでした。判決当時、私は当然、危険運転致死傷罪が適用されると思っていたので、信じられませんでした。ただでさえ、息子を突然、亡くして気が動転する思いでしたが、法律によって2度殺された思いです。危険運転致死傷罪を誰もが納得できる法律に改正されるまでこれからも戦っていきます。」

そして、最後に、会場に集まったおよそ70人にこのように呼びかけました。

大西まゆみさん
「まさか私が交通事件の遺族になるとは思っていませんでした。誰がいつ被害者になるかわかりません。息子の朗の交通事件を我がごとと考えてもらって誰もが安心して車を運転できる社会になってほしい。」

講演の途中には涙ぐむ人の姿も見られ、大西さんのことばはしっかりと届いていたようです。

講演を聴いた70代男性
「被害者にとってみればこの判決はあってはならない。もう少し刑を重くすることが正解かどうかわかりませんが見直すべきではないかと思います。」
講演を聴いた18歳高校生
「今まで自分が被害者になることを考えたこともなかったですが、誰にでも被害者になる可能性があることを知りました。そして、私は大学で法学部に進むので、改めて自分にできることはなんだろうと考えさせられました。」

初めての講演を終えた大西さん。
実は、人前で話すのが得意ではなく、緊張したといいます。それでも、勇気を持って一歩歩みだした理由は、「息子の朗の死を無駄にしない」ためです。

大西まゆみさん
「危険なものを危険と裁けない法律なので、危険運転致死傷罪をもっと市民感情にそった常識的な法律に変えていきたい。そういう思いです。」

大西さんは、今後、同じような裁判の支援を行ったり、講演会をしたりして、法律の改正を求めていきたいとしています。

  • 伊藤憲哉

    NHK津放送局 記者

    伊藤憲哉

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