2021年07月01日 (木)"ひきこもっていてもいい"コロナ禍に必要なひきこもり支援とは

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「20年以上通院し、投薬治療をしていますが、ほぼひきこもり状態が続いています」

 

「他人と話すことに恐怖すら感じる」

 

20年以上の長期にわたってひきこもる男性から、NHK津放送局に寄せられた1通のメッセージです。

 

深刻化するひきこもりの長期化に加え、コロナ禍によってひきこもる人たちを取り巻く状況も変わってきているといいます。

 

いま、ひきこもりに求められる支援とは何か、考えてみます。

 

(津放送局 鈴木壮一郎)

 

「ただただ、年を取っただけ…」

 

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「何やったんやろうな、自分の人生。ただただ、年(とし)を取ったというだけですね…」

 

何度かメールでやりとりを重ねたあとの電話で、その男性は声を絞り出すようにして話をしてくれました。

 

20年以上にわたって、ひきこもり状態にあること。

 

当時の仕事を辞めてから、“時間が止まってしまった”という感覚にとらわれること。

 

40代後半にさしかかった頃から、“どこで足を踏み外したんだろう”という自問を繰り返すようになったこと。

 

言葉を選びつつも、質問に対する答えはとても明確でした。

 

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ひきこもりの人はコミュニケーションが苦手な人が多いというイメージを勝手にもっていたのですが、男性の口調からはそのような印象は受けませんでした。

 

ただ、自身のひきこもりが長期化していることに話が及ぶと、男性は少しだけゆっくりとした口調になって、次のように話してくれました。

 

「『同級生に子どもが生まれ、その子どもが独立した』という話を聞くと、自分はいまだに“親の子ども”から脱出できず、独立すらできてないことに、(自分は)異常な生活を送っていると感じたりする。ひきこもる時間が長くなればなるほど、自分に自信がなくなってきている」

 

そして、自分の人生について、「ただただ、年を取っただけ」と振り返ったのです。

 

県内の“ひきこもり”1万6000人

 

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三重県内におよそ1万6000人。

 

これは、県内にいると推計されている、ひきこもっている人の数です。

 

基となるのは、2016年と2018年にそれぞれ内閣府が行った調査。

 

それによると、15歳から39歳では54万人余り、40歳から64歳では61万人余りがひきこもり状態にある(※1)と推計されています。

 

これを、単純に三重県民の人口に置き換えると、県内に1万6000人がいると推計されるのです。

 

(※1:自室からほとんど出なかったり、趣味の用事のときだけ外出したりする状態が6か月以上続いている人)

 

“長期化”“高年齢化”が課題

 

姿が見えづらくなりがちなひきこもりの人たち。

 

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今回、三重県が実態調査を行い、ひきこもりの長期化が深刻となりつつある現状が明らかになってきました。

 

三重県では、ことし1月から2月にかけて、調査を実施。

 

県内の相談支援機関に対し「原則的に6か月以上にわたって家庭にとどまり続けている状態」の360のケースについて回答を得ました。

 

その調査結果です。

 

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ひきこもっている「期間」について尋ねた質問では、5年以上の人が全体の55.1%と半数を超え、さらに20年以上の人は全体の17.3%に上るという「長期化」の実態が浮かび上がっています。

 

また、ひきこもっている人の「年代」では、最も多いのが30代の28.9%、50代が20.6%と続きます。30代以上が全体の72%を占めることに。

 

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全国的にも「ひきこもりの高年齢化」が指摘される中、三重県でも同様の傾向にあることが明らかになってきたのです。


鍵となるのは“家族の理解”

 

長期化や高年齢化が進む当事者をどのように支援していったらよいのか。

 

「家族の理解が、立ち直りに向けた鍵になる」と話すのは、2015年から津市でひきこもる人の家族が集まる会を主催している、みえオレンジの会の堀部尚之さんです。

 

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自身の息子も長くひきこもり状態にあったという堀部さん。

 

かつては、「息子がひきこもっている状態」が理解できなかったと言いますが、自身の反省も込めて、親の理解が最も重要だと言います。

 

「ひきこもりが長引く原因は、『親が諦めてしまった』場合が一番大きい。家庭内でおとなしくしているから放置してしまったり、周りの人にひきこもる家族のことを内緒にしてしまったり、親がひきこもる子どものことを諦めてしまったら、“8050”(※2)まで行ってしまう」

 

そのうえで、堀部さんは、ひきこもっている子どもやきょうだいなどの家族との接し方について、次のようなヒントを教えてくれました。

 

「彼らが望んでいるのは、とにかく『まずわかって欲しい、僕のつらさをわかってほしい』ということです。そこがスタートになる。彼らが社会に出て行く勇気をいかに醸成させるかが重要になる」

 

(※2:「8050」「8050問題」、80代の親と50代の“ひきこもり”の子が孤立する状態のことを指す言葉)

 

立ち直りかけても…コロナ禍の壁

 

堀部さんに話を伺った日は、家族会が開かれた日でした。

 

この日、テーマとなったのは、「コロナ禍で困っていること」について。

 

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参加した家族からは、当事者会や支援団体など、社会につながり始めたところで新型コロナウイルスが拡大してしまい、つながりが途絶えてしまったことを心配する声が相次いで聞かれました。

 

「ちょっと興味のある社会参加があったが、コロナ禍になってしまい、年配の親を心配して『コロナを持って帰ったらいけないからことしは見送る』と」

 

「十何年ぶりに行きたいと思っていた家族旅行が行けなくなった」

 

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「たかが家族旅行」と思う方もいるかもしれませんが、長年ひきこもっている子を持つ家族にとって、「家族で旅行に出かける」というのは紛れもない大きな一歩です。

 

せっかく動き出した、そのときに、むしろ「外に出ないこと」を奨励される世の中になってしまった。

 

大切な一歩一歩にも関わらず、コロナ禍が大きな壁となってしまっているのです。

 

ひきこもっている人たちの状況がますます見えづらくなってしまっている今、求められる支援とは何でしょうか。

 

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堀部さんは、「押しかけるのはダメ」としながらも、積極的にアプローチを試みる、いわゆる「アウトリーチ型支援」が今まで以上に重要になると教えてくれました。

 

「コロナ禍でもできるのは、当事者に電話をすることや、LINEで話をすること、またはZoomで話をすることや葉書を届けることです。本人が望まないのに、押しかけてもダメなので、まずは葉書を出したり、『LINEで話しましょうか』ということからのスタートではないか」


「ひきこもる権利は当然ある」

 

取材の最後、堀部さんは「ひきこもる権利」について、教えてくれました。

 

「誰にでも『ひきこもる権利』というのは当然あると思う。つらいときは思い切ってそこから逃げる。健全に逃げるということが大事です。家族も『そんなにつらいなら、一旦ストレスから逃げようよ。また勇気が出てくるまでじっとしていようよ』と受け入れることです。

 

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「ただ、それは勇気が出てくるまでであって、家族は勇気を醸成させないといけない。そのために『つらさ』を共有することが大事になる。家族が白い目で見ることが一番ダメなんです」


人と人のつながりが今まで以上に途絶えてしまいがちな今だからこそ、一番身近な「家族」の存在が大切になること。

 

それに、それぞれが抱える生きづらさに寄り添うことの大切さを、堀部さんは教えてくれました。

 

 

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鈴木壮一郎

2008年入局 初任地は津局 

去年9月から7年ぶりの津局勤務

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:19:30


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