2021年07月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:洗う

天 犬洗う時の優しい妻の声/西井茜雲さん

丹川修先生 世はまさにペットブームである。コロナ禍の今、ペットに癒やされながら自粛生活を余儀なくされている人も多いと思う。そして今日は愛犬の体を洗ってやる日である。「○○ちゃん、きれいにしましょうね。はーい、おててを上げてくださーい。気持ち良いわね」などと日頃、聞いたことないほど優しい声で、洗ってやっている妻。平和な光景と共に、ご主人は少しヤキモチをやいているようにもとれる。「犬洗う時」の『時』がやや堅苦しいともとれなくはないが、『その時は』との限定がより強調されていると評価した。

 

地 ご先祖にぼやいて妻は墓洗う/やんちゃんさん

丹川修先生 日頃からため込んだ色々な愚痴を「まあ、おばあちゃん聞いて下さいな」などと語りかけながら墓を洗っている様子が見える。ご主人の事なのか、子供たちの事なのか、いずれにせよご先祖様と心通わせている証と言える。おそらく愚痴だけではなく、良いことも報告されたことだろう。日本人ならではのお盆にふさわしい句でもあり、どこかほのぼのとした気持ちになる。

 

人 さくらんぼ洗う褒美にひとつだけ/糖質無制限さん

丹川修先生 皆にサクランボを食べさせようと、丁寧に洗い終えたところで、その褒美に食卓へ出す前に、内緒でつまみ喰いをしようとしている作者。下5の「ひとつだけ」から、作者の人柄がうかがえる。一番美味しそうなものを選んだのか、それとも少し青みが残ったものだったのか、そんなことまで想像をしてみると、何とも楽しい句である。

 

<入選>

スニーカー洗って目指す新天地/汐海 岬さん

カーテンを洗えば近く見える富士/富田さよ子さん

晩酌ですっきり今日の悔い洗う/よっちゃんさん

悲喜こもごも放り込んでる洗濯機/松ぽっくりさん

幼子の一枚の絵が目を洗う/安田蝸牛さん

おはじきは波が洗った石や貝/谷てる子さん

腹の虫洗い流して友帰る/水谷裕子さん

満月を洗ってるのは宇宙人/コドンさん

子の帰省洗濯物が先に着く/颯爽さん

洗車するあたかも許し乞うように/橙葉さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 時節柄、手指を洗う、コロナ、ウイルスを洗い流すなどの句がかなりたくさんありましたが、長引くコロナ禍は、作者の皆さんの日常に重くのしかかっている事を痛感させられます。また、脳や内臓を洗いたいなどの句も相当数ありました。しかし、多数の同想句の中から限定した句を見出すことは容易ではありませんでした。そんな中にあり、少しでも明るく、楽しい句を採らせて頂きました。作句の心構えとして、やはり推敲(すいこう)が一番大切であることは、言うまでもありません。何度も口に出してみて推敲を重ねるうちに、自分でもストンと心の奥に落ち着く形に出会えることがあるはずです。多数のご投句ありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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