2019年09月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:空(そら)

天 旅人の手に触れそうな天の川/水たまりさん

吉崎先生 「自分の手」ではなくて、「旅人の手に」と詠んだのが良かった。旅人とあることから、ここは当然旅先で、空気も澄み切っていて、満天の星が降っている場所だということが分かる。旅人はあちこち旅をしてきた。そして美しい星空も何度も眺めてきたけど、こんなに、手に触れそうなほど近い天の川を観()たのは初めてだったのだ。その感動が読みとれる作品。その旅人に自分の想(おも)いを託しているようにも思われる。人は皆、人生の旅人なのだ。これから先も天の川に触れるような良いことがあればいい。「旅人」と「天の川」の取り合わせも良かった。

 

地 噴水の空へ一途な片想い/福村まことさん

吉崎先生 自分の想(おも)いを噴水に託して詠んでいる。一途(いちず)に想い続けているのに相手には届かない。噴水も、空に恋しているのか憧れているのか、訴えたいことがあるのか、一途に空に向かってジャンプしている。その意味では間欠泉でもいいようだが、我々の生活空間にある噴水の方が身近でいい。何度トライしても届かない。その様子はまるで若き日の自分のようだ。噴水の単なる擬人化というより、噴水を作者の化身として詠んでいるようにも思える。届きそうで届かない恋心を詠んだ句だと解釈するほうが楽しい。

 

人 空と海眺めて終わる初デート/汐海 岬さん

吉崎先生 初々しさが伝わってくる。「空と海」は対義語である。課題詠の場合、課題の言葉との対義語を同じ扱いで詠むと、課題を半分しか消化していないと解される。だから「空ばかり」とすれば問題はないのだが、「空と海」で駄目なわけではない。空が少し弱くなるのは確かだが、ちゃんと空を先にして海を付け足す形にしてある。空があくまで主で海は従なのだ。空を見れば雲も海も当然眺めるだろう。リアリティが増す。建設的なことも話せずに終わった初デートのあっけなさ、ちょっと後悔している気持ちが充分(じゅうぶん)伝わってくる。

 

<入選>

いつの日か宇宙人にも会える空/オジギソウさん

アトラスよそろそろ腕も痺れるか/夜半亭あぶらー虫さん

窓枠を額縁にして夕焼ける/麦乃さん

妻の留守空の広さに気付かされ/安田蝸牛さん

寝て起きて食べて日本の空の下/ジンルージャさん

夕焼けを追いかけてゆく三輪車/ホッと射てさん

日暮れまで空が見守る滑り台/大澤 葵さん

運動会空模様だけ決まらない/みえさん

空ばかり見ている五限目の授業/アラレさん

青春の空8Kで記憶する/橙葉さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「空」は(から)とも(くう)とも読めますが、お題としては「空(そら)」と読み方も表示してありました。その表示が無ければ「空っぽ」や「空振り」、「空虚」でも良かったのですが、「お題の意味は一つであるべき」が原則です。「空そのもの」で詠まれるべきです。また、「上(うわ)の空」も多くありましたが、句意はどれも「心ここにあらず」の「上の空」でした。題意からは外れます。これらは恐縮ですが選外とさせていただきました。
 「空(そら)」はいつでもどこでも、我々の上空にあるだけに、川柳には既に無数に詠まれています。このようなお題なら、細かいところ、微妙なところを探して、誰も詠んだことのない空を詠まれると入選が近くなるでしょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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