2018年07月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:声

天 声援を沢山受けている背中/やんちゃんさん

吉崎先生 一見、なんということもない川柳だが、「沢山」が効いている。欲を言えば、「受けている」が漢字だから、「たくさん」と平仮名で書いてほしかった。この句を読むと、いろいろな場面が浮かんでくる。家中(いえじゅう)の声援を受ける1年生の背中、グラウンドの球児の背中、仕事場に向かう背中、台所の背中、はたまた、手術室に向かう大切な家族の背中、読む人ごとに思い浮かべる背中があるだろう。
 この「たくさん」には、応援する沢山の人たちの気持ち、人生の局面で励ましてくれた多くの言葉を想像することができる。それらに感謝する背中まで読みとれる。

 

地 デシベルで声測られる保育園/颯爽さん

吉崎先生 デシベルで測るということは、園児の遊ぶ声や歌う声も、工事や飛行機の音と同じ騒音として扱われるということ。昔はこんなことはなかった。子どもは国や社会の宝と言われてきた。子どもが元気で遊ぶ声は、むしろ耳に心地よい音だったと思う。図書館や待合室などで騒ぐ子をたしなめるのは必要だが、園児の声が騒音に聞こえるということは、大人に包容力がなくなってきたということかも知れない。
 この句は、「だからどうだ」とは一言(ひとこと)も言っていない。ただ「デシベルで測られる」と言っているだけ。思いを述べなくても作者の思いは伝わってくる。

 

人 補聴器が孫の悩みを聞いている/よしじろうさん

吉崎先生 「補聴器をつけて」ではなく、「補聴器が」としたところが良かった。補聴器はもちろん、お爺(じい)さんかお婆(ばあ)さんのことだが、「補聴器が~聞いている」としたことで、耳は遠くなったが、孫の悩みを真剣に聞きとろうとしている、お爺さんかお婆さんの姿と愛情が伝わってくる。作者がお婆さんなら、補聴器を付けて悩みを聞いてやっているのはお爺さんということになる。もちろん逆でもいい。
 川柳はたった17音字の文芸だから、省略できるところは上手に省略しなければいけない。省略することによって、この句のように句意が強調されることもある。

 

<入選>

炎天下しんどいなあとアリの声/デコやんさん

ニンゲンに地球の声が届かない/加藤当白さん

カーナビの声に洗脳されている/比呂ちゃんさん

大声で吠えても出ない探し物/ほのぼのさん

歌ってもエコーかからぬ露天風呂/アラレさん

俺だ俺だと三千グラムの声/橙葉さん

遠い日の妻は鈴振るような声/汐海 岬さん

お隣へつつぬけ妻の笑い声/すずっぽちゃんさん

守秘義務を忘れてしまう甘い声/草かんむりさん

溜め息も声にならない声である/春爺さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「声」というお題では、これまで多くの川柳が詠まれてきました。声には、直接、耳で聞きとる「声」と、意見とか発言という意味の「声」があります。入選句の中では、たまたま前者の声が多かったようですが、もちろん、後者の声でもけっこうです。
 大切なことは、言葉を飾ることではなく、声というテーマでどんどん掘り下げてみることです。何かを見つけたら、その「こと」をなるべくシンプルに表現することです。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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