【みえDE川柳】 お題:走る
ピストルでズドンと脅し走らせる/伊東真 さん
「走らせる」というからには運動会のスタートのピストルだろう。
「パン!」だの「(用意)ドン!」だのという音で表現することが多いが、この句は「ズドン」という重々しい音になっていて、「脅し」という言葉とよく合っている。
運動が苦手で走りたくない子どもも、こうなったら走るしかないだろう。もっとも最近は、音に敏感な子どもも少なくないことが明らかになってきて、保育園や幼稚園はもちろん小学校でも、ピストルではなく笛などでスタートの合図をするらしい。
「ズドンと脅す」など、もってのほかなのだ。
ビリの孫アップで写す徒競走/破れ蓮 さん
この句で重要なのは、「アップで写す」というところ。懸命に走る表情をアップで写してしまえば、1位だろうとビリだろうと同じ写真ができあがる。
もちろん大切な孫のこと、何位であろうとかわいさに差はないのだが、明らかにビリの写真では孫自慢も少々しにくいし、写真を見せられた方も褒め方に悩むだろう。
川柳の世界では、「孫の句は抜けない(入選しない)」と言われるが、それは「孫」である必然性がないのに孫の句にしてしまうから。この句は「孫」がうまく生かされている。
ひたすらに走り続けてタダの人/なるほどマン さん
いわゆる現役世代のうちは、自分のため、家族のために、ひたすら走り続ける他ないのが多くの人の経験するところ。
その結果、高い評価や大きな報酬を手にする人もいるが、それはむしろ少数。大多数はほどほどの評価やそこそこの報酬、すなわち「タダの人」で終わることになるわけだが、走り続けたことに何らかの価値があるのかもしれない。
「タダの人」というオチが、共感を呼ぶ句。
<入選>
食料がないのか街を走る猪/羽馬愚朗 さん
愛犬に走らされてるドッグラン/こまっぴ さん
走ったら疲れないかとカタツムリ/アカエタカ さん
僕以外鉛筆走る試験場/市川勲 さん
応援の拍手が僕を走らせる/クライミング さん
走っても走ってもまだジムの中/ジャック天野 さん
やみくもに走ることない救急車/ベルベル さん
助走なら日本一だとほめられる/かぐや姫 さん
走っても大差が無いと悟る年/中央線の旅人 さん
自己記録目指して走る最後尾/福村まこと さん
橋倉久美子 先生
439句ものご投句をいただきました。人間はもちろん、動物他いろいろなものを走らせた句がありました。
入選しない理由の一つに、リズムの問題があります。川柳は575のリズムが基本ですが、中8、下6は句をいたずらに重くしてしまい、
川柳の特長である軽やかさがなくなってしまいます。指を折ってでも今一度リズムを確かめ、推敲(こう)をしてください。
また、「鬼ごっこ」「パトカー・救急車」「逃げ足」「カタツムリ」などを詠んだ句で、うまくまとまっているけれど、すでに同じような内容が詠まれているため入選にできない句がありました。
逆の見方をすれば、それだけ実力のある方の句だと思います。懲りずにご投句をお願いします。