2021年9月29日

自民党総裁選「浮遊する党員票はどこへ」

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自民党総裁選挙が混戦の様相を呈している。激しさを増す票の争奪戦。中でも、国民に近い目線で結果が現れる「党員票」は議員票と同数の382票。その行方に注目が集まっている。それは、ここ三重県でも変わらない。

 

三重県において、ここ数回の党員投票で最も多くの党員票を集めてきたのは石破元幹事長だ。しかし今回、石破氏が立候補しないことで、これらの票が「浮遊する」と言われている。1万3000人を数える県内の自民党員らは、いま何を考え投票先を決めるのか。NHK津放送局の若手記者が総力を挙げて取材した。

(NHK津放送局 総裁選取材班)

 

 

三重県は“石破県”!?

 

「三重県は“石破県”だからね」(自民党三重県連幹部)そう言われるほど、三重県では過去の自民党総裁選で石破元幹事長が多くの票を獲得してきた。予備選挙を含め石破氏が立候補した平成24年、平成30年、令和2年の総裁選の党員投票ではいずれも石破氏が最多の票を獲得。去年(令和2年)行われ「菅の圧勝」と言われた総裁選でも、三重県では石破氏がおよそ8500票のうち4200票あまり、50%近くの得票率でしのぎを削った菅氏と岸田氏を圧倒している。

 

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「田村さんにお願いされたら…」

 

なぜ、石破氏はそれほど三重県で党員票を集めることができたのか。それは自民党の派閥「石破派」に所属する田村憲久厚生労働大臣の存在を抜きには語れない。松阪市などを地盤とし、平成8年、区割りが見直される前の三重4区で立候補して初当選を果たした。以来当選8回を重ねる、言わずと知れた重鎮だ。

 

「総裁選になると『思想は違うかもしれないが良かったら石破に入れてくれ』って田村さんから丁寧な電話がかかってくる。それで総裁選が終わって石破さんが負けてもまたお礼の電話がかかってくる。『私の力不足で・・・』と」とある県議が明かしてくれたエピソードからは、田村氏の気配りがかいま見える。その電話は県議にとどまらず市議や一般の党員にまでかかってくるという。

 

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津市に住む林田さん(仮名)は、自民党員歴がおよそ60年になるベテラン党員だ。田村の伯父の田村元・元衆議院議長の頃から自民党を支持している生粋の「自民党ファン」だが過去の党員投票では政策を聞いて投票先を決めてきた。郵政民営化に期待をかけて小泉純一郎元総理大臣に投票したこともある。しかし石破氏が立候補するようになってからは必ず石破氏に投票してきたという。記者に語った言葉が象徴的だ。


「政策を聞いて決めるけど、田村さんからお願いされたら別の人に投票するわけにはいかないよ――」

 

 浮遊する“石破票”“党員票”はどこへ

 

三重県では党員投票で連戦連勝の強さを誇ってきた石破氏だが、総裁選告示日を目前に控えた9月15日事態が動く。石破氏は、国会で記者会見し立候補を見送る考えを明らかにした。すでに立候補を表明していた河野規制改革担当大臣の支援を表明する一方、石破派としては「政策集団としてそれぞれの行動を拘束することはしない」とした。

 

一方の三重県津市。石破氏の会見とほぼ時を同じくして、自民党三重県連では幹部らを集めた役員会が行われていた。非公開で行われた役員会のあと会議に出席した県連幹部は「役員会で総裁選の方針は議論されなかった」とした上で次のように明かしてくれた。


「県連として総裁選の支持を一本化することはしない。県連幹部が支持候補を表明することもない。事実上の『自主投票』ということだ」

 

その2日後、総裁選は告示日を迎えた。三重県内の投票権を持つ党員党友はあわせて1万3175人。この1万3175票をめぐり争奪戦の火蓋がいよいよ切って落とされた。

 

ある県議は、石破氏が立候補しないことで“石破票”がどこに行くかが焦点になるとした上で「これまでは『議員に言われたからその人に投票する』という人が多かったと思うけど、たぶん自分の考えに従って投票する人が増えるんじゃないかな。今、三重県連はふわふわしている。誰が票をとるかまだわからない」とつぶやいた。

 

「ふわふわしている」というのは三重県選出の自民党議員をめぐる事情にも起因している。事情というのは当選12回を数える川崎二郎氏、それに当選6回の三ッ矢憲生氏、三重県連を支えてきたベテラン国会議員の2人がことしになって相次いで政界引退を明らかにしたこと。川崎氏は総裁選に立候補した野田幹事長代行の推薦人に名を連ね、三ッ矢氏は同じく立候補した岸田前政務調査会長の派閥の中心人物であるが、両氏の引退を踏まえ「これまでより票のグリップは効かなくなる」と予想する関係者も少なくない。三重県連が“ふわふわ”するのに伴って、県内の党員票も“ふわふわ”と浮遊する。

 


党員は、いま、何を思う

 

自民党の党員は党費を払っている。その額一般党員で年間4000円。高いと見るか安いと見るかはさておき、この党費を納めるなど一定の条件を満たせば総裁選で投票する権利を得ることができる。「一国の総理大臣を選ぶことが出来る総裁選に参加できることが党員であることの最大の恩恵」とすら言う人がいるほど党員にとって重みのある権利だと言える。

 

党員はその権利をどう行使するのか。

 

鳥羽市の離島の住民は我々の取材に対し「地方を何とかして欲しい。緊急事態宣言で田舎は経済が本当に厳しいことになっている」と苦しい胸の内を明かした。79歳の元会社員は「汗水垂らして働く人が報われる日本にしてくれる人を選びたい」と後世を慮った。スーパーの経営者は「自民党を変えてほしい」と訴えた。パン屋を営む男性は「自民党は体質が古い」と語気を強めた。育休中の母親は「身の回りの問題に目を向けられる人に投票する」と明かした。薬剤師の男性は今の自民党を「年寄りが子どものケンカをしているようだ」とくさした。旅館の経営者は「予約が全く入らない。コロナ対策なんて誰がやっても同じでしょ」と吐き捨てた。

 

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いずれも総裁選で投票権を持つ自民党員だ。そしてその多くが記者に対し「投票先は自分で考えて決める」と明言した。

 

 

公明党は

 

自民党以外の政党は総裁選をどう見ているか。

自民党と連立政権を組む公明党。県本部の幹事長を務める今井智広県議は「今後の国のリーダーを決める選挙であり、新型コロナウイルス対策も議論されている。総裁選での議論が、今後の国の政策にも反映されるため、しっかりやってほしい」と期待する。

 


野党側「自民党総裁選で国政は停滞」


一方、野党側は新型コロナ対策やポストコロナの経済対策を国会で議論せず総裁選に明け暮れる自民党に批判を強めている。

 

立憲民主党の県連幹事長を務める三谷哲央県議は「あくまで総裁選は他党の話でありとやかく言うことではない」とした上で、「コロナ対策など喫緊の課題がある中で国政が停滞しているのは事実だ。国民は冷ややかな目で見ていると思う」と指摘する。

 

また国民民主党の県連幹事長を務める加納康樹四日市市議は「自民党への注目を集められるよううまくやっている。そこに国民は不在だがある意味あっぱれだ」と皮肉った。

 

共産党三重県委員会の大嶽隆司委員長は誰が総裁に選ばれたとしても自民党の体質は変わらないと突き放す。「総裁選に立候補した4人はいずれも安倍政権や菅政権の現役閣僚や閣僚経験者、党の要職に就いてきた人ばかりだが、これまでの政治に対する反省の弁が一切聞かれない。これまでの政治に対する反省が無ければ新しい政治は生まれない」と批判する。

 

 

総裁選の裏で進む“野党連携”


こうした中、衆議院議員選挙に向けて立憲民主党を中心に主要野党が画策するのが野党間における連携の強化だ。中でも野党系の候補が乱立して与党への批判票が分散することを防ぐ「野党候補の一本化」は実現すれば与党候補への脅威となるが、擁立を見送らなければならない政党も出てくるため、各野党の本部レベルで調整が進められている。

 

立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組は、9月に新型コロナウイルス対策の強化や消費税の減税などを盛り込んだ衆議院選挙の共通政策を市民グループと締結。小選挙区での候補者の一本化など選挙協力の調整を加速させる方針だ。


三重県でも4つの小選挙区のうち1区から3区の3つで候補の一本化が進められていて、今後、どれだけ共闘態勢を組めるかも一つの焦点となる。

 

野党側には自民党総裁選が注目を集めることで野党が埋没し、衆院選で自民党への追い風が吹くことへの危機感を抱く向きがある一方「コロナ対策より総裁選を優先する自民党の姿は批判材料になる」という見方もある。多くの関係者が総裁選の情勢や結果を注視している。

 

 

投開票日は9月29日

 

9月18日からの3連休が明けた21日。複数の自民党の県議や市議が「連休中にあの人(県内選出国会議員)から直接電話があったよ」と教えてくれた。水面下で繰り広げられる“争奪戦”の全容は到底見渡せないが、投票の締め切りが近づくにつれ浮遊する票の奪い合いが激しさを増していることは間違いなさそうだ。

 

三重県の党員党友の意思がどの候補に向かうのか。注目の総裁選の投開票は9月29日に行われる。

 

 

(9月29日更新)


総裁選の勝者は岸田氏

 

 

9月29日、「最後の最後まで誰が勝者になるかわからない」との声もあがった自民党総裁選挙が終わった。決選投票の末、新たな総裁に選出されたのは、岸田前政務調査会長。菅総理大臣の後を継ぎ、これから日本のかじ取りを担うことになる。

 


三重県の党員・党友は誰を総裁にふさわしいと選んだのか。29日午前9時半、津市の自民党三重県連で始められた開票作業は1時間あまりで終わり、午後、結果が発表された。

 

 

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県内で最も多くの党員票を得たのは、河野規制改革担当大臣。その得票率は4割を超えた。複数の関係者によるとこれまで石破氏の支援に回っていた田村氏が、今回の選挙戦で河野氏の支援に回ったという。この結果に、県内の関係者からは「河野氏個人の人気と田村氏の強力なバックアップの力が大きい」という声が聞こえてくる。一方「意外にとった」とささやかれるのが新総裁に選出された岸田氏だ。去年の予備投票では、菅総理大臣と石破氏の後じんを拝す1630票だったが、今回票数にしておよそ1300票を上積みした。岸田派に所属する三ッ矢氏の力もさることながら、ある自民党三重県連の幹部は「この総裁選で岸田さんははっきりものを言うように変わった。印象の変化が期待感に繋がったのではないか」と指摘する。その上で「総裁選がこれだけ注目されれば、次の総選挙で自民党への追い風になるだろう」と期待を寄せる。

 


一方、同じ日に記者団の取材に応じた立憲民主党三重県連の顧問を務める岡田克也氏は「議論ができる国会にしてほしい。本会議の代表質問だけではなく、予算委員会を開いて具体性のある議論をするべきだ」と岸田氏に注文を付けた上で、次の衆議院選挙について「政策論争の中身が問われる選挙になるだろう」と指摘した。

 

 
注目された自民党総裁選挙が終わり、県内の関係者の目は、早くも衆議院選挙に向いている。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:00 | WEB特集 |   | 固定リンク


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