2021年6月25日

【みえDE川柳】 お題:薄い

天 鬼ごっこ影が薄くて得をする/はぐれ雲さん

橋倉久美子先生 きっとこの子は、「花いちもんめ」のときなかなか「欲しい」と言ってもらえないタイプなのだろう。鬼ごっこをしていても、声も上げずにひっそり逃げているのか、鬼のすぐ近くにいても気付かれず、決して鬼になることはない。それを「得をする」と言ってのけたのがおもしろい。もっとも鬼にならない鬼ごっこなどつまらないという考え方もあって、そう考えるとこの句は負け惜しみとも取れる。
 「影が薄い」という言葉はマイナスイメージだが、それによって「得をする」と、価値観をひっくり返して見せたところがいかにも川柳的である。

 

地 筆圧の弱さで履歴書が軽い/かぐや姫さん

橋倉久美子先生 「薄い」という言葉は使っていないが、「筆圧の弱さ」で書かれた文字が薄いことは十分わかる。ボールペンなどは、鉛筆に比べて筆圧の影響はなさそうに思えるが、それでも多少の違いは出る。履歴書は採用する側とされる側の最初の出会いの場なのに、薄い文字では印象に残りにくくやる気も伝わらない。それを「履歴書が軽い」と表現したのがおもしろい。
 最近の子どもは筆圧が弱く、小学校では従来より柔らかい(濃い)鉛筆を使うよう指導しているとか。将来彼らが書く履歴書の軽さが今から思いやられる。

 

人 任せとけ一応叩く薄い胸/牛美さん

橋倉久美子先生 けなげな句である。けなげさを通り越して、そこはかとないペーソスさえ感じられる。「任せとけ」と頼もしく言ってはみたものの、実は胸を「一応」叩いて見せただけ、しかも自分が「薄い胸」、すなわちさほど頼りがいのない人間であることもちゃんと自覚している。それでも立場上、あるいはこの場の雰囲気から考えて、胸を叩いて見せないわけにはいかないのである。
 けなげなことは、いい川柳になりやすい。一つひとつの言葉が生きていて、上5から中7・下5への反転もみごとである。

 

<入選>

孫たちは薄目を開けて見るドラマ/6年6組てんまのよい子さん

ハダカよりもっとハダカのシースルー/羊がゼロ匹さん

恋終えたとたんに薄くなる日記/汐海 岬さん

本性が隠しきれない薄化粧/淺川八重子さん

薄味に慣れて減らない調味料/笑いじょう子さん

厚みありそうな言葉で謝罪する/瑠珂(るか)さん

押されると凹んでしまう薄い知恵/ワクチンさん

それなりに責務を果たす薄い壁/福村まことさん

薄型が奪った猫の指定席/石川照夫さん

屑というには美しすぎる鉋屑/青い鳥さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 419句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
 「味が薄い」、「頭髪が薄い」、「薄化粧」の句がたくさんありました。これらは多くの人が最初に思いつくこと(第一発想)なので、よほどうまく詠まないとありふれた句になってしまいます。「第一発想は捨てよ」とよく言われるのはそのためです。独創性のある句を作るには、「もっと他にはないかな?」「逆から見るとどうなるかな?」などと考え、発想を広げてみましょう。
 また、川柳は口語で生活を詠みますが、それだけにややもすると下品な句や、単に笑いを取るだけの底の浅い句になってしまうことがあります。高尚である必要はありませんが、生活に密着した川柳だからこそ、適度な品格や節度を大切にしたいと思います。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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