2021年6月17日

ドミニクさんの決意 人気菓子"カヌレ"工場火災からの再起

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「もう、これで私の人生終わりだな…」

 

店を支えてきた人気商品“カヌレ”の工場が燃えていく…。

 

炎に包まれる建物を前に、立ち尽くすフランス出身のパン職人。

 

窮地に追い込まれた彼を奮い立たせたのは、プロの職人としての“誇り”とオーナーとしての“覚悟”でした。

 

(津放送局 記者 石塚和明)

 

本場フランスの味を日本に

 

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三重県中部。鈴鹿市の閑静な住宅街に、パン屋「ドミニクドゥーセの店」はあります。

 

27年前の創業以来、地元の人たちに親しまれてきた名店で、全国各地にもファンがいます。

 

オーナーシェフを務めるのはフランス出身のドミニク・ドゥーセさん。

 

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34年前、鈴鹿サーキットでF1グランプリが開催されることになったのをきっかけに来日。

 

サーキット内のレストランのシェフとして働き、あのアイルトン・セナやミハエル・シューマッハなど名だたるレーサーたちの食事も担当しました。

 

その後、“本当のフランスの味を日本に”との思いから、慣れ親しんだ鈴鹿市に店を構えました。

 

地元の人たちからは“ドミニクさん”と呼ばれ、慕われてきた一方で、民放のバラエティー番組の「パン職人選手権」で2連覇を果たすなど、その腕の確かさは広く知られています。

 

 

コロナ禍の切り札“カヌレ”の存在

 

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そんなドミニクさんが何度も試作と失敗を繰り返し完成させたのが、フランスの伝統菓子「カヌレ」。

 

オリジナルの銅製型を使い、研究し尽くした焼き加減で、「外はカリカリ 中はフワッと」した食感が特徴です。

 

発売後、瞬く間に人気は全国へと拡大。専用の工場を建てて各地に出荷し、全国のデパートやイベントなどで販売されるようになりました。

 

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新型コロナウイルスの感染拡大後は、各地のイベントへの出店が相次いで中止になったり、店内のレストランが1年以上休業したりといった危機が何度も訪れましたが、支えとなったのがこのカヌレでした。

 

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オンラインショップなどでの売れ行きが好調で、コロナ禍をなんとか乗り越える切り札となってきたのです。

 

たった一晩ですべてが…カヌレ工場全焼

 

しかし、5月24日、ドミニクさんに悲劇が襲います。

 

カヌレ工場で火災が発生。従業員はおらず、けが人はいませんでしたが、工場は全焼してしまいました。

 

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「電話がかかってきて、『工場が燃えているよ』って言われました。聞いた瞬間、体の中が熱くなって、急いで向かいました」

 

消火活動が行われている中も、大きく炎が上がり燃え続ける工場。

 

夜空に火の粉が飛んでいく中、ドミニクさんは、現場に立ち尽くし、絶望したといいます。

 

「たった一晩でこれまで積み上げてきたたくさんのものを失ったんです。『従業員どうする』とか『借金どうやって返す』とか、一気に頭の中がいっぱいになりました。隣にいた奥さんに正直に言いました。『今までいろんなことがあったけど、もうこれで人生終わりだな』と」

 

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オーブンやオリジナルの型にも被害が出て、1万5000個あった型のうち、無事だったのは34個だけ。

 

店頭のみでの販売となり、各地のデパートに出荷するなど量産はできなくなってしまいました。

 


“誇り”と“覚悟”を胸に

 

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そうした中でも、ドミニクさんは、火事のあったその晩、再起を決意したといいます。

 

「全国のファンにまたカヌレを届けたい。いち早く届けるために、とにかくカヌレを焼きます。もちろん今までの数は出来ないけど頑張ります」

 

プロの職人としての誇りを胸に、毎日厨房に立ち続けています。

 

さらに、これまでともに歩んできた従業員への思いがドミニクさんを奮い立たせているといいます。

 

「本当にお客さんも従業員も愛しています。急いで早くカヌレを復活させて、従業員たちの経済の影響にならないように…」

 

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それまで気丈に話していたドミニクさんが突然言葉を詰まらせ、涙をこらえました。

 

再び開けた口から出たのは、オーナーとしての覚悟でした。

 

「…およそ20年間もいる従業員もいます。『すいません火事になって明日から仕事がなくなりました』なんて言えませんよ。ひとりになると思い悩む時もありますが、とにかくみんなのために倒れない。とにかく乗り越えます」

 

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寄せられる応援の声 決意新たに

 

そんなドミニクさんの支えになっているのは、お店のファンからの声です。

 

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「ネットで火災があったのを知って、びっくりしました。今日は応援のためにカヌレを買いにきました」

 

「よくきますが、1番はカヌレが好きです。またよりたいです」

 

取材中も、火事の知らせを受けて店を応援しようという客が次々に訪れ、そう語っていました。

 

さらに、再び量産できる環境を整えようと、クッキーの詰め合わせを「応援セット」としてネットショッピングで販売したり、カヌレを返礼品としたクラウドファンディングで寄付を募っています。

 

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するとSNSでは応援する多くのメッセージが。

 

「これは支援せねば!」


「絶対また食べたいもんね あのカヌレ」

 

「1日も早い復活を願っています」

 

エールを受けたドミニクさんは復活に向けた思いをさらに強くしています。

 

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「ものすごいエネルギーいただいています。私はできることをやります、頑張ります。日本で私の人生が終わるまでいいカヌレ焼きます。絶対諦めない、絶対頑張る」。


カヌレを待つ、全国のファンのために。

 

逆境の中も、カヌレを焼き続けるドミニクさんの目はしっかりと前を向いていました。

 

 

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石塚和明 2016年入局 

スイーツ好き・フランス語は自己紹介程度

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:19:30 | WEB特集 |   | 固定リンク


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