新型コロナウイルスという未曽有の危機の中、富山県の地方銀行はどう対応していくのか。地銀3行のトップに迫ります。
第1弾は、富山銀行の中沖雄頭取です。富山銀行は、昭和29年に設立され、預金残高は去年9月末時点で5000億円弱と、資金量でみると、最小規模の地銀の1つです。

中沖頭取は、中沖元富山県知事の次男として生まれ、昭和61年、東京大学経済学部を卒業後、みずほ銀行(当時の日本興業銀行)に入り、ニューヨーク支店の勤務などをへて、みずほ証券の常務を務めました。その後、前頭取の齊藤氏にヘッドハンティングされて富山銀行に入り、去年5月、齊藤氏の急逝を受けて、頭取に就任しました。華やかな経歴を持つ中沖頭取に未曾有のコロナ禍という難局を乗り切るカギや地銀再編への考えを聞きました。
(聞き手:富山局・橋本真爾)

―新型コロナウイルスが与えた影響―

橋本 記者
新型コロナウイルスが与えた地域経済への影響は。

中沖頭取
「生活習慣や仕事のスタイルが大きく変わってしまった1年でした。飲食・宿泊関係は大変な苦労を強いられています。製造業もなんとか持ち直してきたのかなというタイミングで第3波の影響が出てきて、好調な業種と厳しさを増す業種の間ではこう性が出ています。一方で、医療品関係の一部ではコロナ感染拡大による特需で業績が好調な一面も垣間見えます。新型コロナと引き続きどう向き合っていくのか、東京オリンピックが控え、ワクチンも出始めるなど明るいニュースもある中、出口が見える年になると望みたいと思います。」

橋本 記者
コロナ禍で、地方銀行・富山銀行に求められる役割とは。

中沖頭取
「未曾有の経済危機の今こそ、地域の顧客や特性を熟知する金融プレーヤーの存在が求められています。地域経済を再び活性化させるため、事業承継や資金繰り、経営に関わる課題に対して、コンサルティング機能を強化しながら顧客に寄り添って考えることが重要なミッションです。去年は、リーマンショックの経験を踏まえて、関係各所と協力しながらコロナの制度融資を迅速に実行し、倒産件数を抑えることができたと考えています。」

―地域密着に活路―

高岡市に本店を置き、県西部との結びつきが強い富山銀行は去年10月、南砺市とアドバイス契約を結びました。地元企業を対象に、事業承継やビジネスマッチングに向けたコンサルティング支援を共同で行っています。

橋本 記者
自治体と組んだ狙いは?

中沖頭取
「地域経済の活性化策や少子高齢化対策、人材育成など地方自治体が抱える課題を一緒になって解決することが、地方銀行の使命であり、ひいては収益・ビジネスの拡大につながると考えたからです。銀行が持つネットワークやビジネスをベースに情報提供・アドバイスをして、町おこしの一助にしてもらう。逆に、自治体やそこに根付く企業から我々の気付かないアイデアを享受できるなど双方にとってメリットがある取り組みだと捉えています」。

―地域発の新技術に注目―

メガバンク出身で、国内外で多くの企業を担当してきた中沖さんだからこそ、地方から生まれる将来性の高い企業の新技術に熱い視線を送っています。 その1つが、高岡市のベンチャー企業「アルハイテック」です。「アルハイテック」は、アルミニウムを含むさまざまな材料を活用して環境に優しいとされる水素エネルギーを 安定的に生み出す技術を確立しようと実証実験を進めています。将来的には世界で初めてとなる廃棄物を使った水素発生装置の製造を目指しています。

―再編・統合には違和感―

一方で、人口の減少や超低金利、それに新型コロナウイルスの影響で地方銀行を取り巻く環境は一段と厳しさを増しています。 銀行の数が多すぎる“オーバーバンキング”の状況が長年続いていると指摘され、 政府・日銀も地銀の経営統合などを資金面で後押しする異例の措置を相次いで打ち出しています。

橋本 記者
地銀再編に向けた環境整備が着々と進められています。

中沖頭取
「経営上の選択肢が増える意味ではプラスに評価したいと考えています。 一方で、喫緊の課題であるコロナ禍における地元経済の活性化を最優先に考えると、再編を軸に置いて検討することに違和感を覚えるのが正直なところです。現状の危機を克服し、活力ある地域作りを進める取り組みの中で出された答えが統合なのであれば、 選択肢の1つにはなり得ると考えています。」

―人事制度刷新“従業員の意欲引き出す”―

富山銀行は、新年度人事制度を刷新します。顧客サービスへの貢献度や事務作業の効率化をより重視する内容に行員の評価方法を変更。 昇進・昇格の際の、給料の上昇幅も大きくします。さらに、これまで定年が近づくと給料が下がってきた定年間際の行員の待遇を改善します。 従業員の意欲を引き出すことが狙いです。

中沖頭取
「お客様第一はもちろんのこと、従業員も第一に考えていきます。顧客が喜ぶサービスの提供には、 従業員のやる気ややりがいが大切です。結果として、比較的規模の小さい富山銀行の強みである柔軟で機動力あるサービスを下支えし、 収益の向上やビジネスの拡大につながると期待しています。」

―取材を終えて―

メガバンクのニューヨーク支店勤務や大手証券会社の役員など華やかな経歴を持つ中沖さん。 国内外で営業を担当してきた経験から、取材にも気取りがなく応える親しみやすい人柄が 印象的でした。コロナ禍で打撃を受けた企業に迅速に融資し、地域経済を支えてきたこの1年間。 今後、地域経済が回復していかなければ、企業はさらに追い込まれることになります。地域に根付く金融プレーヤーとして 課題解決に向けた糸口を見いだし、顧客の業績回復につなげられるか、中沖頭取の真価と力量が問われる1年になります。    

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