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写真家・大石芳野が撮る 世界と富山の戦争の“爪痕”

大石芳野写真展
  • 2024年05月24日

世界各地で戦争に巻き込まれた人たちを撮り続けている写真家、大石芳野さん。

その写真展が5月23日から27日まで魚津市の新川文化ホールで開催されています。
展示されている写真の多くは戦争で心や体に傷を負った海外の子どもたちですが、
今回初めて昭和20年の富山大空襲で被災した人たちの“現在の姿”を写した作品も公開されました。

いま、富山大空襲をテーマにした写真に込めた思いを取材しました。

写真家・大石芳野さん

写真家・大石芳野さん 「戦争終わっても終わらない」

写真家の大石芳野さんは半世紀以上にわたり、国内外で戦禍に巻き込まれた人々の姿を撮り続けてきました。

大石さんの写真のテーマは「戦争が終わっても続く爪痕」
人々の体や心に刻み込まれ、消えない傷を見つめてきました。
その原点は、20代の終わり、1970年代ごろに東南アジアの国々を訪れたときの体験にあります。
平和な暮らしを送っているようにみえた現地の人にかけられた言葉でした。

実はねって「日本軍に自分の村が襲われて、子どもたちも家族も村人も大勢が殺された」と言われた。
あまりにも直接的に殺された話を聞いて、私はぞっとしたんです。
向こうも平和な空気の中にいるんだけど、心はこんなに荒んでるのか、傷のままいるのか、ということを、ニコニコした会話の後に聞いて。
非常に強く突きつけられるものがあって。

富山大空襲の被災者の写真 初展示

戦争が終わっても残り続ける爪痕。
写真展では、大石さんが去年から撮影を始めた富山大空襲の被災者を写した写真6点も初めて公開されました。

娘や孫と写る、当時10歳だった男性。
「強風で燃え盛る匂いが今も残り、焼き魚に繋がって辛い」
当時13歳と6歳だった姉弟。
「川には死体が重なるように流れ、川辺も死体だらけ。
今でも脳裏にこびりついている」

富山大空襲の被災者の方々の話を聞いて、つくづく思うのは、
もう何十年も前に終わった戦争なんだから、覚えてないだろうとか、気にしてないだろうとか、思う人多いんですけど、当人はそうじゃないんですよね。
ものすごく、昨日のことのように覚えている

富山大空襲の被災者 飯田恭子さんの“爪痕”

やわらかな表情のこちらの女性も富山大空襲を経験しました。
飯田恭子(はんだ・きょうこ)さんです。

自ら被写体となりながら、今回の写真展を企画しました。
富山市の総曲輪近くに住んでいた飯田さん。空襲の時は、7歳。
今の小学2年生にあたる国民学校の2年生でした。

空襲を受けてまちが焼けていく中、祖母たちと一緒に神通川の河原に必死に逃げた飯田さん。
祖母が覆い被さって守ってくれましたが、左肩に焼夷弾の破片があたり、負傷しました。

飯田恭子さん
「自分は一生懸命手上げているつもり。
上がっています。でも上がってないんです」

戦争の体験を前向きに生きる力に変え、自分と同じような子どもたちを守りたいと医師になった飯田さん。
公衆衛生専門の医師となり、県内の保健所で定年まで働き上げました。

保健所で医師として働いていた飯田さん

それでも、80年近くたった今もなお、子どもの時に空襲で見た光景が、何度も思い出されるといいます。

人間の燃えた臭いがする。
爪とか髪を燃やす匂いがいっぱいなんです。
途中で、鉄兜かぶった上半身だけの兵隊が真っ黒焦げになってるんです。
一生戦後です。

飯田さんを撮影した写真家の大石さんは、凛とした飯田さんの姿の裏に、戦争の爪痕があることを知ってほしいといいます。

外から見たら誰も分からないんですよ。それがだから恐ろしいところです。
その人の心の中からはずっと戦争が消えない。
ずっとずっとずっと、戦争が消えない。
その苦しさは一度経験すると、死ぬまで続くと、私は話を聞いて思いました。

戦地の子どもたちの姿に込めた思い

大石さんの撮影した 戦地の子どもたちの写真

今回の写真展では、子どもたちの写真が多数展示されています。
いつの時代も、大人が始めた戦争に巻き込まれ、消えない傷を背負わされる子どもたち。
世界各地で子どもたちが犠牲となり続けている今こそ、富山大空襲をはじめとする写真を通して、戦争が残す傷を想像してほしいと大石さんはいいます。 

子どもたちに残された戦争の傷は、イコール富山の人たちの今の心の傷ですよね。
多くの日本人は戦争体験がないので想像しようにも想像できないんだけど、でもやっぱりじっと耳を傾ける。
富山の人たちは、空襲で苦しんだことに耳を傾けることで、今のウクライナやガザ、ミャンマーで苦しんでいる子どもたちとつながっていくんじゃないかと思うんです。

大石さんは今後も富山大空襲の被災者を探して、撮影を続けたいとしています。

大石芳野・風間耕司写真展 ー戦世をこえて 子どもの瞳は語るー
会期:2024年5月23日(金)~27日(月)まで
場所:魚津市 新川文化ホール
25日(土)には大石さんの講演も予定されています
また会場には県内の戦跡などを写した写真家・風間耕司さんの作品も展示されています

  • 池田航

    富山放送局 ディレクター

    池田航

    2021年入局。富山局が初任地。自然・環境問題から社会課題まで幅広く取材。

  • 杉山 加奈

    富山放送局 記者

    杉山 加奈

    2018年入局 千葉局の事件・司法担当を経て、2022年から富山局で行政や経済を担当。

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