ページの本文へ

よむ富山人

  1. NHK富山
  2. よむ富山人
  3. 花粉症対策のカギは花粉“増産”?

花粉症対策のカギは花粉“増産”?

  • 2024年05月10日

今や“国民病”ともいわれる花粉症。

国を挙げて対策が進められる中、富山県にある研究所では、花粉を増やす最先端の研究が行われているんです。

花粉は少ない方がよさそうですが、いったいなぜ?

花粉は多い方がいい?

掃除機を背負い、スギの雄花に吸い口を近づけている男性。

富山県森林研究所でスギ花粉について研究している、斎藤真己さんです。

現在の研究テーマは、花粉の“増産”

取材に訪れたこの日は、ハウスの中で育てているスギから、花粉を集めていました。

黄土色の雄花には、花粉がたっぷり。
見ているだけで鼻がむずつきます。
※花粉は屋外に飛ばないよう管理しています

(富山県森林研究所 斎藤真己さん)

「たくさん花粉をとれるよう、配置や品種にこだわって進めています。花粉が少なかったら話にならない

どうして、そこまでして花粉を増やそうとしているのか。

治療薬の原料が足りない!

その答えは、医療現場にありました。

富山市の耳鼻科では、花粉を原料にしている花粉症の治療薬を処方できないケースがあるといいます。

この薬は、舌下免疫療法という治療法に使われます。

錠剤にスギ花粉のエキスが詰まっていて、これを毎日服用して体を花粉の成分に慣らすことで、症状の出にくい体質にしていくというものです。

多くの薬が、花粉症の症状をそのつど改善するものであるのに対し、より根本的な解決が望めるとして、ニーズが高まっています。

製薬会社によりますと、近年は25万人が服用。

国も、花粉症への対策パッケージに、この薬の増産を盛り込んでいます。

その一方で、原料となる花粉の生産が、ニーズに追いついていないというのです。

伊東耳鼻咽喉科クリニック 伊東宗治医師

「薬が入るのを待っている状態です。こちらは患者さんに薬を出したいんだけども、出せない」

“多花粉”の原点は“無花粉”

斎藤さんは、この薬不足を何とかしようと、花粉の“増産”に取り組んでいたのです。

そこで、花粉を多くとれる“多花粉スギ”の開発に乗り出しました。

国内では例がない研究だといいますが、斎藤さんには勝算がありました。

平成13年、NHKの取材に応じる斎藤さん

実は、斎藤さんはこの30年、花粉を出さない“無花粉スギ”について研究してきました。

山に植えられるスギが花粉を飛ばさなければ、私たちが触れる花粉の量を減らすことができます。

そこで、斎藤さんは、花粉を出さない性質を引き継がせる遺伝子を突きとめ、量産化に成功。

現在、国を挙げて植え替えが進められています。

さらに、山に植えてもらいやすいよう、成長が早く雪に強いといった性質を持たせる品種改良にも力を入れてきました。

そんな斎藤さんのもとに、3年ほど前、舌下免疫療法の治療薬をつくる会社から連絡が。

「花粉が足りない」と相談され、“無花粉スギ”とは真逆の“多花粉スギ”も必要だと確信したといいます。

(富山県森林研究所 斎藤真己さん)
「性質的には真逆だけれども、目的にあったスギをつくるための根本的な技術は同じなので、“無花粉スギ”をつくる技術を応用した」

“多花粉”を探せ!

こちらの2本のスギ。

斎藤さんによると、ほぼ同じ時期に植えられているということですが、雄花の量が全く違います。

色の違いが一目瞭然

スギがつける花粉の量は、多い木と少ない木で最大2倍以上の差があります。

また、同じ量の花粉でも、花粉症の原因になるアレルギー成分をどれくらい含むかも、木によってまちまちです。

そこで斎藤さんは、研究所の林で育てている1000本以上のスギの中から、多くの雄花をつけるものや、アレルギー成分が多いものを探し出しました。

同じスギでも、1本1本、性質が違います

こうして見つけたスギを育てるだけでなく、かけあわせて品種改良も行います。

枝にかぶせられている袋の中には、福島県から届けられたスギの花粉が。

ことし3月、斎藤さんの研究を知った林業関係者から「珍しいスギが見つかったので研究に役立ててほしい」と送られてきました。

花粉の入っている袋(左)
花粉をつけていたスギ(右)

特徴は、雄花の長さ

7~8センチもあり、普通のスギの数倍にもなるそうです。

雄花の量が多いスギとかけあわせることで、とれる花粉の量をさらに増やすことができるかもしれません。

管理もしやすい“多花粉スギ”

“多花粉スギ”は、若い時期から花粉をつけるため、管理しやすいのも特徴です。

ひざ丈にも届かないほどの若い苗。
普通、この高さでは雄花をつけないといいます。

スギは通常、花粉を遠くまで飛ばそうとするため、数十年育って十分高くなってから花粉をつくります。

これを直接、人の手で採取するわけにはいかないので、現在は、森林整備で切り落とされた枝を集めて、管理しやすい長さにそろえ、ハウスで春まで育てているのです。

この作業には多くの手間がかかります。

さらに、スギがつける花粉の量は木によって異なり、同じ木でも夏の気温などによって毎年変わります。

つまり、生産量が安定しないのです。

背丈が低いうちに花粉をつけてくれれば、最初からハウスで育てられるため、効率的に、安定して多くの花粉をとることができます。

長年の経験から、スギの性質や扱い方を知り尽くした斎藤さん。

より多くの患者を救うため、花粉を増やす研究を続けます。

(富山県森林研究所 斎藤真己さん)
「治療を希望する患者さんにすべて薬がいきわたるような状況になればいいと思っています」。

※“多花粉スギ”は、ハウスで育てられているため、花粉が私たちの周りに飛んでくるわけではありません

舌下免疫療法 始めるには注意点も

斎藤さんの研究のきっかけになった舌下免疫療法。

根本的な解決につながるためニーズが高まっていますが、注意点もあります。

  1. 花粉のシーズンが終わらないと始められない。花粉が飛んでいる時期に薬を飲むと、適量を超えるアレルギー成分が体に入ってしまうため。
  2. 服薬を毎日、3年以上続けることが推奨されている。始めるには覚悟も必要。
  3. 特に飲み始めの時期は、口の中が腫れたり、のどや耳がかゆくなったりと、副作用があらわれることも。

詳しくは、近くの医療機関に相談してください。

  • 吉田紘生

    富山局 記者

    吉田紘生

    2020年入局
    小学生の頃から花粉症。マスクとティッシュが手放せません。
    ちなみに、斎藤さんは日々スギに接していますが、花粉症ではないそうです。うらやましいです。

ページトップに戻る