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性暴力の実態 富山県在住の女性が語る

  • 2023年07月10日

6月16日、性犯罪を処罰する刑法の改正案が国会で可決・成立しました。
今回の改正は「被害の実態にあっていない」という被害者などの声を受けて行われたものです。
性犯罪を無くしたいという被害者の強い思いが国を動かした形です。
そうした思いを持つ県内在住の女性に自らの経験や今の心境などを聞きました。

日常に入り込む被害 誰にも相談できず

県内に住む、ゆかさん。(仮名・50代)
幼少期から中学2年生まで、父親から性的虐待を受けていました。

物心ついた時からだったので、3歳か4歳かな。山菜採りに行く時とか、あゆをとりにいく時はいつも私が連れていかれて、車の中などでいやなことをされる。2人きりになった時がやっぱりちょっと怖い。

小学生になると、性的な行為は親から子どもにするものではないと理解し始めたものの、常習的に被害を受け続けたせいで断ることは難しかったといいます。

これは違うなって思ってるけど言えない。その時はそういうことを言おうとも思わないし、言えない。それが日常の中に入り込んでしまってるから耐えるしかなかった
嫌だ、変だと思っていても知識がなかったので、人に言ってはだめだと思っていた。

受け入れるしかない状況をつくられていたというか、気がついたときにはそういう状況だったので。手なずけられたじゃないけど。ここから逃げてもどこも行くところがない。

中学生になりこの状況を変えたいと周囲に相談することを考えましたが、被害を訴えても助けてもらえないだろうと考え、相談しませんでした。

自分がどういうふうに見られるとか、いろんなこと考えると、言える状況にもかかわらず言えない。ただ悲惨な目にあった子やね、で終わりそうな感じで。何の解決もなく。言うだけ自分にとってはリスクが大きすぎる。

小さい時は言うことができないというよりは被害だと知らなかった。大きくなってからは言うこともできたかもしれないけど、それ以上のリスクを考えて本当は嫌だけど言えなかった。嫌だけど、泣き寝入りして悲しむしかない。

周りの人、世間だったり、誰も助けてくれないっていうところの絶望と怒りがあります。

被害を認識し、訴えることの難しさ

ゆかさんは、被害を認識して訴えるまでには、多くのハードルがあると指摘します。

まずは「嫌だ」という感情を日々どのようにごまかしながら生きるかで精いっぱいで、これが犯罪で罰せられることなのかまで考える余裕はなかったといいます。

被害を受けている時は、行為の意味は考えないのです。嫌すぎて考えたくない。行為が終わった後は、何もなかったかのように生きていたい。自分の感情をどうコントロールするかだけ考えている

被害を認識するのも難しいですが、被害だとわかったからといって、自分が被害を受けていたんだとはっきりさせられる現実を、認めたくなくてごまかしてきた現実を、受け入れるのにも時間がかかる。まず声を上げるまでに傷ついて自分と戦わなければいけない。

 

ゆかさんは、自分が嫌になり、気持ちの発散の仕方がわからない中、自傷行為に走ることもありました。

父親から逃げられる祖母の家に遊びに行く時が唯一ほっとできた時間で、幼少期は心から笑った記憶がないといいます。

「自分には生きている意味があるのか、このために生まれてきたんじゃないよね」と自分を責めていましたが、「父親のために死にたくない」という思いが少しずつ生まれ、中学3年生のころ、「これ以上何かしたら母親に言う」と父親に断ったところ、性的な被害は止まりました。

 

40年以上たっても続く被害

ゆかさんは50代になった今でも、ふとした瞬間に幼少期の体験を思い出し、当時の感情がよみがえることで苦しめられています

今普通に生活してるんですけど、嫌な思いとかその時の感情がずっと残っているので、春先とか山の匂いとかあゆ解禁のニュースで、山菜採りやあゆ取りの時の被害を思い出します。どきどきしたり、嫌だった時の映像がぱっと出てくる

自分が思い出そうとして思い出してるわけじゃないし、きざみ込まれてしまっているというか、これとともに生きていくしかない

自分のような被害者が減るよう、多くの人に被害の実態を知ってほしいと訴えます。

世の中の人にもっと性被害にあった人たちの被害が続くという現状をわかってもらいたい。皆に現状として、もっと身近なところにあるっていうことをわかってほしいです。

深掘りして考えてもらえるようになれば、「なんで断れなかったの」などという言葉で、被害者が2次被害で苦しむことも減ると思います。

不同意性交罪への法改正 何が変わる?

ゆかさんの「嫌な思いや感情とともに生きていくしかない」ということばは重く響きました。

こうした被害を無くすために行われた、今回の法改正について、詳しく見ていきます。

大きな改正点は、「強制性交罪」と「準強制性交罪」を統合して、罪名を「不同意性交罪」に変更したことです。

罪名にも「不同意」ということばが入り、同意のない性行為は犯罪になりうると、明確に示されました。
ただ、先ほどご紹介したゆかさんのように、
子どもの場合、そもそも自分が受けた行為を性被害だと認識することが難しいことも少なくありません

知識が少ない子どもだと適切に判断できないおそれもあります。

そこで、今回の法改正では、「性行為への同意を判断できる」とみなす年齢、いわゆる「性交同意年齢」がこれまでの「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げられました

これまでは、同意のある・なしにかかわらず13歳未満との性行為自体が処罰されました。
今後は、同じ年代どうしを除いて16歳未満との性行為自体が処罰されます。

 

そして、大きな変更点がもう1つあります。
犯罪だと認められるための要件がこれまで以上に幅広く示されました。
これまでは、被害者が性行為に同意していないことを示すため「暴行または脅迫されたこと」を証明する必要がありました。
しかし、暴行や脅迫を受けなくても、恐怖のあまり動けなかったり、相手との関係性で抵抗できなかったりするのが実態だとして法律が見直されました

①これまでの「暴行や脅迫」のほか、
②「精神的、身体的な障害を生じさせること」、
③「アルコールや薬物を摂取させること」、
④「眠っているなど、意識がはっきりしていない状態であること」、
⑤被害者が急に襲われる場合なども想定し、「拒絶するいとまを与えないこと」、
⑥被害者がショックで体が硬直し、いわゆるフリーズ状態になった場合なども想定し、「恐怖・驚がくさせること」、
⑦被害者が長年にわたって性的虐待を受けてきた場合などを想定し、「虐待による心理的反応があること」、
⑧教師と生徒など、「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮していること」
このように具体的に8つの要件が明記されました。

こうしたケースにあてはまれば、「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態」にさせたとみなされ、こうした状態で性行為などをした場合は、罪に問うことができます。

 

しかし、被害者や支援者は、今回の法改正は大きな一歩ではあるものの、「法改正だけではなく、性教育で正しい知識を伝えなければ意味が無い」と訴えています。

ゆかさんも、「何も知らない今までと変わらない状態で、性交同意年齢が13歳から16歳に変更されたとしても、単なる数字の移動でなんの意味もない性教育の知識や相談先を教えないと正しい判断ができない」と指摘します。

県内ではどのような性教育が行われているのか、現場を取材しました。 

「性的同意」を学ぶ 県内高校の性教育

6月、高岡南高校で行われた性教育の講演会です。
性被害者などを支援する団体の小林涼子さんが講師を務めました。    

小林さん

人と性行為をするときには明確な同意が必ず必要です。対等で親密な関係の相手と、時、場所、方法、この3つについて2人で話し合って決める。

小林さんは具体的な例を示して「同意のない性行為は性暴力になる」ことを強調しました。

小林さん

例えば夏祭りに2人で出かけて一緒に花火見て、かき氷も食べて、楽しく遊んでちょっと暗がりが来てキスぐらいいいかなって思ってしちゃったって。それ同意とらなかったらアウトだよ。性暴力になっちゃうからね。そういう雰囲気になったっていうのはダメです。自分の思い込みだから。

さらに、
▼2人で食事に行くことや、
▼部屋で2人きりになることは、同意にはならないとして、
相手の意思の確認が大切だと伝えました。

小林さん

もしパートナーと手をつなぎたい。キスをしたいと思ったときにはつないでいい?って、したいと思った側がちゃんと聞かないとだめ。聞かれた方は雰囲気に流されないで、いま自分の本当にしたいかどうか考えて、「いいよ」だったり、いや、「きょうはちょっと嫌だ」って「嫌だよ」とかちゃんと断る。ちゃんと誘う。ちゃんと聞く。そして、ちゃんと答える。このやりとりが対等にできるということがすごく大事です。

小林さんは、性に関する話題がタブーとされるなか、子どもたちに正しい性の知識を伝えようと、15年あまり活動しています。この日も50分の授業で、性の知識の大切さを熱心に訴えました。

女子生徒

支配される関係とかではなくて 相手と対等な関係を築くために、明確な同意というのが必要だなと思いました。

男子生徒

漫画とか映画とかでそういう表現って多いと思うんですよね。雰囲気で流されるという。やっぱり明確な同意を取ってすることがお互いの安全のためにも大事なんじゃないかなと思います。

 

小林さん

誰にも、被害者はもちろんですけど、意図しないままに加害者にもなってほしくないんです。同意を取ることが必須だと分かっていれば、加害、被害を起こさない、加害者にならないで済みます。相手をそして自分のことも大事にする関係、人間関係を作ってほしいなと思います。

取材後記

学校や家庭では特に性に関する話は避けられがちですが、子どものころからこうした教育を行って正しい知識を身につけることが大切です。

そして講師を務めた小林さんは、「声をあげられる被害者はまだひと握りだ」と指摘しています。
性教育を通して被害を防ぐとともに、私たち大人も性暴力の実態を理解して、被害者が声をあげやすい環境を作る必要があると感じました。

今回取材を受けてくれたゆかさんも、はじめて人に被害を話せたのは31歳の時でした。

2019年に千葉県野田市で小学4年生の女の子が虐待を受けた末に死亡した事件など相次ぐ虐待事件や性犯罪の事件を受けて、自分に何かできることはないかと考え、自分の声で発信したいと思ったそうです。

被害者を1人でも減らすために、当事者の声を対策に反映させていくことが大切です。

 

  • 杉山加奈

    記者

    杉山加奈

    2018年入局 千葉局の事件・司法担当を経て、現在は富山局 行政担当

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