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国際女性デー③企業の女性リーダー 増やしていく手がかりは?

執筆者のアイコン画像杉山加奈(記者)
2023年03月14日 (火)

anatatokaetai.png3月8日は国連が定める「国際女性デー」
NHK富山放送局では「あなたと変えたい」をテーマに社会的・文化的に作られた性差=「ジェンダー」に関するさまざまな問題についてみなさんと考える特集をお伝えしています。 

①フェムテックの記事はこちら

②なぜ女性議員少ない?の記事はこちら

富山県 企業の女性リーダーなぜ少ない?

こちらは、国際女性デーにあわせて上智大学の三浦まり教授らが作る「地域からジェンダー平等研究会」から発表されたジェンダーギャップ指数です。

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※企業社長と役員・管理職の指数は元にしているデータが異なります。


富山県は企業の社長や管理職の数で全国的にみても男女格差が大きいことが浮き彫りになりました。


県内では製造業をはじめ伝統的に男性の比率が高い産業が多いことなどが背景にあるといわれています。

 

こうしたなか、男性社員が多い職場に初めて女性の管理職を登用した会社がさまざまな成果を上げています。
現場を取材しました。

 

女性管理職 増やしていく手がかりは?

 
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橋やトンネルなどインフラの検査業務を請け負う富山市の会社です。

従業員70人のうち男性が55人と男性がおよそ8割を占め、女性は15人です。

 

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総務部長の荒木和(あらき・むつみ)さん。
11年前、女性としてはこの会社で初めての部長職に抜擢されました。

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荒木和 総務部長
「最初、男性管理職しかいない状態で初めて女性の管理職になることについて、社員の皆さんはどう思うかとか、私にやっていけるんだろうかという不安はありました」

 


女性管理職の登用で社内の雰囲気は大きく変わり、より働きやすい職場になったと感じる社員も多いと言います。

 

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「子どもがもうすぐ生まれますと話をしたときに、育休取らなくていいのと逆に聞いていただいたので、気持ちよく思い切って、取らせてくださいと言えたと思います」

 

 

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「どうしても男性が多い職場なので、女性の意見が昔は通りにくかったんですけれども、荒木さんがいらっしゃることで女性の意見を言いやすくなった。会社に女性のロールモデルがいるということは、とても目標にもなりますし、相談しやすいのでとても助かっています」

 


女性管理職の登用で変わったのは社内の雰囲気だけではありません。


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荒木さんは、会社の検査業務に欠かせない技術職の資格を女性社員を含めてだれでも取得できるよう取り組みを推進。

資格試験のため1日1時間以上勉強をすると2000円が支給される制度を作りました。

 

 

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東出悦子社長
「弊社は資格ビジネスで検査の仕事は資格がないとできません。毎週決まった日に1時間以上決まった場所で自習をすれば手当を出すという制度にしたらどうかというアイデアが荒木の方から出てですね。いいねということでそれを実現した」

 

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「家に帰ると家事がありますし子どもの塾の送迎もあるので、家で集中して勉強する時間がとれない。会社が定時に終わって そこから1時間2時間で集中してできる、しかもお金がもらえるというのは、画期的な制度なのでいいなと思いました」

 

この結果、おととしの資格試験の合格者は前年の5倍にまで増加。
これまで主にベテランの男性社員が担ってきた検査業務の平準化にもつなげたいとしています。

 

さらに、この会社では、技術職の女性リーダーの育成につなげようと女性の採用にも力を入れ始めています。

 

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東出社長 「技術職は女性が1名だけいます。これからどんどん増やしていきたいなと思うのでぜひチャレンジしてください」

 

荒木総務部長
技術関係の仕事は元々女性が少ないです。この母数を増やしていかないとやっぱり女性リーダーは増えていかない

 

 


東出社長は、誰もがリーダーを目指せるような環境を作っていきたいといいます。

東出社長
「今大切なのは、社員1人1人が私たちはなぜこの仕事をしているのかを理解して、自分ごととして落とし込んで、自分のやりがいと社会貢献を結びつけて考えられるようになること。そこに男性や女性という分け隔てはなく、お客様に満足してもらうサービスを提供する時、気持ちよくみんなで一緒に仕事をする時に、やはりリーダーシップを取るということが大切になってくると思うんですね。実行する時にやっぱりリーダーになりたいとか、リーダーじゃないと自分のこの思いを達成できないと思える雰囲気作りというのがすごく大切」

 

この会社では、さらに女性リーダーの育成をするため、県が行う「女性リーダー塾」に女性社員を派遣しています。

 

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荒木さんは、「女性社員は事務職が多いので外部の人と接するが少ない。女性リーダー塾に行き、同じ立場の人と悩みや職場の取り組みを共有することで、会社に持ち帰ってきて、『うちでだったらこうできるんじゃないか』という提案ができるようになる」と話していました。

 

また、東出社長も、「意識が変わると自信を持って自分の力を発揮できる。すごくいいものをたくさん持ってるのに、それをできないと思い込んでいる人が多く、そこを解放する意味がある。女性リーダー塾に行ってもらって、実際のびのびと女性リーダーとして活躍している人たちと交流することによって自分の中で規制していた思い込みが外れて、自分もやっていいんだと、リーダーとして楽しく仕事ができるんだと思ってもらえる。リーダー塾を卒業した人たちは、しっかりと自分の意見を言えるようになりますし、トップダウンのリーダーシップではなくて、チームで目標達成するというリーダーシップを発揮できるようになっている」と効果を実感しているといいます。

 

女性管理職を増やす意味

そもそもなぜ女性管理職を増やしていくべきなのでしょうか。


労働社会学が専門の富山大学経済学部の中村真由美教授は、
「高度経済成長期を背景に生まれた、男性が仕事をして女性が家事育児を担うという構造が女性の働く機会の損失につながっている。その結果女性管理職が少なくなっている構造の問題だ」と指摘します。

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海外の先進国では法律などで企業の女性役員の数を一定以上にするクオータ制と呼ばれる制度を定めているところもあります。

 

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 (出典)OECD 「Social and Welfare Statistics」

※EUは、各国の優良企業銘柄50社が対象。他の国はMSCI ACWI構成銘柄(2,900社 程度、大型、中型銘柄)の企業が対象。

先進国の企業役員に占める男女比率です。

日本の女性役員割合が1割ほどにとどまるのに対し、クオータ制を導入した国では30%から40%にまで改善しています。

 

そして、女性管理職のなり手が少ないという背景には、出産パートナーの転勤など女性が途中でキャリアを断念せざるを得ないさまざまな要因があります。

 

平成28年の調査では、国内では女性の半数近くが1人目の出産後に仕事を辞めているということです。

また、夫の転勤で家族帯同の場合、妻は国内転勤で4割、海外転勤で8割が離職しています。

 


こうした出産などがあっても女性が仕事を辞めずに続けられる働き方を実践している会社が富山市にあります。

 

女性のキャリアの障壁 出産や夫の転勤をどう乗り越える?

 

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富山市のWEB制作会社です。7年前に設立され、企業のホームページの制作などを担っています。
18人の社員のうち、半数の9人が県外に住みほとんどの仕事をリモートワークで行っています。

 

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会社の代表を務める富山市出身の増子愛(ますこ・めぐみ)さん。

以前、勤務していた会社で子育てをしながらフルタイムで働くことの大変さを知り、子育てと仕事を両立できる会社を目指して自ら起業しました。

増子愛社長
「フリーランスぐらいの自由さだったり、子育てとの両立できる柔軟性がありながら会社として働けるようなものがあってもいいんじゃないかな。現在18人中12人が子育て中です」


 
働きやすい会社を作りたいという増子さんの思いは思い切った人事制度に現れています。

2年前には、出産を控えた女性を採用。現在、女性は育休中ですが休暇明けに貴重な働き手になってもらおうと長期的な視点から採用しました。

増子社長
「育休の期間を待ってでもまた戻ってきてくれたときに、活躍してくれると思っていますし、本人にとってもキャリアがつながる人生にとっていい影響がある。長い目で見てトータルで企業としての合理性のある判断だと思います」


また出産だけではなく、夫の転勤や転職で移住を余儀なくされる女性へのサポートを行っています。


夫の海外への転職に伴って、都内にある会社を辞めることになったシステムエンジニアの女性を2022年、採用。
女性は今、カンボジアでリモートワークをしています。

 

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cambodia.jpg 「海外に転職する夫についていくとなると、企業をやめなければならなかったり、自分の仕事を諦めなければいけなかったりすると思うんです。私は今の職種でしたり業種がとても好きなので、やめたくはなかったんです。やめるかウエブルに入社させていただくかの2択だったので、私の中で崖っぷちの状態で救っていただいたという気持ちです」

 

会社は創業以来6期連続で黒字を維持

増子さんは、こうした女性社員のサポートを続けながら会社の利益を生み出していくことで新しいモデルケースになりたいと考えています。

 

増子社長 「コロナ禍でリモートワークで普及してきていて、リモートでも働ける、活躍ができるということは世の中に広まってきているかなと思います。一方でそれが、子育てとの両立や女性活躍の面に積極的に活用されているかというとまだまだこれからかなと思います。子育て中のメンバーであっても、世の中に役立って成果が出せて、これだけできるんだということを世の中にもアピールしていきたいです。その輪をもっともっと広げていきたいと思っています」

 

女性は管理職になりたがらないのか?

 

「そもそも女性は管理職になることを望んでいないのではないか」という声もあると思います。

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実際に、富山県の令和3年度の調査では、「管理職になりたい」と答えた女性は男性と比較して少なくなっています。

 

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一方、「女性が管理職に就く際に障害となるものは何か」についての質問で、回答の多かったものの上位4つを見てみると、「女性自身が管理職になることを希望していない」と考えている男女の割合は男性が42.6%なのに対し女性は28.4%になっています。男女間で「意識のずれ」が生じていることが分かります。

 

富山大学経済学部の中村真由美教授は、次のように指摘しています。

「女性は管理職になりたくないから管理職にはさせたらかわいそうだと、よかれと思って昇進させていないかもしれないが、女性の方は本当は昇進したいと思っているという意識のずれがある可能性もある長時間労働が改善され、家庭の家事育児が夫婦間でより分担が進めば、管理職になりたいという女性も増えてくる」

 

もちろん業態によってリモートワークができる会社とそうでない会社はあるとは思いますが、性別にかかわらずみんなが働きやすい職場環境を作るためにはまずは意識を変えることが重要だと思います。

 

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②なぜ女性議員少ない?の記事はこちら

 

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