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ジェネリック医薬品問題②不正の背景は?専門家に聞く

執筆者のアイコン画像富山局医薬品取材班
2023年02月15日 (水)

相次いで発覚したジェネリック医薬品の製造不正問題。
その影響と背景を全3回のシリーズでお伝えします。

第2回はジェネリック医薬品の専門家、武藤正樹さんに話を聞きます。
武藤さんは「相次いだ製造不正の背景には年々増加する社会保障費とそれを巡る国の政策があったのではないか」と指摘します。

第1回 疲弊する医療現場  はこちら
第3回 大手メーカー「このままでは危機的な状況」 はこちら

 

1. 相次いで発覚した不正 ~分岐点は2015年と2016年~

2020年の小林化工(福井県)の不正をはじめ、2021年の日医工(富山県)など、県内外のジェネリック医薬品企業で製造不正が相次いで発覚した問題。
影響は深刻で、2022年の調査では調査対象の医薬品およそ1万5000品目のうち、全体の3割近くの品目で出荷停止や出荷調整が行われていました(日本製薬団体連合会の調査による)。

なぜここまで多くの企業で不正が相次いだのか。各企業のガバナンスに問題があっただけではなく、背景にはジェネリック医薬品を取り巻く国の政策の影響があったのではないかと専門家は指摘します。

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薬事政策に詳しい日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会の武藤正樹(むとう・まさき)代表理事です。
武藤代表はジェネリック医薬品政策の転換点として2015年と2016年の国の動きを指摘しました。

武藤代表
「背景といえば何といっても2015年と2016年。これですね。2015年に何が起きたかというと、〈経済財政運営と改革の基本方針〉いわゆる〈骨太の方針〉で2020年までに(ジェネリック医薬品の使用割合を)80%にするという目標ができました。一方、その翌年2016年になると薬価を絞り込むという薬価抑制策がとられました。これが効きました。メーカーは80%目標に向けて走り出してどんどん増産していた。それにもかかわらず2016年、薬価を下落させる政策になったので、結局品質の方がおろそかになってしまった。それで今回の問題につながったのではないでしょうか。2015年と2016年が分岐点でした」

 

2. 「骨太の方針2015」と「薬価の引き下げ」

2015年と2016年に何が起きたのか。

まずは2015年に国が定めた「骨太の方針」です。その中で国が示したのが当時56%ほどしか普及していなかったジェネリック医薬品の使用割合を2020年までの5年間で80%に拡大する目標でした。

実際「骨太の方針」の策定後にジェネリック医薬品の使用割合は2020年には78.3%、2022年には79.0%(速報値)に達しました。

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一方で「2020年までに80%」の数値目標を踏まえメーカーが増産に切り替えた矢先の2016年、もう一つの方針が国によって定められました。それが薬価」改定頻度の見直しです。

「薬価」とは?
医療用医薬品に対して国が定めた価格のこと。
※一般の商品と異なり、医療用医薬品は製造者が価格を自由に設定できず、国が定めた「薬価」に従って販売される。

 

ジェネリック医薬品は先発医薬品より開発費がかからないため、同じ成分の薬でも先発品より低い薬価がもともと設定されています。

利益率が非常に低い医薬品や採算が取れない医薬品(不採算品)も発生しています。

2016年に国が定めたのはこの薬価の改定頻度を増やすこと

2年に1度行われていた薬価の改定を毎年行うことで薬価の年平均下落率は2.4%から5.0%へと倍増したのです。

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武藤代表は「メーカーが品質確保のための規定を守ることは大前提だ」とした上で、この2015年から2016年の一連の政策でメーカーが品質を維持するための設備や人材を確保することや、余裕をもった製造スケジュールを組むのが難しくなったことが、数々の品質問題につながった要因の1つではないかと指摘します。

武藤代表
「メーカーは(2015年の〈骨太の方針〉を受けて)80%目標に向けてどんどん増産した。一方、国は2016年に薬価の引き下げペースを加速させた。(メーカーは)生産を拡大したものの、薬からあがる利益が減り、結局品質に対する投資が全くできていなかったということ。それが一番大きな問題だと思います」

 

3. 背景には増大する社会保障費

この一連の政策が行われた背景には何があったのか。

武藤代表は高齢化で増大する社会保障費の問題があると指摘します。

2014年に30兆円を超えた社会保障費(社会保障関係費)は年々増加を続けています。

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武藤代表
「国のモチベーションはまさに医療費削減です。国としてはジェネリック医薬品をどんどん進めるという方針で、医療費を減らしていく、そういう立場だったんです」


先発品より安価なジェネリック医薬品。その使用を拡大することで、社会保障費を削減することが国のねらいでした。

実際、薬価の引き下げとジェネリック医薬品拡大の影響で社会保障費は年間500億円から1500億円の削減効果がありました。

4.高すぎた目標

実は、武藤代表は2015年の「骨太の方針」で80%目標を策定する際に、ワーキンググループの一員として検討会に参加していました。

検討会では製薬団体からジェネリック医薬品の使用割合を2020年までに80%へ拡大する方針に対して、増産体制の整備の点から懸念も示されました。

しかし、医療費削減は当時から喫緊の課題であり、ワーキンググループの議論はメーカー側にも一定の理解を求める形で決着しました。

武藤さんは当時のワーキンググループの判断を振り返ってこう語りました。

武藤代表
「当時は2020年で(80%目標は)達成可能なのではないかと思いましたね。ただ結果から見ると2020年までに80%と言う目標はとても高かった。高すぎたんですね。非常に反省しています」

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5. 薬不足の解消は2024年末以降? まずは業界の自助努力を

こうした経緯を経て、ジェネリック医薬品の使用割合は2022年には79%まで拡大しましたが、メーカーによる不正製造の問題が相次いで発覚。その影響で現在も深刻な薬不足が続いています。

この供給不安はいつ解消されるのでしょうか?

武藤代表は解消は早くても2024年末、場合によってはそれ以降になるのではないかと指摘しています。

武藤代表
「いま各メーカーが増産体制に入っています。しかし増産するには工場の整備などで5年ほどかかります。増産といっても右から左にすぐできるわけではありません。もともとジェネリックメーカーは多品種・少量生産をやっており、きわめて緻密な生産計画のもとに製造しています。ほとんどフルラインを稼働しているので、これをさらに増やすのはそう簡単ではありません。うまくいっても(薬不足の解消は)2024年末までかかるのではないかと。さらに円安物価高が相まって影響を受けると、もっと延びるかもしれません


そして「安心してジェネリック医薬品を服用できる状況を取り戻す」ために、武藤代表はまず業界団体の自助努力が欠かせないと指摘します。

武藤代表
「まずはジェネリック業界そのものが変わっていかないといけないと思います。まずは自分が変わっていかないと、つまりそうした自助努力をしない企業に対して誰も周りから応援しませんからね。まずは業界団体の自己改革プラン、それを期待したいと思います」

 

6. 「薬価頼みの財源確保策はそろそろ限界」

 そのうえで、武藤代表は現在の薬価制度は限界に近付いており、政策の抜本的な見直しも必要だと指摘します。

武藤代表
薬価頼みの財源確保策はもうそろそろ限界なのではないですかね。ジェネリックから多くの不祥事が起こるというゆがみが出てきたわけです。これは見直しのちょうど良い機会です。やはり品質にもう一回立ち返って、徹底的な品質管理に対する投資、人材に対する投資、設備に対する投資、品質政策に転換したほうがいいと思います

 

現在、国の有識者検討会(医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会)では2023年度の薬価制度などを含めた議論が始まっています。

武藤代表は、利益率の低い医薬品や不採算品目を生産し続ける企業にメリットがある仕組みを作ること、多品種・少量生産が当たり前になっている産業構造の見直しなど、抜本的な改革案が打ち出されることを期待したいと語りました。

 


 

シリーズ ジェネリック医薬品問題
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