2018年8月6日(月)

実は観光名所ぞろい!歴女・小栗さくらと、新国立競技場を囲む千駄ヶ谷&神宮外苑エリアを巡ってみた

2020年東京オリンピックのメイン会場・新国立競技場が位置する千駄ヶ谷&神宮外苑エリア。今回この場所を訪れたのは、“歴史タレント”として全国各地のご当地イベントにひっぱりだこの小栗さくらさん。「一番好きな歴史上の人物は、勝海舟らとともにアメリカに渡った幕末の幕府高官・小栗上野介(おぐり・こうずけのすけ)」と話す小栗さん、駒澤大学歴史学科を卒業、博物館学芸員の資格を持つ本格歴女です。

千駄ヶ谷&神宮外苑エリアは「観光名所を巡りながら自分の持つ歴史の知識をさらに深めたい」という小栗さんにぴったりの場所。都心にありながら緑豊かで歴史的建造物も多く、見どころがたっぷりです。今回、街散歩にご同行いただいたのは、東京で観光ボランティア活動をしている“東京シティガイドクラブ”の岡部俊夫さん。ガイド歴16年のベテランです。小栗さんの旺盛な探求心を満たすべく、各スポットの見どころや歴史的背景を岡部さんにたっぷり教えてもらいました。

1. 建設が進む「新国立競技場」の魅力は“自然との調和”

神宮外苑は、各種スポーツ施設がそろう広大な公園です。1924年に日本初の本格的な陸上競技場(明治神宮競技場)が建設され、後に野球場、相撲場、水泳場などのスポーツ施設が造成されます。戦後、明治神宮競技場は国立競技場として建て替えられ、1964年の東京オリンピックでは、開・閉会式、陸上競技、サッカー、馬術が行われました。

小栗

なぜ神宮外苑周辺にはスポーツ施設がたくさん造られたのでしょうか? この場所に陸軍の青山練兵場があったことは関係していますか?

岡部

まだ東海道が整備される前、現在の青山通りは大山街道と呼ばれる西に向かう主要な街道でした。江戸時代には、大名屋敷が多くあった場所でもあります。明治期になり青山練兵場が造られたのは、この場所が広大な平坦地だったからです。明治天皇崩御の際、青山練兵場で「大喪の儀」が営まれ、その会場跡地に国民の体力の向上や心身の鍛錬の場としてスポーツ施設が造成されました。

小栗

都内には坂が多いスポットが意外と多いのですが、確かにこの周辺はわりと平坦ですね。そうした地形的なことも関係しているんですね。

2020年の東京オリンピックでは開・閉会式、陸上競技、サッカーが行われる予定となっており、現在、着々と建築工事が進んでいる新国立競技場。周りをぐるりと囲む建築用の足場が徐々に撤去されて、完成した屋根の部分を見ることができるようになってきました。

小栗

最新の建築物に木材が使われているのは意外。周囲の緑と調和していますね。

岡部

新国立競技場は建築家・隈研吾氏の設計です。隈研吾氏設計の建築物は都内にたくさんあります。

小栗

隈研吾さん設計の建物巡りをしてみるのも楽しそうですね。

2. 篤姫が晩年を過ごした徳川邸跡に建つ「東京体育館」

千駄ケ谷駅改札口のはす向かいにある、宇宙船のような外観の東京体育館。1964年の東京オリンピックでは、体操、水球の会場として使用されました。現在の建物は1990年に改築竣工したもの。現在は休館してバリアフリー改修工事などを行っています。東京2020オリンピックでは卓球会場となることが決定しています。

小栗

未来をイメージして造られたんだと思いますが、それがかえってレトロチックにも感じられますね。これからできる新国立競技場は木材が使われていて、30年近く前にできた東京体育館はメタリックを基調としている。時代の移り変わりっておもしろいなと感じます。ここは江戸時代、紀伊徳川家の土地だった場所ですよね。江戸時代から昭和の木造建築や鉄筋コンクリートの洋館の名残を見ることはできるのでしょうか?

岡部

東京体育館・千駄ケ谷駅前付近は、徳川家の屋敷地でした。明治初期まで篤姫でおなじみの天璋院が晩年を過ごされた地でもあります。戦後、駐留軍将校宿舎が置かれ、接収解除後にスポーツ施設が建設されました。残念ながらここには遺構などは残っていませんが、この周辺だと結婚式場で知られる「明治記念館」や明治天皇の遺徳を記念する「聖徳記念絵画館」で当時の建築物の面影を垣間見ることができます。

小栗

薩摩出身でありながら、徳川家のために尽くした天璋院の終の棲家と考えると、特別な場所に思えますね。また、この場所では明治天皇が、徳川旧家臣たちの流鏑馬を天覧されたとも聞きます。そういう意味では明治からスポーツにゆかりのある場所といえそうですね。

3. 富士登山と同様のご利益にあずかれる「鳩森八幡神社」

鳩森八幡神社は平安時代に創建されたといわれる由緒ある神社。江戸時代に上棟した欅造りの社殿は戦災により焼失してしまいました。現在の社殿は戦後数回の復興事業が行われ、1993年に竣工したものだそうです。境内にある「千駄ヶ谷の富士塚」は1789年の築造といわれ(関東大震災後に修復)、東京都の有形民俗文化財に指定されています。

小栗

富士山信仰による富士塚は、今でいうパワースポットだと思いますが、現在もパワースポットとして訪れる人は多いですか?

岡部

古くから噴火を繰り返す富士山には神霊が宿っているといわれ、江戸時代は富士信仰が盛んでした。江戸からも参拝に行く人がたくさんいましたが、富士山まで行けない子どもや女性(江戸時代、富士山は女人禁制だった)のために、寺社に山を造り信仰したのが富士塚です。都内には他に、品川神社、鉄砲洲稲荷神社、小野照崎神社、駒込富士神社などに富士塚が残っており、現在もたくさんの人が訪れています。

小栗

昔も今も、日本人にとって富士山はシンボルなのですね。富士塚や日本庭園など、小さな場所に縮小した世界を作るというのは日本人らしいと感じます。今日も子どもたちが自由に富士塚に登っていました。こんなふうに伝統が受け継がれているのはいいですね。

4. 有名棋士たちが熱い対局を繰り広げる「将棋会館」

鳩森八幡神社の向かいにある建物。日本将棋連盟が拠点を置く将棋会館です。建物の入り口の「将棋会館」の文字、テレビなどで目にしたことがありませんか? この建物の4、5階に、国民栄誉賞を受賞した羽生善治竜王や史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太七段をはじめとする棋士のみなさんが熱戦を行う対局室があるのです。1階には将棋グッズが購入できる売店、2階には一般の将棋ファンが対局を楽しめる道場もあります。

小栗

将棋の起源には諸説ありますが、いつごろから盛んになったのでしょうか?

岡部

古くは平安期から始まったといわれており、実際に平安期の遺跡から将棋駒が出土しています。江戸期には大名から庶民まで楽しめるゲームとして盛んになりました。明治期には、当時の新聞社が主催する名人戦などが開催され、さらに人気になったといわれています。

小栗

鳩森八幡神社の境内に「将棋堂」というお堂がありましたが、将棋会館と関係があるのでしょうか。

岡部

「将棋堂」にまつられている高さ1.2メートルもの大きな将棋の駒は、1986年に当時の日本将棋連盟会長・大山康晴名人が中心となり奉納したものです。以降、鳩森八幡神社は将棋の技術向上を祈る“将棋の聖地”としても知られています。

小栗

将棋会館でスキルを磨いて、鳩森八幡神社で必勝祈願。将棋好きの方はセットで訪れるのがおすすめですね。

5. 激動の時代を見つめ続けてきた「聖徳記念絵画館」

聖徳記念絵画館は神宮外苑のシンボル的な建物。明治天皇の事績を後世に伝えるため、著名な画家たちが描いた絵画が展示されています。1926年に竣工した、日本の建築技術の発展を知るうえでも重要とされる建築物で、周囲の池などを含め国の重要文化財に指定されています。

小栗

とてもSNS映えしそうな建物ですね。大正時代に造られたとのことですが、戦災には遭わなかったのですか?

岡部

東京大空襲でも奇跡的に焼けることなく、当時の姿を今に伝えています。いちょう並木から絵画館を望む景色は撮影におすすめです。日没後はライトアップされて、壮麗な建物が光によって幻想的に浮かび上がります。

小栗

ライトアップ、いいですね! 暗くなってからの雰囲気もぜひ味わいに来てみたいと思います。

6. 四季折々に変わる色彩が見事な神宮外苑の「いちょう並木」

映画やドラマでも度々登場する神宮外苑のいちょう並木。春夏は緑が美しく、秋は黄金色に輝く都内でも有数の観光名所です。神宮外苑いちょう並木ができたのは1923年。絵画館を中心にして青山通りに向かって約300メートルの直線の歩道を造り、イチョウの木を植えました。

小栗

テレビなどでよく目にする景色ですが、実際に来たのは初めてです。木の高さがきれいにそろっていますね。

岡部

絵画館から眺めたときの景観を重視して、青山通りに向かって1メートルほど高くなっている勾配を計算したうえで1本1本イチョウの木の高さを調整して植えられているんです。絵画館前からいちょう並木、青山通りへの道は、都心でありながら季節の移り変わりを感じられる場所として人気です。特に紅葉の時季は「東京で一番秋が見える」と形容されています。

小栗

すごくこだわって造られた景観なんですね。秋のイメージが強いですが、深緑の並木もとてもきれい。木漏れ日がとても美しかったです。千駄ヶ谷&神宮外苑エリアは写真映えする場所がとても多く、のんびりと楽しめる大人のスポットですね。歴史とスポーツと近現代、さまざまなものが融合していて充実した場所だと思いました。訪れるたびに新しい発見がありそう。お休みの日にまたお散歩に来たいです。

四季折々の景観が楽しめる広い公園があって、歴史ファンの知的好奇心をそそる場所も点在する千駄ヶ谷&神宮外苑エリア。木々の緑と都会の街並み、さらに歴史の趣までもがこれだけそろう場所は、日本中でここだけかもしれません。日本のスポーツの歴史を刻んできた競技場や体育館が集まっている場所でもあり、2020年に向けた新しい姿も見え始めてきました。東京に住んでいる人も、ちょっと離れた地方の人も、この機会に千駄ヶ谷&神宮外苑エリアを訪れてみませんか?