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負けないけど勝てない・・・昇格へのカギは

  • 2022年11月14日

「負けないけど勝てない」。ことし、サッカーJ2徳島ヴォルティスを担当した私(平安)がチームに抱いた印象です。全42試合の半分以上にあたる「23」引き分けはJ2最多記録を更新しました。終盤に調子を上げながら勝ちきれなかったチームに必要なこととは、「リスクを恐れず攻める姿勢」でした。

実はあと一歩で自動昇格?もったいなかったシーズン

ことしのヴォルティスは13勝6敗23引き分けで8位。勝てばJ1参入プレーオフ進出がほぼ確実だった最終節で敗れ、8位でシーズンを終えました。ところが総失点数はJ2優勝の新潟と並ぶリーグ最少で、6試合しか負けていないともいえます。
この数字をどう評価すればいいのか。NHKサッカー解説の早野宏史さんはヴォルティスについて、しっかり組み立てて崩す戦術が全員に浸透したチームだと評価した上で、このシーズンは「もったいなかった」と惜しみました。

NHKサッカー解説 早野宏史さん
「負けてないとは思うんだけど、やっぱり勝つという所にこだわったほうがいいなと思うシーズンですね。引き分けの試合の3分の1でも勝っていれば(2位の)横浜FCより上だったかもしれない。試合はコントロールしていても相手が嫌がることをしてダメージを与えるところまでは行っていなかったと思います」

早野さんがポイントの1つにあげたのは、試合中にボールを保持している割合を示す「ポゼッション率」です。
ボールを長く保持していればゴールを奪う機会が多くなるため、この割合の高さが試合を優位に進めているかの目安になります。ヴォルティスは就任2年目でスペイン出身のダニエル ポヤトス監督のもと、ボールを保持しながらスペースを見つけて攻める戦術を続けてきました。
しかし早野さんは、ボールを回して高いポゼッション率を出していてもゴールに向かう姿勢がなければ勝利にはつながらないと指摘します。

勝負を分けたリスクへの感度

その課題がはっきりと表れたのが最終節でした。J1参入プレーオフ圏内の6位につけていたヴォルティスは、アウェーで8位の山形との直接対決となりました。しかし試合序盤にキーパーから中盤につなごうとしたパスを自陣深くで山形に奪われ、先制点を許しました。結局、プレーオフ進出をかけた大一番を0対3の大差で落とし、勝った山形が進出しました。早野さんはリスクを恐れずゴールを奪う姿勢をどれだけ持てるかが、正念場での1点に対する感度を左右するといいます。

NHKサッカー解説 早野宏史さん
「山形も勝たないといけないんで必死なんですよ。『どうせ徳島はつないでくるから、とったらいける』と前から前から来てやられた。攻めるスイッチを押すときには、逆に言えば守備のリスクマネジメントが同時に発生しているわけですが、徳島にはそれがあまりなかったんじゃないのかな。ミスからボールをとられて失点したのは、速い攻撃に対してのリスクマネジメントがなかった典型だと思います」

ゼロから積み上げた道のり

一方でヴォルティスがこの1年で積み上げたものにも目を向ける必要があります。
大塚製薬サッカー部が前身のヴォルティスは2005年にJ2に参加して以来、J1で戦ったのは2014年と2021年の2シーズンだけでした。J2に降格して迎えたことしは主力メンバーが抜けて若手主体へと大きく陣容が変わり、前半を終えて16位と低迷していました。

ダニエル ポヤトス監督
「まだコロナがはやっている時期で充実したプレシーズンも送ることができなかったところもありましたし、選手の入れ代わりであったり自分たちがコントロールできないところで本当に困難なチーム状況があったと思います」

補強でかみあう戦術

チーム浮上のきっかけとなったのが途中加入の選手たちです。J1の川崎で2度の優勝に貢献した右サイドバックのエウシーニョ選手や、福岡からヴォルティス復帰となったミッドフィルダーの杉本太郎選手を獲得しました。

エウシーニョ選手・杉本太郎選手

攻撃に厚みが増してサイドと中央のどちらからでも攻められるようになり、チームの核となる選手ができたことでボールを保持して崩す戦術もチーム全体に浸透していきました。チームの強化責任者も、選手の補強がシーズン終盤の好調につながったと話しています。

強化本部長 岡田明彦さん
「好調になった要因はやっぱり一人一人が戦術理解も含めて成長したことです。エウシーニョ選手のような、個人技術だったり判断を変えてしっかり相手の急所をついていくというプレーをする選手が身近にいることで、彼を模範にしながら、少しでも前にスペースがあるならそこを狙っていくという共通意識が得られたことが大きいと思います」

チームの成長が現れたのがプレーオフ争いも佳境となった10月の町田戦です。
1点をリードされて前半を折り返しましたが後半に2点を奪い、引き分け続きだったチームにとってシーズン初の逆転勝利となりました。

サイドのクロスからこぼれたボールをエウシーニョ選手が押し込み決勝点をあげた展開について、全試合に出場した白井永地選手は「自分たちが信じて続けた結果がつながった試合だった」とベストゲームにあげています。ダニエル ポヤトス監督も「シーズンの終盤はJ2でトップに入るようないい戦い方ができた」と胸を張る成長ぶりでした。

8か月に及ぶシーズンを戦い抜いた選手たちも、順位だけでは測れないこれまでの道のりに次への手応えを感じています。

副キャプテン 西谷和希選手
「本当にゼロからスタートみたいな感じだったので、チーム作りをすれば1年間で変わるんだなっていうのが体験できました。こうしておけばよかったというのは多分ない、というかそのときに戻ったらできないだろうなっていう感じだったので。ブレなければみんな(戦術を)理解してしっかりとサッカーが成り立っていくんだなっていうのを(監督の)ダニから勉強させてもらった」

キャプテン 石井秀典選手
「本当に厳しいシーズンでしたけど、みんなが考えてそれを実践できるようになって終盤につながりました。その経験はただの経験に済ませてはいけなくて、次につなげるために自分たちが強くなる、いいきっかけになると思います」

取材後記

入局4年目の私にとって、1年を通してヴォルティスを取材したのは、このシーズンが初めてでした。山形の現地で見届けた最終戦では駆けつけたサポートとともに悔しい思いをしましたが、インタビューした選手たちは経験を糧にして、すでに前を向いています。「Love Vortis」のサポーターたちとともに、チームがどんな成長を見せてくれるのか。来年も注目していきたいと思います。

  • 平安 大祐

    徳島局・記者

    平安 大祐

    2019年入局
    スポーツ・防災を担当
    サッカーやバスケ観戦が週末の楽しみ

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